「ペットボトルのキャップより、水道の蛇口をひねろう」──浄水器メーカーの挑戦
水資源に恵まれた国・日本。水道の蛇口をひねれば、安心して飲めるきれいな水が出てきますが、ミネラルウォーターを購入して飲んでいるという人も多いのではないでしょうか。浄水器ブランドのクリンスイは、「水道水を飲もう。」というスローガンを掲げ、私たちにとってあまりに身近すぎる水道水について、さまざまな提案を行っています。前編につづき、三菱ケミカル・クリンスイのマーケティング部でブランディングを担当する溝原ゆかりさんと広告宣伝部の戸越隆弘さんにお話を伺いました。
水道水なら温室効果ガス排出量を減らせる
「国土交通省の調査によると、現在、水道水をそのまま飲める国は、日本を入れて世界で12ヵ国です。ほかにはアイスランドやフィンランド、スウェーデン、ニュージーランド、オーストラリアなどがあります。その下のカテゴリーには『そのまま飲めるが注意が必要』という国が32ヵ国あります」と、クリンスイの広告宣伝部・戸越隆弘さんは話す。
水道水に関しては恵まれている日本だが、ペットボトルの水が売れているのが現状だ。
「東京都市大学の伊坪研究室との共同研究結果によれば、LCA(ライフサイクルアセスメント=製品の一生に排出される、温室効果ガスなど環境負荷の量)ベースで比べると、最新のリサイクルペットボトルの温室効果ガス排出量を100%としたとき、浄水はわずか1%にも満たないのです。つまり浄水を選べば、99%以上の温室効果ガス削減が可能だといいます。われわれも大きな差に驚きました。これはあくまで国内ペットボトルとの比較。海外産の場合、輸送などの負荷がかかりますからさらに差がつくと思います」(溝原さん)
浄水器のフィルターをひとつ使うだけで、水500mlのペットボトル1800本分のプラスチックごみが削減できるとの試算もあるという。しかし、浄水器の会社だからペットボトルを敵視しているというわけでもないらしい。前出の戸越さんはこう話す。
「災害時用に長期保存できますし、持ち運びができるといった面で、ペットボトルの水もとてもいいものです。ただ環境面などを鑑みて、必要以上に使うのはやめましょう、ということなのです」
浄水器もペットボトルも、ともに生活にうまく採り入れ、自分の体に合った水を選択できる世の中が最も幸せということだろう。
水を「地産地消」するということ
ミネラルが豊富だからという理由で、あえてミネラルウォーターを飲んでいるという人も多いだろう。
「そもそも、日本の水はミネラルが豊富です。東京都の水道水と、広く売られているペットボトル水でミネラル含有量の比較実験をした際に、東京の水道水はミネラルが多いということがわかりました。われわれが提供している浄水器は、ミネラルは濾過されずそのまま通すので、水道水のミネラルをきちんと摂取できます」(溝原さん)
それでも、飲用として水道水が選ばれない理由はどこにあるのだろう。
「私たちは2009年から『水道水を飲もう。』を掲げて活動してきました。水道水は本当はおいしいということをお伝えしていますが、浄水器を購入してくださるお客様は『水道水はカルキ臭い』などの不満、不安を抱えておられるのだと思います。もともとの水はおいしいのですが、水道法により、衛生上の安全を保つために塩素を一定量入れなくてはいけないため、この塩素の臭いが水道水の敬遠につながっているかもしれません。水道管の老朽化も課題のひとつ。浄水場から家庭に届くまでに、古くなった水道管の赤錆の混入や、雑菌など有機物と塩素が混ざりトリハロメタンなどが出る可能性があるといわれています。これらが、浄水場でせっかくきれいにした水道水のおいしさを損なう原因になっています」(溝原さん)
なお、水道水はミネラルウォーターよりも水質基準が厳しいのだそう。
「食品衛生法で定められたミネラルウォーターの基準は基本的に18項目。比べて水道水は、水道法により51項目の検査が必要となります。ミネラルウォーターはボトルが密閉されているので、衛生面でより安全に見えますが、水道水も非常に品質が高いのです」(戸越さん)
クリンスイの浄水器は独自のフィルターにより、残留塩素や鉄錆、微細な菌などは取り除きつつ、ミネラルはそのまま残しているという。
「ペットボトルでいろいろな産地のお水が販売されていますが、浄水器を使っていただければ地元のお水を水道を通しておいしく飲むことができます。地産地消にもつながります」(戸越さん)
ヨーロッパや北米のミネラルウォーターを飲むと、その多くが硬水のため味の違いに気づきやすいが、実は日本国内でも地域で硬度が異なる。
「京都は硬度が低く軟水で、関東は硬度が少し高いんです。京都の老舗料亭が東京で出店する際、同じ素材で同じつくり方をしても出汁の味が違ったというエピソードがあります。東京の水のほうが硬度が高いので、出汁が思うように取れなかったのだそうです」(戸越さん)
「水が合う」とはよくいったもので、生まれ育った土地で慣れ親しんだ水は、おいしいと感じるものだ。クリンスイでは、マイボトルなどが普及しつつある現在、給水スポットの設備整備などにも取り組んでいるという。
「われわれは水道水をおいしく飲んでいただくために、水を本来のキレイさやおいしさに戻すことが使命だと思っています」(溝原さん)
Text:市村幸妙、 写真提供:三菱ケミカル・クリンスイ