「ベネズエラの危機的状況」をアートで世界に訴えたい
自然破壊や環境問題など、世界各地で起きている出来事を独自の視点で捉える作家たち。ニュース映像や報道写真とは一線を画する、アーティストたちのメッセージをフィーチャーします。
芸術家アナ・アレンソが憂う
母国の没落、環境破壊……
産業廃棄物、モーター、石油ドラム缶、スピーカーから聞こえるシカゴ証券取引所のけたたましいブローカーの声、そして突然、サイクロンが稼働し、アクリルケース内で紙幣が飛び散る。さまざまな要素が複雑に絡み合うインスタレーション「1.000.000%」は、2018年のベネズエラのインフレ率をタイトルに冠したものだ。手がけたのはベネズエラ出身のアナ・アレンソ。1992年、軍事クーデター未遂事件を体験した後ドイツに渡り、現在はベルリンで活動する。2012年頃から母国の歴史や経済、自身のルーツを意識するようになり、作品に反映している。
「第二次世界大戦直後、ベネズエラはポルトガルやスペインから移民がやってくるような豊かな国でした。原油埋蔵量は世界一を誇り、2000年代初頭までは、南米でも屈指の裕福な国でしたが、原油価格の下落や政府の失策などにより急速に経済状況が悪化し、インフレが進み、失業者や貧困者が街にあふれました。現在も市民生活は混乱に陥っており、危機的状況となっています」
現在は、殺人発生率が世界ワーストクラスであり、治安が悪い国として知られるようになってしまった。技術力不足で重油が海に大量に放出されることもたびたび起き、環境汚染も深刻だ。いまのベネズエラは作品が示すとおり、さまざまな要因が絡みあい、八方ふさがりの状況だといえる。
「政治、経済、環境汚染、母国が崩壊しつつある悲劇をこのように知ってもらうことは、ささやかであれ、何らかのアクションに結びつくと信じています」
また、2021年には「What the Mine Gives, the Mine Takes Away(鉱山が与えるもの、鉱山が奪うもの)」と題し、マフィアらによる闇金採掘と川に垂れ流された水銀による南部アマゾンの自然破壊をテーマに、映像と金抽出作業のインスタレーションとして発表した。
「地球資源搾取や環境汚染はべネズエラだけの問題ではないけれど、この地を起点にみんながもっと地球について考えることになればいい。遠い世界で起きていることでなく、自分のこととして共感軸をもてるか。他者を思いやる心や地球へのエンパシーがこれからの世界にもっと必要になってくるでしょう」
PROFILE
アナ・アレンソ
1982年べネズエラ生まれ。美術大学卒業後、渡独。ベルリンを拠点に活動中。2022年ジュネーブ・ビエンナーレ出展予定。http://anaalenso.com
●情報は、FRaU2022年1月号発売時点のものです。
Coordination:Yumiko Urae Text:Yuriko Kobayashi , Chizuru Atsuta Edit:Chizuru Atsuta