食品ロスが招く気候危機を、「乾燥野菜」が救う!?【前編】
気候危機というグローバルな問題に、いま私たちは何をすべきなのでしょう。まずは、廃棄の問題に立ち向かおうとアクションを起こした熊本県の人たちに会いにいってきました。
年間400万トンの野菜が捨てられる
日本の食料廃棄事情を変えたい
「もったいない」という視点で語られることの多い食品ロスだが、それだけに留まらず、気候危機にも関わる大きな問題を抱えている。それは、捨てた食べ物がどこへ行くのかを考えてみれば明らか。廃棄された米や野菜は生ごみとして焼却処分される場合がほとんどで、それらを焼却すれば、当然CO2が発生する。水分を含んだ食品を燃やすのに、どれだけ多くのエネルギーが必要かは想像に難くないだろう。生ごみを埋め立てている国もあるが、それによってCO2の28倍以上もの温室効果があるメタンガスが発生してしまう。全世界の食料廃棄量は年間13億トン。これを燃やした際に出るCO2は、人間活動に由来するCO2排出量の約8%にあたる。大量の化石燃料を用いる飛行機から排出されるのが約1.4%。食品ロスは、航空産業よりはるかに気候危機に大きな影響を及ぼしているのだ。
廃棄だけでなく、生産や加工、流通など、食に関わるすべての活動を含む「食料システム」にまで目を向けてみれば、その排出量は温室効果ガス全体の3分の1にも上る。また、農場や工場で生み出された食材の3割以上が何らかの理由で食卓までたどり着かず、大量に廃棄されているその裏で、世界で8億人が飢餓に苦しんでいる現状をどう考えるべきか……。誰もが当事者として関わっている「食」には、幾多の複雑な問題が絡み合っている。
フランスやイタリアなど、スーパーマーケットの食品廃棄を法律で禁止する国もあるなかで、国別の食料廃棄量で中国、アメリカに次ぐワースト3位となる日本。そんな危機的状況を変えようと、動いている人たちがいる。廃棄の問題に立ち向かい、熊本県で動き始めたばかりの2つのアクションの現場を訪れた。
乾燥野菜プロジェクト
「UNDR12」とは?
最初に向かったのは、阿蘇の南東、高森町。ここに、乾燥廃棄やさいプロジェクト「UNDR12」を手掛けるhakkenの熊本拠点がある。このプロジェクトは、おいしく食べられるにもかかわらず、少し見た目が悪かったり、色やサイズがほかと違うなどの理由で弾かれ、流通せずに廃棄される野菜を農家から回収し、加工販売するというもの。
野菜の自由水分含有量を12%以下まで蒸発させ、乾燥野菜にすることで、保存料などを添加することなく、保存性の高い腐らない食材となり、旨みも凝縮される。乾燥トマトはそのまま食べても、パスタに加えても。葉物野菜はカレーに入れてもいい。つかい方はアイデア次第だ。パウダーやふりかけ商品も展開しており、生野菜が苦手な人でも食べやすい。プロジェクトを始めた、hakken代表の竹井淳平さんは、食品ロス問題に貢献したいと独学でノウハウを築き、手探りで事業を立ち上げた。
「まだ食べられるにもかかわらず、捨てている野菜が、日本で400万トンもあることを知りました。その量は、WFPが2020年に支援した、世界の貧困層への食料と同じくらいなんです。世界が8億人の貧困層に送っている米や麦、大豆や野菜、肉や卵の量と、日本で捨てられている野菜の量が一緒というのが、とても気持ちが悪かった。その矛盾や違和感に目をつぶったまま、別の仕事をしていても仕方がないと思ったんです」
前職で商社に勤めながら、有機農業の促進に関わったり、ブラジルやアフリカのモザンビークに駐在して農業や貧困層の世界に触れた経験が、そのような問題への関心を導いた。
「廃棄食品をつくるのにつかわれる土地面積は、オーストラリア2つ分くらいといわれています。一方、アマゾンの森林では年間10万件ほどの火災が起きていますが、その9割くらいは新しい畑をつくるために燃やしているもの。野菜を捨てなければ、畑はもういらないはずですよね。新しく畑をつくれば、そのための肥料も、食品を運ぶ車も必要になり、ガスが使用され、人が働く。アマゾンの森林を燃やし、ムダなものにエネルギーや資源をつかうことの影響は、気候危機にとってもとても大きいものだと思います」
●情報は、『FRaU SDGs MOOK 話そう、気候危機のこと。』発売時点のものです(2022年10月)。
Photo:Tetsuya Ito Text:Asuka Ochi Edit:Chizuru Atsuta
Composition:林愛子