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すぐれた木彫芸術とアイヌ民族の歴史にふれる『木彫り熊の申し子 藤戸竹喜 アイヌであればこそ』
すぐれた木彫芸術とアイヌ民族の歴史にふれる『木彫り熊の申し子 藤戸竹喜 アイヌであればこそ』
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すぐれた木彫芸術とアイヌ民族の歴史にふれる『木彫り熊の申し子 藤戸竹喜 アイヌであればこそ』

木彫芸術がこれほど豊かなものだったとは。会場に入って初めて藤戸竹喜の作品を目にした時、感嘆以上に驚きや衝撃を受けるだろう。大胆さと繊細さ、力強さと優しさ、さらには野生動物らしい猛々しさと無垢な愛らしさといった相反する魅力を放つ木彫りの熊たち。現在、東京ステーションギャラリーでは「木彫り熊の申し子 藤戸竹喜 アイヌであればこそ」展が開催されている。

《木登り熊》2017年、個人蔵、撮影:佐藤克秋

北海道美幌町で生まれ、旭川市で育った藤戸竹喜(ふじとたけき/1934-2018)は、木彫り熊の職人だった父親の下で12歳の頃から熊彫りを始める。その後、移り住んだ阿寒湖畔で才能を開花させ、数多くの木彫作品を生み出した。本展は初期から最晩年までの代表作80余点によって、不世出の木彫家である藤戸竹喜の全貌を東京で初めて紹介した展覧会だ。

《川の恵み》(部分)、2000年、鶴雅リゾート㈱蔵、撮影:佐藤克秋

藤戸竹喜の作品には淀みがない。制作にあたって一切デッサンをすることがなかったというが、それもうなずける。一気呵成に彫り上げられた熊をはじめとした動物たちが放つ躍動感には、長い研鑽によって身についた高い技術力と、木の中に動物を見出し、それを掘り出す天性の才能が同居している。

藤戸竹喜の作品には淀みがない。制作にあたって一切デッサンをすることがなかったというが、それもうなずける。一気呵成に彫り上げられた熊をはじめとした動物たちが放つ躍動感には、長い研鑽によって身についた高い技術力と、木の中に動物を見出し、それを掘り出す天性の才能が同居している。

《怒り熊》1964年、(一財)前田一歩園財団蔵、撮影:露口啓二
《全身を耳にして》(部分)、2002年、鶴雅リゾート㈱蔵、撮影:佐藤克秋

藤戸の作品でもう一つ驚くのは、細密な毛彫りだ。木彫りの熊というと、昭和の時代に多くの家にあった北海道土産の素朴な物を思い出すが、藤戸の彫る熊の柔らかな毛並みは、他では見られないリアリティある質感だ。その毛彫り技術は鳥や、細工物として展示されているヤシガニなどの海洋生物といった、藤戸のなかでは異色の作品群でも発揮されている。

《オジロワシ》1978年、個人蔵、撮影:露口啓二

このように熊以外の作品の充実ぶりに触れることができるのも、今回の展示のもうひとつの目玉だといえよう。特にアイヌ民族の先人たちの姿を等身大で彫った作品群は、単なる写実的描写にとどまらず、代々民族の歴史を受け継いできた者が持つ誇り高さや威厳と、大地に親しんで暮らして来たことで獲得した豊かさや力強さが伝わってくる。アイヌ民族の歴史について深く知りたくなるきっかけにもなるだろう。

左から《日川善次郎像》1991年、《杉村フサ像》《川上コヌサ像》1993年、3点とも個人蔵、撮影:佐藤克秋

展示の後半にある〈狼と少年の物語〉は、藤戸が80歳を過ぎてから制作された作品群だ。藤戸があたためてきた物語を19点の連作として表現したものだが、この19点だけでも展示が十分にできると思えるほど素晴らしい。明治29年に絶滅したといわれる狼(エゾオオカミ)と、狼に育てられた少年の物語は、「動物とアイヌと和人の物語を残したい」という藤戸の強い願いが込められている。

《狼と少年の物語》2016年、個人蔵、撮影:佐藤克秋

藤戸は80歳を超えてなお、旺盛な制作活動を続け、数々の賞を受けたり海外を含む多くの展覧会に出品し、対外的な評価も高まりつつあったが、2018年、84歳で惜しまれつつ亡くなった。筆者も含め今回の展覧会で初めてその存在を知った人も多いだろうが、アイヌ民族として、熊彫りとして、誇りをもって生きた彼の人生と見事な作品に触れられる、貴重な機会である。

文=水谷美紀

*「アイヌであればこそ」は、父親の言葉で、藤戸竹喜も同じ気持ちを受け継いでいたという。

お知らせ

「木彫り熊の申し子 藤戸竹喜 アイヌであればこそ」展
期間:2021年07月17日(土)〜2021年09月26日(日)
会場:東京ステーションギャラリー
住所:東京都千代田区丸の内1-9-1
時間:10:00〜18:00
金曜日 10:00~20:00
*入館は閉館 30 分前まで
休館日:9/6(月)、9/13(月)
入館料:一般 1,200 円、高校・大学生 1,000円、中学生以下無料
*障がい者手帳等持参の方は 100 円引き(介添者1名は無料)
TEL:03-3212-2485

東京ステーションギャラリー 公式サイト
東京ステーションギャラリー 特設サイト

主催:東京ステーションギャラリー[公益財団法人東日本鉄道文化財団]

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