作家・高野秀行が選ぶ3冊「海の謎に挑む科学者のロマン」
およそ700万年の人類の歴史のなかで、この数十年間に、私たちは海のシステムや海洋生物、美しい自然の数々を破壊してしまいました。海の被害は私たちが考えている以上に深刻なもの。でもまだできることがあるはず。海を変えるために、自分が変わることからはじめてみませんか?
本を読んでみることもそのひとつ。本の世界もはてしなく広がる海のように、自然や生物、文化、歴史、哲学、冒険、あらゆる事象につながっていきます。深い深い「本の海」に潜ってみましょう。今回は、海を愛するノンフィクション作家の高野秀行さんが選んだ3冊を、高野さんの好きな海&海の思い出とともにご紹介します。
『微生物ハンター、深海を行く』
高井研/著
有人潜水艇で水深2000m以上の深海に潜って極限状況にすむ未知の生物を調査し、そこから生命がどのように誕生したのか推測するという壮大な活動を行う著者。ノーベル賞にもっとも近い日本人生物学者かもしれないが、「ボクチン潜りたいニャー♡」なんて、文章はむちゃくちゃポップ。海とは、研究とは何か、熱く生きるとは何かを教えてくれる。(イースト・プレス)
『進化の法則は北極のサメが知っていた』
渡辺佑基/著
著者は水生動物に記録計やビデオカメラを取りつけるという画期的手法で彼らの生命活動を調べている。北極の水温0℃の深海にすむニシオンデンザメ、異常に大食いの南極のペンギン……。極限の現場で奮闘するさまは冒険探検の世界。(河出書房新社)
『大洋に一粒の卵を求めて
東大研究船、ウナギ一億年の謎に挑む』
塚本勝巳/著
海洋生物学界屈指の謎の生物、ウナギ。東大海洋研究所のチームは30年以上をかけ、自らの船でウナギの稚魚を捕まえるという原始的探検を行っている。そして、チームは太平洋の西マリアナ海嶺にたどり着く。たかがウナギにどうしてここまで情熱を傾けられるのかという当初の疑問は、読み進めるうちに、ウナギとその研究者に対する畏敬の念に変わっていく。海は巨大だから、科学者のロマンも巨大なのだ。(新潮社)
高野さんの「最愛の海」
福島県いわき市の岩間海岸、タイのチャーン島
高野さんの「海の思い出」
世界で一番危険な都市ともいわれるソマリアの首都・モガディシュにある、リドというビーチを訪れた。兵士が厳重に警戒するなか、市民は海辺で遊び、レストランで食事を楽しんでいた。イスラム過激派によるテロが何度も起きた危険な地域なのだが、「海を楽しみたい」人々の気持ちを止めることはできないのだなと思った。
PROFILE
高野秀行 たかの・ひでゆき
ノンフィクション作家。1966年東京都生まれ。早稲田大学探検部での活動を記した『幻獣ムベンベを追え』(集英社)で作家デビュー。
●情報は、FRaU SDGs MOOK OCEAN発売時点のものです(2019年10月)。
Text & Edit:Yuriko Kobayashi
Composition:林愛子