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「職人の伝統技術」と「大切につかう人」をマッチング、次世代につなげる
「職人の伝統技術」と「大切につかう人」をマッチング、次世代につなげる
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「職人の伝統技術」と「大切につかう人」をマッチング、次世代につなげる

革小物、漆器、陶器……。日本で埋もれてしまっている最高級の職人技術と、自分だけの逸品を求める人たち。その両者をつなぐプラットフォームとして「CraftShips(以下、クラフトシップス)」を立ち上げた森川義仁さんは、伝統技術を途絶えさせないため、その価値を正しく市場に反映させていくため奮闘中です。彼が思い描く、壮大なサステナブル事業計画とは!?

――前編はこちらーーー

大量消費文化に一石を投じる

クラフトシップス代表の森川さんが、職人技術とオリジナルの逸品を求める人をつなぐ事業を思い立ったのは、ある革小物職人との出会いがきっかけだったという。

「私がいまつかっている名刺入れは、東京・台東区の革小物専門工房でつくられたものです。もう50年近くも革小物だけをつくり続けてきた職人さんがいらっしゃって、2年ほど前に製作現場を見せてもらったところ、アッという間に惹き込まれたんです。それから何度も工房に遊びに行って、いろいろ話をさせてもらっているうちに、『ものづくりの背景を知るって面白いな』と思うようになりました。

ひとつ一つの製品に込められている職人さんの熱量ってすごいんですよ。その背景を知り、実際につかうって楽しいし、とてつもなく豊かなことです。これが愛着を持てるということかなと感じ、そんなふうに思ってもらえる人を増やしたいと考えたんです。その職人さんとの出会いこそが、事業をはじめるきっかけでした」

石川県加賀市に、人間国宝の山中漆器の職人(左)を訪ねた森川さん(右)。実際に工房に足を運び、背景を知ることからつき合いがはじまる

そこにはSDGsマインドも込められている。

「いま、世の中の流れは、物のストーリーを大事にする傾向が強い。だから依頼を受けたときは、つくり手の想いや製作過程も丁寧に伝えるようにしています。製作に手間がかかる分、価格も大量生産のものよりは割高になりますが、そうやって手間ヒマのかかったいいものこそ『長くつかいたいな』と思えるじゃないですか。その結果、大量消費やつかい捨てをしない思想が増えてくれたらいい。

かつての日本人は、そういう習慣を持っていました。たとえば『器は直すもの』として、漆器(しっき)は漆(うるし)が剥げたら塗り直し、陶器は金継ぎをしてつかい続けてきました。そうした、ものを大切にする価値観ってすごくいいなと考えています。でも実際は、気に入ってつかい続けたくても、直し方がわからなかったりする。そんなつかい手と修復技術をつなぐのも、私たちの大事な役目のひとつです」

織物技術には、まだまだ活用の余地がある

森川さんがやろうとしていることは、まさに今見直されてきている「R&D」だ。R&Dとは、「Research & Development」の略。つまり「研究開発」のことで、主に企業が自社で研究開発をおこない新たな技術を得ていくことを指す。その最大のメリットは、独自の技術資産を獲得して競争力を高められるという点にある。

「昨今はスタートアップ企業が注目されていますが、そういった急成長を目指す企業は研究開発に力を注ぐことが難しい。新たな技術を確立するためには、時間もコストもかかるし、失敗したら投資分をまるまる失ってしまいますから。

私はそのR&Dを自社D2Cブランドでやろうとしているんです。D2CブランドとはDirect to Consumer、つまりECサイトを通じて、ダイレクトに消費者に商品を提供することを意味します。職人技術をどう活かして商品に落とし込み、お客さまに伝えるか。それを考えて実際に商品をつくって売り、お客さまからのフィードバックを得る。そうして得られた知見を、次の商品にどんどん活かしていきたいです」

