ふるさと納税で、「世界唯一のコケ研究所」に行ってみた!
生まれた故郷や応援したい自治体に寄付ができる制度の「ふるさと納税」。各地域の特色あふれる返礼品が話題になることもありますが、物ではなく、その土地でしか叶えられない体験をリターンにする地域もあります。今回は「コケの標本整理」体験のため、宮崎県日南市に行ってきました。
返礼品は「コケの標本整理」体験。
初めて触れた標本の世界に感動!
宮崎県日南市の旧城下町に、コケ研究界では知らない人はいないとされる、世界唯一の専門研究機関がある。1946年、植物学者の服部新佐博士が設立した服部植物研究所。ここでは、ふるさと納税で「コケ植物の標本整理体験」ができるという。コケの標本整理? 未知なるものに興味を誘われ旅に出た。
風通しのいいモダンな洋風平屋で迎えてくれたのは、3代目所長で自身も研究者の片桐知之さん。10年ほど前から研究所を一般公開し、コケの魅力を広めるとともに、数えるほどしかいない若手研究者の育成にも力を入れている。
「世界約2万種のコケ植物のうち、日本には2000種ほどが自生しています。日本は世界有数のコケ大国なんですね。なかでも温暖で湿度の高い宮崎県は、九州では屋久島に次いでコケが多く生育し、研究に適した土地なのです」
身近な植物でありながら、コケについて知らないことは多い。しかも、この研究所が主に扱うのは、生きたコケではなく標本なのだ。
「コケの研究には、ひとつの種類でも、時代ごと場所ごとに、大量の標本が必要になる。ここでは日本のと海外のとで半々くらい、約50万点の標本と、3万点近い書物や論文を所蔵し、研究者に貸し出しています。これらの標本は、コケ研究の命綱なんです。国内外から年に何千点も標本が届くので、少ない研究員ではとても整理が追いつかない。すでに未整理のものが数千点を超えてしまっている状況です」
各地から届く標本のなかには200年以上前の貴重なものも。しかし、せっかく標本があってもキチンと整理できていないものは貸し出せない。さっそくやり方を教えてもらう。作業自体はいたって簡単、古い標本を新しい袋に入れ替えて、ラベルをつけるだけ。単純だが、ロマンを掻き立てられる。
古い紙包みを開けると、静かにひっそりと眠っていた、美しいコケが姿を現す。1800年代の標本と向き合いながら、それがどこかの森で青々としていた情景を思い浮かべて、胸が熱くなったり……。こうして自分の手で整理した標本が、これから先もここにずっと残る。のちに貴重な資料となることもあるかもしれない。
「コケの研究だけでは、どうやっても利益を出すことは難しい。研究費や実験費のほか、標本や書籍を保管している5棟の建物の維持費や人件費もかかり、一時は研究所の閉鎖の危機もありました。いまはネットで何でもできてしまう時代ですが、コケ植物の研究のように、実物を分析しなければわからないものもある。こうした貴重な資料を守り継ぐためにも、ふるさと納税を通じて多くの方に足を運んでもらえるとありがたいです」
研究所にとっては標本整理の人手となり、機関を存続させるための援助にもなる。コケの奥深さを多くの人に伝えることで、未来の研究に貢献するキッカケになればいい。そんな片桐所長の思いを感じながら、研究所を後にした。
自分が応援したい地域へ足を運び、かけがえのない体験とともに地域貢献ができる、ふるさと納税の旅。寄付する側にもされる側にとっても、大切なふれ合いの時間がそこにある。
コケの標本整理、実際にやってみました!
STEP 1
このような古い標本がたくさん。袋の虫食い、紙焼けがある場合も。
STEP 2
整理する標本の袋を開きます。中身が散らばらないようにそっと。
STEP 3
200年以上前のコケと対面。やさしく丁寧に新しい袋へ移します。
STEP 4
古い袋に書かれていたコケの名前、産地、年号などを切り取ります。
STEP 5
コケを入れた新しい袋に、切り取った情報を貼るだけ。とっても簡単!
宮崎県 日南市 服部植物研究所
研究所見学と標本整理作業の体験は2時間ほどで、寄付額は1万7000円(ふるさと納税で実質負担は2000円)。研究所は一般見学も可能。
宮崎県日南市飫肥6-1-26 ☎0987-25-0110
営業時間:10:00~16:00 定休日:お盆、年末年始 hattorilab.org
●情報は、FRaU SDGs MOOK Money発売時点のものです(2020年11月)。
Photo:Masayuki Nakaya Text & Edit:Asuka Ochi
Composition:林愛子