マシンガンズ滝沢×介護芸人「みんなで笑ってハッピーになる認知症介護術!」
ごみ清掃芸人こと『マシンガンズ』滝沢秀一さん率いる「滝沢ごみクラブ」が、月に1度のペースでおこなってきたトークイベントに潜入! 最終回となる今回のゲストは、介護芸人として活動中の『マッハスピード豪速球』さかまき。さん。とかく厳しい側面ばかりが語られがちな「介護」ですが、さかまき。さんによれば、考え方次第で介護士の現場は笑いであふれるものに変わるそう。誰もが遅かれ早かれ迎える老後のために、どんな心構えが必要なのかも教えてくれました。
いかりや長介の「ダメだこりゃ!」で明るく乗り切る
記念すべき最終回のゲスト、『マッハスピード豪速球』さかまき。さん(以下、さかまき)は、デイサービス(通所介護)センターで10年以上も介護職員を務め、介護職+芸人=「介護芸人」として活動中だ。前半では、介護の現場はツッコミどころ満載で、まるでコントのような日々を送っていると教えてくれた。そして話題は「介護とごみ」に移っていく──。
さかまき 私、ごみ屋敷に住んでいる方の介護を担当したことがあるんですよ。
滝沢 そういえば、以前ゲストに招いた「お片づけ芸人」の柴田賢祐君も、このイベントで「家にごみを貯めこんで、ごみ屋敷にしてしまうのは、年輩の方に多い」って言っていたなあ(ごみ屋敷イベントの記事はこちら)。
さかまき 事前に「ごみ屋敷にお住まいの方のようだ」という情報だけ聞いていたので、その方が(デイサービスセンターに)来られる前は、正直、「ものすごく変な人だったらどうしよう」と焦っていたんです。が、実際にいらっしゃったのは、非常に腰が低いおじいちゃん。認知症も軽かったので、「あまり手がかからなそうだな」とホッとしました。ただ、その方、鼻をかんだティッシュペーパーや使用済みオムツを私が処分しようとすると、「それどうするの? エッ、捨てちゃうの? まだつかえるよ〜。置いといてよ。もったいない!」って言い出すんですよ。
滝沢 なるほど〜。モノがない時代を経験された方なんだろうね。
さかまき そうかもしれません。「じゃあこれ、カバンに入れておきますね」って言うと、とりあえず納得してくれるんで。いつも、そう言いつつこっそり捨ててたんです。保管しといたら不潔ですからね。そんなある日、そのおじいちゃんが昼ご飯を食べた後、食器を下げようとしたら、お皿にニンジンが残ってるじゃないですか! 「これはもったいなくないのかよ!」と心の中でツッコんでたら、案の定、「ねえ、それどうするの? 捨てるの?」と尋ねてきた。で、「食べますか?」と返したら、間髪置かず、「いや、食べないけどさ!」って……。食べないクセに食いぎみで。
滝沢 ツッコミどころ満載だなあ。それで、どうしたの?
さかまき 「私は食べないけど、外の小鳥にあげて」と言われたので、「わかりました、鳥にあげておきますね」と言いつつ処分しました。ウソも方便です!
2010年に結成された「マッハスピード豪速球」のさかまき。こと逆巻裕哉さん。「介護芸人」として「笑える」介護のリアルを綴った、『介護芸人のコントな世界』(代官山ブックス)が話題だ
滝沢 自分は食べたくないけど、捨てられちゃうのはイヤなんだね。そりゃあ、ご自宅もごみ屋敷になるわけだよ。いや〜、面白いなあ。このおじいちゃんみたいに笑えるケースはいいけど、介護士なんかやってると、正直、認知症の人にイラッとくることも多いんじゃないの?
さかまき そりゃもちろん、ありますよ。でも、認知症は病気なんです。そこからくる言動に、周囲はいちいち怒ってはいけない──これがボクの考えです。誰もがなり得る病気なんですし、多少、変な行動があったって仕方ないんです。ただ、明らかにその人の人間性に由来する暴言、暴力の場合は事情が変わってきます。居酒屋の店員さんだって、態度の悪いお客さんにニコニコ愛想を振りまく必要がないのと同様、介護職だって、「おい、お前」みたいな口のきき方をされたときには、ちゃんと抗議していいんです。ボクもそういう場合は、「乱暴な言い方はやめてください」とハッキリ注意します。介護職員は聖者である必要ははない。しかし、上から目線、セクハラ、暴力なんかに対しては、ガマンしないで怒っていいと思うんですよ。
滝沢 わかるわかる。ごみ清掃員もそうだよ。ごみを分別しないで捨てるどころか、集積所にごみをバラまいていくマナーの悪すぎるヤツだっているからね。清掃員は仕事だからそんなごみも収集するけど、オレたちだって怒ってもいいよな!
さかまき 状況って、捉え方でまったく変わってくるんですよね。イラッとした状況において、怒りを笑いに変える魔法の言葉があるんですよ。
滝沢 え〜。何だろ?