大正から続く九谷焼の置物専門の窯元でつかわれている、置物の石膏型

その森川さんがR&D的思考から注目しているのは、織物の技術だ。

「織物にはとても歴史がありますが、まだまだ新たな商品への活用の余地はあると感じています。先日、あるお客さんから『織物をリメイクしてガジェットケースをつくれないか』という相談を受けましたので、いくつかサンプルをつくってみます。これが成功すればR&Dにつながります。これからも試作や検証を続け、職人技術を活かした商品事例を増やし、世界と日本の職人技術をつないでいきたいです」

「ひとつ一つ積み上げる」のが日本のよさ

私たちの多くが、日本の伝統技術は「何となく素晴らしい」と思っている。しかし世界各国の技術と比べて、何がどう優れているのだろう。

「私が感じているのは、日本人にしかできないことをしているというところです。たとえば漆器。これは雪深い土地で、農業ができない冬にその製作しはじめたことがきっかけですが、漆毒で手がかぶれながらも、あの美しさを実現していったわけです。これって、美と技術を突き詰めるという、日本人の気質がなければ生まれなかった気がするんですよ。

福井県・鯖江のメガネも、やはり雪深い土地で、内職として突き詰めていった技術が今日まで続いているもの。繊細で美しい絵つけ技術なども、日本人の器用さと、ひとつ一つ手で丁寧に塗っていくという根気の融合の結晶でしょう」

福井県鯖江市の越前漆器の木地師。轆轤(ろくろ)でひとつずつ木材を削り、漆器の形を決める木地をつくる

アメリカが生んだものづくり文化は、とにかく多くの人に行き渡るよう大量につくるというもの。「100個つくって、そのうち50個をつかってもらえればいいという価値観があるのではないか」と森川さんは分析する。

「かつての日本はそうではなく、1個1個を丁寧に積み上げて完璧な50個をつくるという価値観だった。大量生産、大量消費文化もひとつの時代の流れであり、否定をするつもりはありません。ただ、その逆の丁寧な少量生産も並行して確立させたいというのがクラフトシップスの想いです」

技術にお金が流れる仕組みをつくる

最大の課題は技術の継承だ。森川さんがどの工房を訪ねても耳にするのが「後継者がいない」という悩み。いくらクラフトシップスがその技術と依頼者をつなぎ、ニーズを増やしたとしても、つくり手がいなくなってしまえば元も子もない。急がれるのは「その技術にお金が流れる仕組みをつくること」だという。

「日本の職人さんの間にはまだまだ『いいものをつくってさえいれば売れる』という思想がある。ものファーストで、マーケティング思考がないんですね。ただ最近は、マーケティングの必要性を自覚しているところも増えています。たとえば、これまで閉ざされていた工場を開放するオープンファクトリーイベントをおこなったり、つくり手がオリジナルのファクトリーブランドを立ち上げて直接お客に販売したり、いろいろな取り組みがはじまっています。

日本人は商売っ気がなくて、価格を高く設定することに『申し訳ない』という気持ちを抱きがちなんです。対して欧米では、商品が高く売れるよう、いかに価値を見い出すかを考えています。私は、日本の職人さんの本物志向なところがカッコいいなと思うので、そこもうまく商品価値として見せていきたいですね」

愛知県瀬戸市で明治初期より続く、織部焼きの窯元に生まれた作家の逸品。瀬戸焼の植木鉢には「炭化焼成」という技術がつかわれており、炭でできているかのように真っ黒なのが特徴だ

そうしてきちんとお金がつくり手に還流するようになれば、必然的にその技術に興味をもつ人も増え、後継者を生むことにもつながるはずだと森川さんは考えている。

「そうして育った次世代の職人さんたちと手を組んで、また次の取り組みに挑戦していきたいです。世代を越えて認知されていけば、ものを大切につかうということ、そして技術を絶やさず継承させていくこと、両方の実現が可能です。それこそ、究極のサステナブルではないでしょうか」

ーー前編はこちらーー

text:山本奈緒子

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