子ども達が夢を持って地球で生きていけるように。 想像力を育む環境づくりを実践
未来に向けた独自の取り組みやユニークな視点を紹介するFeature。自然教育を通してSDGsやESDを推進し、昆虫モチーフの服育ブランド「INSECT COLLECTION」、自然教育絵本を販売する「INSECT LAND」、草花と昆虫のエシカルブランド「Insect Garden」、そして昆虫と学びのポータルサイト「INSECT MARKET」を運営しているアランチヲネ株式会社。後編は、絵本や知育記事などを通して伝えている学びの大切さと、アートやサイエンスに対する考えについて、引き続き広報の河合美穂さんに話をうかがった。
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撮影/明田光彦 取材・文/水谷美紀
香川照之プロデュースの自然教育絵本
アランチヲネ株式会社の事業のうち、「服育」に根ざした商品づくりに定評のある2つのアパレルブランドとともに多くのファンを獲得しているのが、自然教育絵本「INSECT LAND」のプロジェクトだ。自然の重要性や子どもが生きる上で必要な学びを、可愛い昆虫を主人公にした絵本にして伝えている。また、絵本に登場するキャラクターをモチーフにした知育ドリルやグッズも販売している。
「絵本の原作は香川プロデューサーが担当しています。絵はフランス人アーティストのロマン・トマ氏に依頼し、自然教育を子どもに浸透しやすい愛らしい昆虫のキャラクターを通して伝えています。絵本は現在までに5作リリースしており、それぞれに違ったテーマがあります。例えばシリーズ第一作の『ホタルのアダムとほしぞらパーティー』は自分がコンプレックスだと思っていたことが強みになったり、周囲からは弱みに見えていないことを伝えています。シリーズ3作目の『カマキリのシャルロットとすずらんでんわ』ではまさにSDGsをテーマにし、環境の変化によって擬態ができなくなったハナカマキリの女の子を通して、気候変動や生物多様性をわかりやすく伝えています」
いじめをテーマにした絵本もつくっている。
「シリーズ2作目にあたる『カブトムシのガブリエル、もりのヒーロー』です。日本ではいじめが起こった時の対策が紹介されていますが、海外ではいじめが起こる前の教育に力を入れており、この絵本もいじめを未然に防ぐHEROメソッドといわれる理論に基づいて作られています。いじめをする子は体の大きな子が多いというデータが出ていますので、強い力を持っているなら弱い者を守るために使おうよというメッセージを込めました」
ポータルサイトでは知育記事といった形で約150の記事を配信しており、知育ドリルも無料配布している。
「ぬり絵やアルファベット、漢字の練習などのほか、環境教育やプログラミング的思考を育てるドリルや、昨今デジタル化が進んだことで習得がしづらくなったアナログ時計の読み方やお金について学ぶドリルもあります。これはオンラインでどなたでも自由にダウンロードできるので、各ご家庭はもちろん、学童や幼稚園などでもご利用いただいております」
アートやサイエンスがSDGsに必要な理由
アランチヲネが展開するブランドの商品は、リアルな店舗とオンラインで購入できるが、ポップアップストアを展開している場所選びにも独自の考えがある。
「常設店以外ですと、百貨店だけでなく、美術館や、書店、遊び場の施設などでもポップアップストアを展開しています。歌舞伎座の地下のショップにも入っていますし、昆虫展にも出店していました。美術館などの文化施設とのコラボレーションを積極的におこなっているのは、アートリテラシーの推進をするためです。アートリテラシーやサイエンスリテラシーについては、文化庁にも協力してもらい全国の施設紹介とともに、重要性・必要性を伝えています。これからは、毎年のように未知の社会課題が降りかかる時代。アートがSDGsに必要なのは、子どもには創造力が求められるからです。創造力を養うためにはアートリテラシー、その解決策をつくるためにはサイエンスリテラシー。この2つを持つことが、これからの時代にはとても大事だと考えています」
そのため科学者をリスペクトする気持ちも強い。
「Insect Gardenのロゴは温室をイメージしてデザインされていますが、これもサイエンスリテラシーの文脈です。温室ではさまざまな研究がおこなわれており、研究者の方々に対する敬意をパターンにして表しました。新たなテクノロジーがなければ人類の地球との共生の終わりは近いと言われています。研究者を志す子ども達が増え、世界的な社会課題解決の確率が高まれば、こんなに嬉しいことはありません」
そのためにもインターナショナル教育には特に力を入れている。
「今後はさらにインターナショナル教育を推進するために、自然教育と英語を掛け合わせたワークショップを始めます。外国人のスタッフのアテンドで自然体験のワークショップを計画中です」
各企業とのコラボレーションも
そんなアランチヲネには、各企業からコラボレーションの依頼も多い。「ありがたいことに、コラボレーションの申し入れはたくさんいただいております。ただ、さまざまな基準を設けていることもあって、コラボレーションが実現できた企業は現在までに3社だけです。例えばその一社である福砂屋には400年の歴史があり、そもそも人工的な添加物ができる前からカステラを作っている、日本を代表するサステナブルな企業です。わたしたちの会社に足りないのは歴史なので、歴史のある企業からコラボレーションのお申し出をいただくことはとても光栄です」
とはいえ、コラボレーションの相手は、老舗だけにこだわっているわけではないという。
「今後は海外に進出したいと考えていることもあって、新しい企業からのお申し出も大歓迎です。子どもたちのためになる取り組みを本気で考えている企業であれば、ぜひ一緒にさまざまなコラボレーションに挑戦したいと思っています」