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ロンドン建築家チームの日本人リーダーが東京を変える!【後編】
ロンドン建築家チームの日本人リーダーが東京を変える!【後編】
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ロンドン建築家チームの日本人リーダーが東京を変える!【後編】

東京・日比谷公園の眼前に広がる帝国ホテルを含むビジネス街が、グリーンなスマートシティに生まれ変わろうとしています。再開発プロジェクト「TOKYO CROSS PARK構想」で、街区全体のマスターデザインを担うロンドンの建築家チーム「PLPアーキテクチャー」(以下、PLP )のリーダーは、なんと日本人! その、相浦みどりさんに話を伺いました。

ーー前編はこちらーー

ロンドンに本社を置くPLPは、多様なスタッフが働く建築設計事務所。35ヵ国の人々が在籍し、約半数以上は女性やマイノリティだという。このたび、内幸町一丁目(東京都千代田区)の大規模な再開発計画TOKYO CROSS PARK構想(以下、クロスパーク)で、マスタープラン及び超高層タワー(2棟)のデザイナー、街づくりの方向性を提案するプレイスメイキングストラテジストとして起用された。

クロスパークの完成イメージ。日比谷公園とひと続きの緑多き街となる

チームをとりまとめるのが、同社取締役、日本人女性の相浦さんだ。

「2019年から、リアルとオンラインで東京とロンドンをつなぎ、デザインやストラテジー(戦略)づくりを繰り返しています。コロナ禍のため打ち合わせの大部分はwebで行いましたが、プロジェクト始動直後はロンドンチームが日本を訪れましたし、日本の関係者がロンドンにも来られました。そのときに対面で信頼関係を築けたのが大きかったです。一緒に内幸町を歩きながら話して、イメージも共有できていたのもよかった。今後も、時間や距離を超えて頻繁に行えるweb会議と対面ミーティングを両方やっていきたいです」

日本で環境を、アメリカで建築を同時並行で学ぶ

そもそも、相浦さんはなぜ海外で働くようになったのだろう。

「建築を勉強したのがアメリカで、現地の大学院を修了以来、アメリカと英国では仕事をしましたが、日本では仕事をしたことがなかったんです」(相浦さん、以下同)

東京にて。ロンドンと東京を行き来し、内幸町の再開発計画に携わる

相浦さんは、東京工業大学に入学、都市環境学を学んでいたが、そのうち建築学にも興味をもつようになり、東工大在学中にアメリカのペンシルバニア大学に入学した。両大学を行ったり来たりしながら、最終的には双方の大学院で修士課程を修めたという。1990年代のことだ。

彼女はペンシルバニア大学大学院を出てからもアメリカにとどまり、現地の設計事務所で4年間働いた。

「そこでスイス人の夫と知り合いました。やがて彼が英国・ロンドンの大学での仕事を得たため、私も一緒にロンドンに移住したのです。幸い、すぐに建築事務所『KPFロンドン事務所』で働けることになりました。数年後、同僚たち数名がKPFから独立することになり、私もついていってPLPに就職、いまに至るわけです。PLPには、いろんな人種、国籍の人たちがいて、女性も多く、とても働きやすい職場です。それぞれの違いを評価するダイバーシティがあり、日本人らしさも評価してもらえる環境なので、異なる考えが常に刺激になり、自分の個性にも自信を持って仕事ができます」

ところで、2017年に東京スタジオを設立後、約20年ぶりに日本に戻ってきた相浦さんは、ショックを受けていた。

「私が所属していた1990年代の東工大の人間環境システム専攻は、水、熱、光、土壌などあらゆる都市環境について包括的に考えるところで、気候変動に対しても危機感をもって活発な研究がなされていました。当時の研究レベルは、決して世界に遅れをとっていなかった。それが久々に日本に帰ってきたら、サステナブルな取り組みがあまり進んでいない。いったい、どうしてしまったのだろうと」

