俳優・井浦新が「本気度120%のSDGsシャンプー」をつくった理由【後編】
これからのものづくりにサステナビリティは欠かせない視点。地球環境は守られているか。働く人たちへの配慮がされているか。残すべき伝統がきちんと次世代へ継承されているか。私たちはつくられた背景に賛同し、応援する気持ちで選びたい。つくり手の思いを聞きに、ものづくりの現場を訪ねました。今回は、鹿児島県のボタニカルファクトリーへ。
自然の恵みを活かした
循環するものづくり
その工場は本州最南端、大隅半島の南、鹿児島県・南大隅町にある。森も海もあり、温帯と亜熱帯の気候が混在する土地には、約4000種類の植物が群生している。力強い大地の恵みをそのまま詰め込んだかのようなコスメが生まれている場所を訪ねてみると、そこは森の高台にある廃校だった。教室をリノベーションした空間はきちんと整えられ、特産品のタンカンやパッションフルーツ、ホーリーバジルやレモングラスなどを原料に、成分の抽出からボトル詰めまで、大掛かりな設備などはなく、ほとんどの工程が手作業で行われている。
12名ほどのスタッフが、小さな工場で一つひとつのボトルとじっくり向き合う、予想をはるかに超えた丁寧なものづくりに心動かされた。大阪で化粧品関連の事業を経験した後、南大隅の植物を利用した自然由来成分100%のプロダクトをつくろうと、故郷でボタニカルファクトリーを立ち上げた代表の黒木靖之さん。
「それまでケミカルな成分をつかった製品にも携わっていましたが、生まれてきた娘のアトピー性皮膚炎をどうにかしてあげたいと悩んでいたことが大きかったですね。当時は知り合いの大学の先生のところへ行って、いい軟膏をつくってもらえないかと必死で相談したりしていましたが、そうするうちにナチュラルな石鹸がいいということがわかった。化粧品に対する考え方が180度変わりました」
そして16年前、前身となる会社を立ち上げて石鹸づくりを始め、さらに2016年からは廃校を再活用し「僻地に産業を興す」をミッションに、持続可能な観光業を促す取り組みも行っている。
「ここでは傷などの理由で捨てられる果物をすべて買い取ってアップサイクルしていますが、それが普通になれば、廃棄物の削減つながるだけでなく、農業に従事する方のモチベーションも上がり、地域がものづくりの場としても面白くなる。20年近く前、ヨーロッパでハーバルコスメの現場を訪ねたとき、ラベンダー畑の隣に抽出工場や化粧品工場、下請け工場があって、パッチテストができる皮膚クリニックが併設されていた。皆が助け合い、循環している産業の姿に、世界の縮図を見たように感じたのも、自分にとってのパラダイムシフトになりました」
地産の天然原料を活かし、アップサイクル素材からプロダクトを製造することで、肌にもやさしい持続可能な化粧品が生まれる。もちろん「Kruhi」のシャンプーもこうした背景から生まれている。しかも、その最高峰だという黒木さん。
「通常の石鹸シャンプー+リンスの組み合わせを、石鹸シャンプー+トリートメントにして仕上がりを追求した、なかなかない製品になっていると思いますね。普通、受注製造するのは、たくさん売りたいからという人が多いんですが、彼らはそれを第一義にしていない。とにかく、いいものを世に出したいんだと。その姿勢に応えるべく日々取り組んでいます」
Kruhiが生まれる南大隅町へ、家族でたびたび訪れている新さんは、そのものづくりの環境を「夢みたいだ」という。
「大隅半島に行くと、ずっとワクワクしっぱなしなんですよね。最初に訪れたときは、左に山、右に海を眺めながら南へ走る、その道がとにかく素敵だった。工場のまわりには山があって、青い空があって、海が見渡せる。大自然の中で、自然由来のものだけを詰め込んでつくっていくのに、本当に適した場所なんですよね」
シャンプーのことで湧いた悩みや疑問をきっかけに、家族全員で環境問題について意見を言い合うことができたのも、Kruhiが生まれてひとつの方向へ向かっていく力になったという新さん。
「暮らしの豊かさって、人それぞれだと思うんですよね。自分たちにとっては、心も体も健康であって、暮らしのなかで、なるべく意味のあるものをつかうことによって誰かが幸せになったり、社会貢献できたり、地域問題や環境問題などにも寄り添っていけたりすることこそが、豊かさなんじゃないかなと感じています」
ボタニカルファクトリー
新さんも参加した35種類の天然アロマからつくるオリジナルフレグランスのワークショップも。鹿児島県肝属郡南大隅町根占辺田3222。botanical.co.jp
●情報は、FRaU2023年1月号発売時点のものです。
Photo:Satoko Imazu ,Fumihiko Ikemoto Text & Edit:Asuka Ochi
Composition:林愛子