鈴木優香が旅する、太平洋の“東京島” vol.2【利島】
海を変えるためにできること。身近な海について知ることもそのひとつ。ビルに囲まれた東京の海。でもその少しだけ先に、青く澄み渡り、イルカが遊ぶ海があることを知っていますか? 自分が暮らす街とつながっている「私たちの海」に直接触れたくて、デザイナーで山岳収集家の鈴木優香さんが伊豆諸島の島々を旅しました。
伊豆諸島は太平洋に位置する東京都の島嶼部で、無人島を含めるとその数は100以上。人が定住しているのは大島、利島、新島、式根島、神津島、三宅島、御蔵島、八丈島、青ヶ島の9島。そのうち東海汽船のフェリーを乗り継いで旅ができる5島を紹介します。今回は利島へ!
ハロー、はじめまして。
利島に棲む、東京のイルカたち
「はい、ここでエントリー!」。船長の声を合図に、えいっと船から海へ入る。波に揉まれていると、遠くから「キュイーン……」と金属音のようなものが聴こえる。次の瞬間、2頭のイルカが脇腹あたりをすり抜けて、目の前でくるくるとダンスをはじめた。生まれてはじめて聴いたイルカの歌だ。
大島から大型客船で80分。利島は人口300人ほどの小さな島で、民宿は10軒に満たない。それでも島へ通う人が後を絶たないのは、この海に野生のイルカたちが暮らしているから。春から秋はドルフィンスイムツアーが催行されており、素潜り初体験の人でも安全にイルカとのスイムを楽しめる。
とはいえ相手は野生。20分以上一緒に遊んでくれることもあれば、プイと行ってしまうことも。でも、その思い通りにいかない部分こそが面白くて、水中で目が合ったイルカが、何度もこちらに泳いで来てくれることもある。
「イルカと同じくらい深くまで潜れたらいいのに……。ウェットスーツの浮力がもどかしいです」と鈴木さん。船からイルカの姿を確認するといち早く海に入って、最後には群れの一員になったように自由に泳ぎ回っていた。
「海をキレイにしようとか、頭ではわかっていたのですが、こうして野生のイルカと一緒に泳ぐと海の環境問題が人ごとじゃない! っていう気持ちになりますね。今日からレジ袋を使うたびに、この子たちのことを思い出します」
海は命を育む場所。東京のイルカが教えてくれたこと、忘れずにいたい。
TOSHIMA memo
船/東京・竹芝客船ターミナルから大型客船で約7時間35分、ジェット船で約2時間20分 航空便はなし 外周約8kmの島の移動は徒歩で充分。レンタカー、レンタサイクル、タクシー会社はなし。宿によっては港までの送迎がある
宿泊施設/民宿が少ないので、予約はお早めに。ドルフィンスイムを行っている「利島ダイビングサービス」や「寺田屋」は民宿も経営しているので、宿とセットで申し込むと便利 グルメ/飲食店が少なく不定休なので、朝・夕食は宿で食べるのが安心。昼食は来島前に買っていくのがベター ショッピング/島オリジナルのお土産を扱う「モリヤマ」はツーリストのオアシス的存在
利島村役場☎04992-9-0011
PROFILE
鈴木優香/Yuka Suzuki
デザイナー。山岳収集家。1986年千葉県生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科デザイン専攻修了。アウトドアブランドの商品企画部勤務を経て、デザイナーとして独立。現在は山で撮影した風景をハンカチに仕立てていくプロジェクト〈MOUNTAIN COLLECTOR〉を手がける。
●情報は、FRaU SDGs MOOK OCEAN発売時点のものです(2019年10月)。
※掲載の内容が変更になる場合がありますので、おでかけ前にご確認ください。伊豆諸島へ向かう大型客船、ジェット船は季節や天候などによってかかる時間が変わりますが、ここでは夏季の一般的な所要時間を掲載しています。詳しい運航状況や時間については東海汽船のHPなどをご覧ください。
Photo:Mina Soma Text & Edit:Yuriko Kobayashi Model:Yuka Suzuki(MOUNTAIN COLLECTOR)
Composition:林愛子