日本では、環境への配慮は開発の足かせになるという考え方が根強く、取り組みが遅れたのではないかと相浦さんは推測している。

「けれどもここ2年ほどで、その意識もだいぶ変わってきましたね。大学や研究開発の場では、1990年代から途切れることなく環境に関する研究が行われてきたはずなので、その成果が活用されるように社会やマーケットが変わってきたら、日本は強いんじゃないかと思っています」

欠勤率を45%減らしたデザインとは

ここで、相浦さんとPLPがこれまで手がけてきたプロジェクトを紹介しよう。まずはブルームバーグから「世界で最もスマートなビル」と評価された、オランダのオフィスビル「ジ エッジ」だ。

アムステルダムのビジネス中心地に建つ、ジ エッジ

北側を開放し南側を遮蔽(しゃへい)することで、自然光を採り入れつつ室温を抑えるなど、環境負荷の少ないデザインを心がけ、世界最高値の環境性能を達成。加えて、センサーとスマートテクノロジーを活用し、1000席のデスクで3000人のワーカーをカバーするなど、効率化も環境に寄与している。

「メインのテナントであるデロイト社の場合、オフィスの半分以上はいつも留守だったんです。なのに、全館で電気を使っているなんてムダですよね。こうした効率化で、通常のビルと比べて電力消費を70%削減できました」

先進的なビルは、働く人も幸せにしている。

「水を利用した冷暖房は、デスク単位での調節が可能で、スマホを置くとその人の好みに合わせた温度になるなど、人も気持ちいい効率化なんです」

それは数字にも現われており、デロイト社の欠勤率は45%減少。入社応募数は2.5倍に跳ね上がったそうだ。さらに、イギリス国内の6つの研究施設をひとつ屋根の下に集めた「フランシス・クリック研究所」の空間設計も担当。

別々の場所にあった6つの研究機関が一体となったフランシス・クリック研究所

「どの研究室が何をしているのか外から見えるようにし、わざと歩かせる設計にしました。こうすることで、異なる分野の研究者どうしや、若手とノーベル賞学者など、さまざまな出会いや交流が生まれ、ブレイクスルーが促進されるのではと考えたのです」

竣工から7年が経過し、実際に研究論文の数が増えたり、ノーベル賞受賞者も出るなど、結果につながっているとのこと。

さらに、現在イタリア・ミラノで進んでいる22ヘクタールの再開発計画が「パルコ・ロマーナ」で、2026年ミラノ冬季五輪の選手村も建設されるエリアとなる。ミラノの街並みといえば石畳のイメージだが、「急激な気候変動に対応するには、都心に突然、森や農場があってもいいと思いまして」。PLPは国際チームと連携し、マスタープラン(エリア全体の基本計画)と住宅区域を担当し、CO2排出量や熱環境を長いスパンでシミュレーションするサステナブルなプロジェクトを進行している。

石畳のミラノに突然、自然豊かな風景が広がるパルコ・ロマーナ(イメージ)

この土地ならではの街づくり

こうした経験を踏まえ、相浦さんがクロスパークで目指すのは、どんな街なのだろう。

「この土地ならではの街をつくりたいです。緑のパブリックスペースも日比谷公園あってこそ。銀座、新橋、大手町、霞ヶ関といった特性の違う主要拠点が周囲にあるので、そこから人が集まり、未来のアイデアの交流が起こる場を生み出したいですね」

3つの超高層タワーと帝国ホテル新館のある街区が、日比谷公園とつながる(イメージ)

クロスパークに参加しているのは、この地区に本社や拠点を置く10社。それも「この土地ならでは」というテーマにつながっていく。

「これまで、各企業が交わることはなかったのですが、街全体でそれぞれの強みを掛け合わせ、未来を生み出す街づくりを体現できる点にやりがいを感じます。たとえば、カーボンマイナス(CO2排出量実質マイナス)を目指すにあたり、エネルギー分野のプロやデジタル技術のプロである参加企業が協力し、デジタルツイン(現実を仮想空間で再現し、問題の解決につなげる技術)も活用して、長いスパンで人にも環境にもポジティブになる街にしたい」

3つの超高層タワーは2030年に、街区全体は2037年以降に完成の予定だ。

ーー前編はこちらーー

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