はためくフラッグがシンボルに!「稼げる」商店街への第一歩【後編】
東京・大田区内にある4200もの町工場、140の商店街の「稼ぐ力」を高めたいと、同区が全国から「副業・兼業したい人」を幅広く募集する「大田区SDGs副業」プロジェクト。2021年に同区が一般社団法人「ONE X」とともに動きはじめたこの取り組みは、現在第2期の募集をしています。今回は、第1期で結果を残した蒲田東口商店街での「遊休資産活用プロジェクト」を中心に、取り組みの現在地と未来像を紹介します。
蒲田東口商店街の「遊休資産」を洗い出せ!
2021年、第1期の「商店街遊休資産活用プロジェクト」のために採用された副業・兼業希望者は、延べ450名もの応募者からたったの3名。その内訳は、広告事業の立ち上げに詳しい人、営業として活躍している人物、そして広告デザイナーだった。
2021年10月、3人の副業者と大田区産業経済部の職員、蒲田東口商店街の担当者、大田区商店街連合会の役員がONE Xでキックオフミーティングを開催。その後は全員が商店街を回遊し、あらたな事業に使えそうな空き家、空き店舗、スペースなどの遊休資産を洗い出すことからはじめた。
リサーチの結果、白羽の矢が立ったのは「フラッグ広告」。運動会の万国旗のように、駅やアーケード街の天井からたくさんのポスター広告が吊られているのを目にしたことはあるだろう。あれがフラッグ(旗)広告。蒲田東口商店街には、これまでもフラッグ広告のスペースはあったが、すべて自治体からの要請を受け、無償で貸し出してきた。これを今後は事業にし、企業からしっかり料金を取って、得た利益をアーケードの補修や商店街活性化に向けた取り組みなどの資金に回していこうというのだ。蒲田東口商店街商業協同組合の理事長・岩下充博さんは言う。
「自分たちがいま何に困っていて、解決のためにどんなものが使えるか。われわれ商店街の人間は目の前の風景が当たり前になっていて、なかなか気づけませんでした。副業者さんやONE Xさんなど、外部の方にチェックしていただくことで、フラッグ広告スペースがこの商店街の遊休資産であるとわかり、それを有償化する道が見えてきました」
「すごいスピード感」でフラッグ広告たなびく商店街に
「プロジェクト会議は週1回、リモートで開催しました。大田区でも過去に例がない事業だったので、副業者3名とともに事業計画書をつくることからスタートしました。どれくらいの広告効果が期待できて、価格はいくらが適正なのか。どんな事業者の広告なら、商店街の店主やお客様に好意をもって迎えられるのかなどを検討したのです。また、街頭広告の価格や大きさなどは、大田区の規制にも則っていなければなりません。実現のためのハードルがいくつもあり、それらをひとつ一つ、みんなで知恵を出し合いながら乗り越えていきました。そのスピード感は素晴らしいものでした」(岩下さん)
岩下さんが述懐するとおり、通常この手のプロジェクトは1年くらいかかるところ、4ヵ月ほどで実現にこぎつけたのだという。そして2022年2月、蒲田東口商店街でもとくに人通りの多いポプラード通りのアーケードは「ジェイコム東京 大田局」のフラッグ広告の色、オレンジに染められた。
「約60枚ものオレンジの旗がたなびく光景は、非常にインパクトがありました。この広告収入は、商店街のアーケード修復や、太陽光発電も視野に入れた、商店街の持続可能性を上げる試みににつかっていく予定です」
岩下さんがこう感慨深げに言えば、ONE Xの担当者・太谷成秀さんも力強く語る。
「この蒲田東口商店街をモデルケースとして、他の商店街にも同様の試みを拡大すべく、われわれはすでに動きはじめています」
町工場プロジェクトでも3名の副業者を採用
もうひとつの第1期の取り組みが「SmaFAQ(スマートファクトリー)」プロジェクト。町工場と発注側の企業を、サイトやセールスツールをつくることでマッチングする、取引先拡大への試みだった。今年もさらに進化させ、進めていくことを検討しているという。
そして2022年の第2期。大田区SDGs副業プロジェクトは、あらたに観光分野の課題解決にも挑戦していく。
「観光は、稼ぐ力に直結する事業です。アフターコロナに向け、観光需要も戻ってくると思われますので、それに先んじて、観光分野で大田区がすでに持っている資産の有効活用、マネタイズを目指し、取り組んでいきたいです」(太谷さん)
観光事業をはじめ、商店街や町工場との取り組みもさらに深めていき、今後は、全国からエントリーしてきた副業・兼業希望者とともに、10前後のプロジェクトを同時に動かしていく予定だそうだ。
text:奥津圭介