アーティスト・花井祐介が選ぶ「気候危機を実感できる本&映画」
難しい専門書でなくても、気候や環境の問題を多角的に学べる手段はたくさんあります。アーティストの花井祐介さんがオススメする本と映画を見てみましょう。
人間がつくり出した人工物が
自然や生物の循環を壊していく
映画『ダムネーション』には、自然環境に影響を及ぼす、人工のダムの問題が描かれています。建設されたダムの多くは、その場所にあった自然の循環を止め、川の姿を変貌させ、魚が戻らない状況をつくり出してしまいます。にもかかわらず、いまも新しくつくられているんです。映画の舞台はアメリカですが、日本でも、ダムのせいで山からの土砂が海に流れず、砂浜が後退するなどの問題が起きています。もともとつながっていた山と海とが分断されると、海に養分が流れなくなり、海の環境も変わってしまう。逗子の海岸も10年ほど前まで海藻がたくさんあったのが、いまは砂漠化が進みウニだらけになってしまいました。
ほかにも、テトラポッドなどが原因で流れが変わってしまったり、砂浜がなくなって海岸に降りられなくなったところもあります。僕はキレイな海で、いい波でサーフィンがしたいのに、どうしてこんなふうになっているのかなということから気候変動に興味を持ちました。劇中で、ダムが壊され、何十年も失われていた自然が本来の姿に戻って、魚が川へ帰ってくるなど、自然の強い回復力には心を動かされます。やはり、海が健康でなければ、気候危機も免れないと思います。
毎号読んでいる雑誌『ザ・サーファーズ・ジャーナル日本版』にも、海の気候変動のことがたびたび取り上げられています。サーフィンを文化的な視点で切り取っている雑誌ですが、海について知る本としてもオススメします。
『ザ・サーファーズ・ジャーナル日本版』
20年の歴史があるカリフォルニアが拠点のサーフィン専門誌。花井さんはひとコマ漫画を連載中。イラストは12.2(2022年8月発売号)。サイファー・コミュニケーション。
『ダムネーション』
アメリカ全土だけで7万5000基もあるダムを、撤去に導いていく人々の実話。パタゴニア提供。監督/ベン・ナイト&トラヴィス・ラメル。UNITED PEOPLE。
PROFILE
花井祐介 YUSUKE HANAI
アーティスト。1978年生まれ。海を愛し、2005年よりカリフォルニアのロングビーチの「The Surf Gallery」で作品の展示を開始。ブランドや企業とのコラボレーションも多数手がける。
●情報は、『FRaU SDGs MOOK 話そう、気候危機のこと。』発売時点のものです(2022年10月)。
Illustration:Toru Ogasawara Text:Emi Fukushima Text & Edit:Asuka Ochi
Composition:林愛子