「Jリーグのシャレン!アウォーズ」に見る、サッカーと地域社会の素敵な関係
選手たちがピッチ上で熱い試合を繰り広げ、サッカーファンをいつもワクワクさせてくれるJリーグ。じつはリーグをあげて社会連携活動に力を入れることで、SDGsにも貢献しています。全国にある60クラブがそれぞれのホームタウンで地域課題に向き合いながら、さまざまな活動を積極的に実施中。スポーツ庁の室伏広治長官も登壇した「2023 Jリーグシャレン! アウォーズ」では、とくに社会に幅広く共有するべき活動をした6クラブが表彰されました。シャレン!は、社会連携の略語。前編では、3つの受賞クラブの取り組みをご紹介します。
ブラジル、ミャンマー、中国、ベトナム……在留外国人をサッカーの力で元気に!
5月15日に開催された「Jリーグ30周年記念イベント」では、全60クラブの社会連携活動(シャレン!)のなかから選ばれた「2023 Jリーグシャレン! アウォーズ」の各賞を発表。今回は、Jリーグ開幕30周年という節目の年の開催に合わせ、昨年の活動に限らず、「これが自分たちのクラブの代表的なシャレン!」という活動を選考対象とし、全60クラブよりエントリーのあった活動から選考がおこなわれた。
「ソーシャルチャレンジャー賞」の選考基準は、その地域にある社会課題解決に対してチャレンジしていること。受賞したのは、名古屋グランパスの「在留ブラジル人の子どもたちのお仕事体験」だ。名古屋グランパス対柏レイソル戦の開催時に、豊田スタジアム(愛知県豊田市)で在留ブラジル人の子どもたち向けのお仕事体験会を実施。伯人学校イーエスエス豊田と豊田市立保見中学校の生徒、合わせて約80名が参加した。
生徒たちには主に会場でボランティア業務を交代で担当してもらい、訪れた観客へのおもてなしを通じて、地域への愛着や社会への理解を深める場をつくった。体験会後には全員で試合を観戦し、同じブラジル国籍選手にアツい声援を送るなど、ともに楽しい時間を過ごした。
豊田スタジアムで観客を出迎える在留ブラジル人の子どもたち。サッカーを通じて地元の人々と交流を深めた©N.G.E.
「現在、愛知県には6万人以上もの在留ブラジル人の方たちが暮らしています。ブラジルのみなさんと共存、共栄する社会になりつつある一方で、言語や生活習慣の違いなどによって、地域社会になかなか溶け込めず、孤立している子どもたちがたくさんいます。彼らが大好きなサッカーやボランティア活動を通じて、日本の子どもたちと交流し、うちのブラジル人選手とも一緒に、楽しく明るい未来を築いていけるように、これからも活動を続けていきたいと思っています」(名古屋グランパス)
国や自治体が掲げる政策を活用し、地域の課題解決に向けて、多様なステークホルダーと連携し、持続可能な活動となるように取り組んでいるクラブに贈られる「パブリック賞」。受賞したのは、藤枝MYFCの取り組み「やいづ ふっとさる かっぷ」だ。
同クラブのホームタウンのひとつである静岡県の焼津市は水産加工業が盛ん。その現場では、海外からの技能実習生が数多く雇用されているが、コロナ禍の影響により、職場や地域でのコミュニケーションの機会が減り、彼らがなかなか日本の生活習慣に慣れないなどの課題が明らかになった。
そこで開催されたのが、ミャンマーや中国、ベトナムなどさまざまな国の人を集めた6チーム72名が参加するサッカー大会「やいづ ふっとさる かっぷ」。ひとつひとつのプレーに歓声が上がり、各チームの応援団も含めて皆が笑顔に。スポーツのもつ力が、国籍を超えた一体感を生むことを感じられる貴重な機会となった。
技能実習生として日本を訪れているのは、東南アジアの人々が中心。熱狂的なサッカーファンが多く、大会は大いに盛り上がったという
「グローバルな社会になっていく現在、ホームタウン内には外国からの技能実習生が多く働いています。Jリーグ、サッカーがもつ力を使って、コロナ禍であまり機会がなくなっていた技能実習生同士や各企業間の交流を復活させ、働く意欲をさらに高めていただくために、このような機会を設けました。今後も同じような取り組みを続けていき、交流の輪を広げていきたいと思います」(藤枝MYFC)
グラウンドで刈った芝を、燃やさず堆肥にして「食農教育」
「メディア賞」は、サッカー記者たちが「自身の媒体に取り上げたい」と思う活動を選ぶアワードだ。受賞したのはカターレ富山の「選手の汗と情熱がしみこんだ堆肥“芝~レ!”カターレ食農プロジェクト~紅はるか~」。
カターレ富山の選手たちが毎日汗を流す草島グラウンド(富山市)では、年間約40トンもの芝が刈り取られている。これを焼却すると20トン分のCO2が発生するといわれるため、同クラブは2021年以来、刈芝を堆肥化して「芝~レ!」をつくってきた。
翌2022年からは、富山県の野菜生産加工会社・ファニーファームベジタブルとともに、地域の子どもたちを対象にした食農プロジェクトを立ち上げた。参加した延べ200人の子どもたちとその家族は、春には富山市内の畑に芝~レ!をまき、畝をつくって、サツマイモ「紅はるか」の苗を植えつけた。秋になるとそれを収穫して試食。焼き芋やスムージーにしたものを、スタジアムやショッピングモールで売る体験もした。
同クラブのメディア賞受賞は、昨年に続き2回目
「草島グラウンドでは、年間40トンもの芝刈りをしています。この刈芝を堆肥に変えることでCO2を削減したい──当初はそれを目標にしていましたが、こうした活動の副産物として、選手たちと地元の方々との深い関わりができました。今季のうちのゲームを見ながら、選手たちにとって、『誰かのために闘う』という強い気持ちで競技をすることは本当に大切なんだと、つくづく感じております」(カターレ富山)
まさにサッカーのクラブチームだからこその活動。後編では、ファンやサポーターによって選ばれた受賞プロジェクトをご紹介する。
――後編に続きますーー
text:石塚圭子 photo:萩原はるな(アワーズ会場) 写真提供:Jリーグ
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