ドイツのサステナブルをめぐる旅⑥ ローマ時代からの温泉リゾート「バーデン・バーデン」と美しき「黒い森」
環境先進国であり、SDGs達成度ランキング2021でも世界6位にランクインしているドイツ。トラベルライターの鈴木博美さんが、そんなドイツのサステナブルを巡ってレポートします。シリーズ最終回の舞台はドイツの南東、フランクフルトからICE 高速鉄道で南へ1時間30分ほどのところにあるバーデン・バーデン。瀟洒(しょうしゃ)な街並みとローマ時代から湧き出す温泉が有名なヨーロッパ屈指のリゾート地は、2021年に世界遺産に登録された「欧州7ヵ国11地域の温泉街」に含まれています。
歩行者にやさしいサステナブルな街
ローマ時代から多くの人びとを癒やし続けてきたヨーロッパを代表する温泉リゾート、バーデン・バーデン。周囲はシュヴァルツヴァルト(黒い森)と呼ばれる緑に囲まれ、ハイキングも手軽に楽しめる「歩いているだけで楽しい」街だ。景観づくりに力を注ぎ、バスでの移動が整備されているため、どこへ行くのにも便利。土地の自然や風土を感じつつ、リラックスしながら黒い森を歩こう。
2000年以上前に発見された温泉が湧くバーデン・バーデンは、古くから王侯貴族や文化人に愛されてきた。ドイツ語でバーデンは「入浴」を意味し、そこからこの地名がついたのだが、バーデンを2回繰り返す地名になった由来については諸説あるそうだ。この街では、とにかく散策が楽しい。大型バスでの市内へのアクセスは制限されており、街の中心・レオポルト広場はバス以外の車両は進入禁止。ショップやレストランが集まる目抜き通りは歩行者天国になっているなど、「歩ける街づくり」が徹底されているので、車を気にせず観光スポットを巡れる。
坂道を上がったり下ったりしながら、入り組んだ道をとくにアテもなく歩く。上写真、通りの突き当たりに見える美術館のような建物は、温泉施設「フリードリヒスバート」だ。1877年の創業で、入浴客は温熱蒸気浴、サウナ、水風呂、炭酸浴など17の浴場を順に巡るシステムをとっている。中央部にあるローマン・アイリッシュ浴場では、大理石の浴槽とアーチの天蓋にうっとり。ちなみにこちらでは、全裸&混浴! ヌーディズム先進国でもあるドイツでは、混浴を気にする人はあまりいないようだ。
古くからの高級リゾートであるからか、街の雰囲気もゆったりとしていて、訪れる者を優雅な気分にさせてくれる。街のところどころに温泉が湧出し、マンホールからも湯気が出ている。毎日80万リットル以上の温泉水が、68℃という高温で地中から湧き出ているそうだ。
この世でもっとも美しいといわれるカジノ
バーデン・バーデンにはカジノもあり、往年の大女優マレーネ・ディートリッヒに「世界で最も美しいカジノ」と評された。19世紀にフランス王宮をモデルにした高級療養施設内の娯楽として開設され、ドイツの格式と伝統、社交場の殿堂としていまも生き続けている。訪れた際にはぜひドレスアップして、その雰囲気を体験してほしい。男性はジャケットとネクタイ着用がオススメ。きっと「社交界デビュー」したかのような気分に浸れることだろう。
バーデン・バーデンのパノラマビューを眺める
街を流れるオース川に沿って南に伸びる「リヒテンターラー・アレー」は、美術館や瀟洒な邸宅が点在する散歩道。春から秋まではたくさんの花が咲き、水辺でオシドリやマガモが羽を休めている。緑の木立と川のせせらぎが心地よい。街なかにもかかわらず、美しい景観に癒やされる。
レオポルト広場から205番のバスに乗って、バーデン・バーデンの街を見渡せる絶景ポイント、メルクール山へ。車窓から風景を眺めていると、緑地で草を食(は)み、寝そべる羊の群れを発見! 住宅街のすぐそばで牧羊とはビックリだ。
バスを下りて目の前にあるのがケーブルカー乗り場。ドイツ最長のケーブルカーだ。標高668mの山頂を目指し、最大54%の急勾配を力強く進んでいく。山頂の「メルクールタワー」展望台からは、バーデン・バーデンの街、黒い森や渓谷、ライン川上流の平原など大パノラマが一望できる。
ふと山の斜面に目をやると、いくつものパラグライダーが風待ちをしていた。風をつかんだ瞬間に走り出し、大空へ飛び立っていく。パラグライダーは、動力をつかわず熱上昇風をとらえて高度を上げ、滑空をするエコなスポーツ。いつかチャレンジしてみたいアクティビティのひとつだ。
ケーブルカーで下山した後は、ハイキングルートの標識に沿って、街まで約4㎞の道のりを歩いて戻ることにした。集落が点在し、小川が流れる美しい景色と森林浴を満喫する。ドイツには昔から森を愛する文化がある。ハイキングは日常的で、さまざまなハイキングコースが整備されている。バーデン・バーデンを訪れたら、優雅なリゾートタウンとともに、黒い森の穏やかな自然もたっぷり楽しみたい。
何世紀にもわたって築かれてきた歴史と流行に敏感な街と、多様性に富んだ美しい自然を一度に楽しめるのがバーデン・バーデンの魅力。どれをとっても生き生きとしている理由は、環境保全への取り組みとサステナブル・ツーリズムに力を入れているからだろう。
Text:鈴木博美 協力:ドイツ観光局
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