電気も水もオール自給自足!「オフグリッドハウス」の住み心地
気候危機というグローバルな問題に、いま私たちは何をすべきなのでしょう。まずは、日本において、始まっているさまざまな取り組みに注目。今回は、オフグリットな暮らし方を実装した最新型の居住施設をご紹介します。
自然に寄り添い
エネルギーを大切につかう
オフグリッドという暮らし方
オフグリッドとは、電気、ガス、水道などを、公共インフラに依存せずに自給自足する状態のこと。停電や断水が大きな混乱を招いた東日本大震災以降に注目を集めたライフスタイルだ。太陽光発電をはじめとする自然エネルギーを用いるためCO2の削減にもつながると、気候危機への対応策としても効果が期待されている。
そんな暮らし方を実装した最新型の居住施設の実験場が、八ヶ岳の麓、標高1000mの場所に誕生した「オフグリッド・リビングラボ八ヶ岳」。各地にコリビングサービスを展開する「LivingAnywhere Commons」の運営元であるLIFULLと、社会インフラや環境テクノロジーに知見を持つベンチャー企業のU3イノベーションズがタッグを組み試作した、電気と水を100%自給する完全オフグリッドのドーム型ハウスだ。まずはグランピングなどが楽しめるレジャー施設としての実用化を目指している。
「これまでのオルタナティブな暮らしって、ストイックにガマンを強いられ、生活の質を下げてしまうものも少なくありませんでした。新しいライフスタイルは、好んで選ばれる状態になってはじめて社会に根づくもの。今回の取り組みでは、都会の便利な生活を極力そのままオフグリッドに置き換えることを意識しています」。そう話すのは、施設を運営する渡鳥ジョニーさん。以前は車で生活を送るなど長年オフグリッドな暮らしを模索する生活者のひとりだ。
住宅の基本となるのは、マシュマロのような形をしたインスタントハウスという施設。キッチンのあるLDK棟を中心に、寝室等の機能を持った2棟の住居棟、トイレやシャワーなどがある水回り棟、そしてエネルギー設備を集約したインフラ棟の5棟が連結し、100%オール電化で成り立っている。
電気は、駐車場の屋根に太陽光パネルが設置されたソーラーカーポート2棟で発電され、インフラ棟の蓄電設備へ。インバーターを介して室内に流れる仕組みだ。一方、水は住宅内で循環。生活排水をこれまたインフラ棟にある浄水設備で真水化。塩素殺菌を経て、一般的な水道水と近しい水質で室内の水道へ。こうした仕組みにより、スイッチを押せば電気がつき、蛇口を捻れば水が出る。一般的な住宅とほぼ変わらない暮らしが送れるというわけだ。「不便さを感じることはほとんどない」と話すのは半年間、週の半分をここで寝起きするプロジェクトリーダーの川島壮史さん。
「強いて言うなら、太陽光発電では曇りや雨の日にはどうしても発電力が減るもの。停電しないよう、どうやりくりするかは、生活者側が考えないといけません。でも本来、有限の資源を使ううえで、それは当たり前。太陽を意識するようになったことで、自然をより近くに感じて、日々新鮮な豊かさを感じられています。エネルギーを湯水のように使うのではなく、常に考えながら生活すること。これを新しい暮らしの形としてこのプロジェクトから提案していきたいです」
来春の実用化に向け実証実験を続けていくそう。今後の展望を渡鳥さんはこう話す。
「居住体験をしながらオフグリッドについて学んでもらえるような、サステナブルツーリズムの構想も進めています。いきなり住宅そのものをオフグリッドに替えるのは難しくても、遊びに来て、短期間滞在するだけならハードルは高くないはず。住宅展示場のように、気軽に未来の暮らしを体験できる場所として開き、ゆくゆくは自律分散型の社会をつくっていく助けになれたらいいですね」
オフグリッド・リビングラボ八ヶ岳
LivingAnywhere Commons八ヶ岳北杜の敷地内に設置された、住環境の実験施設。山梨県の支援を受けながら推進中。山梨県北杜市大泉町谷戸5460
●情報は、『FRaU SDGs MOOK 話そう、気候危機のこと。』発売時点のものです(2022年10月)。
Photo:Masanori Kaneshita Text & Edit:Emi Fukushima
Composition:林愛子