“女子アナ”→米国留学中の臼井佑奈が、「LGBTQ+」フレンドリーなサンフランシスコ・カストロ地区を歩く
静岡第一テレビでアナウンサーとして活躍していた臼井佑奈さんは、昨年6月に同局を退社し、次の一歩を踏み出すためにアメリカ・サンフランシスコの大学院へ進学。留学生活で出合ったのは、カラフルなまち、カストロ地区でした。自由と多様性を“祝福”するこのまちの文化を、臼井さんがレポートします。
どんな人でも安心して暮らせる空気感があるまち
大学院に入って1ヵ月ほど経ったころ、地元出身のクラスメイトに「もうカストロには行った?」と声をかけられ、私ははじめて、そのユニークな場所の存在を知った。カストロって、どんな場所なんだろう。ワクワクしながら訪れてみると、そのまちはとてもカラフルだった。

臼井佑奈/静岡第一テレビ アナウンサーを経てフリーに。現在、サンフランシスコにてスポーツマネジメントを勉強中
レインボーフラッグがはためく、ポップな街並み。カストロの第一印象は、ただただ「かわいい!」というもの。SNS映えする景色に心が躍り、気づけばあちらこちらで足を止め、シャッターを切っていた。

カストロ地区にある虹色の横断歩道は、観光客たちが何度も往復して写真を撮るフォトスポットだ。もちろん、この「レインボーカラー」は、ただの飾りではない。

虹のフラッグは、LGBTQ+コミュニティの「多様性」と「誇り(Pride)」を象徴するもの。さまざま色が重なって虹ができるように、「他と違うからこそ、美しい」「人と違うことは、弱さではなくて強さ」というメッセージが込められているのだ。

カストロ地区は、世界でも有数のLGBTQ+コミュニティ。かつては 「the gay capital(ゲイの首都)」 とも呼ばれていた。その背景には、1960〜1970年代の公民権運動で、誰もが自分らしく生きられる場所を目指して闘った人たちの歴史がある。
その象徴のひとりが、ハーヴィー・ミルクだ。アメリカで初めて、オープンリーゲイ(ゲイだと公言する人)として政治家になった彼は、ここカストロ地区を拠点に、自由と平等を訴え続けた。いまでもまちを歩くと、彼の名前がついた広場やポスターに出合える。ハーヴィーは、カストロ地区のアイコンなのだ。
もうひとつの象徴が、ギルバート・ベーカーによってデザインされたレインボーフラッグ。1978年にサンフランシスコでおこなわれたゲイ・フリーダムデイ・パレードで、産声をあげた。パレードで、初めてこの虹のフラッグが掲げられた。一般的には6色で構成されており、“他と違うことを祝福する”象徴として、いまや世界中で掲げられている。

サンフランシスコは、同性婚を支持した世界最初の都市のひとつでもある。市役所にはLGBTQ+支援の専門部署が設置されるなど、いまも着実に進化を続けている。歴史的にも社会的にも、“誰もが自由に生きることを応援するまち“というアイデンティティが育まれてきたのだ。 しばらく歩くうち、ロゴが虹色のスターバックスをみつけた。6月のプライド月間には、店内に期間限定のレインボータンブラーやカップが並び、より華やかになるという。店の外ではレインボーカラーのTシャツを着た犬がのんびり日向ぼっこをしていた。カラフルなまちでは、人も犬も個性豊かな、“自分らしい”服装で歩いている。

毎年6月には、「サンフランシスコ・プライドパレード」が開催される。100万人以上が参加する、世界最大級のプライドイベントだ。私がこちらで暮らし始めたのは昨年の7月なので、まだこのパレードを生で見たことはない。ただ、街じゅうに掲げられたレインボーフラッグや、多様な人々が胸を張って歩く姿を見ると、エネルギーあふれるパレードなのだろうと想像できる。
きっと、パレードの日には、カストロの空も道も人々も、もっと鮮やかでパワフルな虹色に染まるのだろう。
私はもともとアナウンサーという立場から、性的指向や世界観について話すことにハードルを覚えていた。「正しく理解できているかな?」「失礼なことを言わないかな?」と、常に身構えていた。けれどもカストロ地区を訪れたことで、「大切なのは、完璧に理解することじゃない。違いを認めることなのでは?」と考えるようになった。そして同時に、自然体の自分でいられる素晴らしさも知った。

夜になるとネオンが灯り、まちの雰囲気が変わる。有名なLGBTQ+バーはいつも賑わっており、「お酒を飲んで踊って楽しみたい!」という人にぴったりだ。レインボーがはためくこのまちを、ただ “かわいい” と思って訪れる人は多い。
近年のサンフランシスコは、治安の悪化が指摘されている。たしかにホームレスは多いし、ひったくりなど軽犯罪も目立つ。しかしこのカストロ地区は共働きの同性愛カップルが多いためか、生活水準が高いエリアともいわれていて、比較的安心して歩ける。
サンフランシスコは、強く温かい空気に包まれている。日本から引っ越して以来、私は一度も“よそ者”だと感じたことがない。ジェンダーや性的指向、国籍やバックグラウンドに関係なく、どんな人でも安心して暮らせる空気感があるまちなのだ。なかでもカストロ地区は、新しい環境で肩に力が入っていた私に、「自分らしく生きることが、いかに自然であるか」を教えてくれた。
Text:臼井佑奈