さかまき 「ダメだこりゃ!」です。昔の人気テレビ番組『ドリフ大爆笑』のコントでは、加藤茶さんや志村けんさんらが毎回大暴れして、ひどい目に遭ったいかりや長介さんがアキレ顔で「ダメだこりゃ!」って言ってオチにするのがお決まりでした。ボクがお笑い芸人だから、いかりやさんへのリスペクトだけで言っているわけじゃないんです。このセリフを口にすると、イラッとする状況が、とたんに滑稽に変わるんですよ。まさに、すべてを無効化しちゃう言葉。介護に限らず、夫婦ゲンカしてしまったときとか、上司にムカついたときだとかにも、「ダメだこりゃ!」はつかえますよ。
それぞれ「ごみ清掃」「介護」の分野で10年以上のキャリアをもちながら、芸人もつづけてきたふたり。SNSや動画サイトで、プロフェッショナルならではの発信を続けている
さかまき 介護する側が明るくなるだけではなく、介護される側も、認知症=幸せと感じられる場合があります。みなさん、それを知れば、認知症をもっと明るく捉えることができるんじゃないかな。
滝沢 えっ、どういうこと?
さかまき 介護してる最中、おばあちゃんに、「あのとき、北海道でおいしいお肉を食べたじゃない。あれって帯広だったっけ?」って突然聞かれたんです。どうやらボクのことを、十数年前に死に別れた夫と思い込んでいるようで……。そのおばあちゃんの目の届くところで、ほかの女性の介助をすると、「あの女、誰よ!」って嫉妬してくれるんです。彼女は、亡くなったはずの旦那さんが、いまでも存在してる世界を生きているわけです。ほかにも、しょっちゅう「船はまだですか?」と尋ねてくるおじいさんもいます。彼は昔、漁港でバリバリ働いていたらしいんですね。身体は思うように動かないけれど、いまも現役の海の男だと思っている。これって、すごく幸せなことじゃないですか? つまり、認知症が幸福感を与え得るってことなんですよ。
滝沢 そう考えたら、たしかに認知症が明るい印象になるなあ。
さかまき ですよね! 介護する側、される側ともに明るいイメージがもてれば、働き手不足も虐待も、介護ストレスもきっと解消していくと思います。
「いずれ誰かのお世話になる」ことを前提に生きる
滝沢 介護職には、どうしても重労働のイメージがあって、他人の命を預かるという重い責任もある。事業所自体が赤字のところも多くて、お給料が上がらないという問題もあります。でも、このまま国に頼っていたら介護システムは崩壊するので、新たな収入源をつくらなくてはならない。でも、具体的にどうしたらいいのかわからないというのが現状のようです。
さかまき おカネの面では、ちっとも明るくないですねえ。
滝沢 以前のイベントで紹介した、鹿児島県大崎町のシステムを採り入れたらいいんじゃないかと思うんですよ。大崎町では高価な焼却炉を設置せずにごみを分別してリサイクルに回し、浮いたおカネを町の教育費に回す取り組みをしています。このおカネを介護施設の運営に充てることも検討したらいいのではないかな。
さかまき なるほど〜。
滝沢 それと、老人ホームにはぜひコンポスト取り入れていただきたいです。コンポストに生ごみを入れるとそれを微生物が食べて分解し、堆肥ができるんですよ。それを活用して、園芸セラピーなんかをやったらいいんじゃないかなあ。植物を育てたり土に触れたりするのって、きっと人間の心にいい効果があると思うんです。ごみも減らせますし。
さかまき 植物を育てることが好きな高齢者は多いですね。また、「洗濯物を畳んでくれますか」「食器を並べておいていただけますか」など、お手伝いをお願いすると、ものすごく生き生きとした表情で、楽しそうにやってくれます。
お笑いコンビ『マシンガンズ』のメンバーにして、ごみ収集会社に勤務するごみ清掃員でもある滝沢さん。日々ごみと向き合うことで、さまざまな社会問題が見えてくるという
滝沢 やっぱり、誰かの役に立つとか社会参加するとかには、喜びがあるんだよなあ。シニア労働って、かなりポテンシャルが高いよね。
さかまき 認知症の方で、ものすごくギターがうまいなど、昔身につけた技術は忘れない場合も多いんですよ。だから、可能性はすごくあると思います。
滝沢 最後に聞きたいんだけど、高齢者施設で働く立場として、いちばん言いたいことって何?
さかまき このイベントをご覧になっている方含め、多くの人は、自分が将来、介護施設に入ることになるとはまったく考えていないでしょう。じつは、けっこうな確率で入所することになるんです! だから義務教育で学校に行くのと同じように、人間は歳を取ってある年齢になったら、大なり小なり介護施設の世話になるんだと思って生きたほうがいい。終活の一環として、高齢者施設を見学しておくことも大事。認知症になったら、自分で探せなくなっちゃいますから。
滝沢 たしかに、高齢者施設は大事なインフラのひとつだもんね。われわれも、いずれ何らかのサービスを受けるのは間違いない。先送りしないで、どんな施設で余生を過ごしたいのか考えておきましょう!
text:萩原はるな
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