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「海ごみをなくす!」山陽学園・地歴部、ついに世界の舞台へ
「海ごみをなくす!」山陽学園・地歴部、ついに世界の舞台へ
PROJECT

「海ごみをなくす!」山陽学園・地歴部、ついに世界の舞台へ

地元・瀬戸内海を中心に海ごみ問題の解決に向けて活動を続ける山陽学園中学・高等学校「地理歴史研究部(地歴部)」の部員たち。自らごみの回収をするかたわら、「いくら回収しても、発生を止めない限り、問題は解決しない」と、地域の人を巻き込んだ活動も積極的に行っています。

―――前編はこちらーーー

「ごみ放置情報」アプリまで開発!

岡山県にある山陽学園中・高校の地歴部はこの14年間、瀬戸内海のごみ問題解決に向けた活動を続けている。漁船が仕掛けた底曳網にかかった海底ごみや、島々の海岸に打ち上げられた漂着ごみを、自分たちで分別、回収するほか、街中に落ちているごみの回収にも取り組んできた。

海ごみ問題に取り組みつつ、街なかのごみを拾う活動も。街ごみを放置すると、やがて用水路から川、川から海へと流れ出て、海ごみになってしまうからだ

「瀬戸内海は閉鎖性海域なので、海外で捨てられたごみが流れつくということは、ほぼあり得ません。瀬戸内海の場合、ごみの起源は瀬戸内海の沿岸域なんですね。つまり、ごみを減らして瀬戸内海をキレイにしたいなら、沿岸域にアプローチすることが重要になってくるのです。

『だったら、海に近い地域だけの問題じゃないか』と思われるでしょうが、そうではありません。海から離れた陸域に落ちているごみも、雨が降ったりすると用水路に流れ、そこから川に出て、最終的には瀬戸内海まで到達してしまいます。部員たちが街なかのごみを拾っているのは、そうしたことを防ぐためなのです」(地歴部顧問・井上貴司教諭、以下同)

とはいえ部員たちも「自分たちだけで、できることには限界がある」ことはわかっている。そこで地域の人々への啓発活動に力を注いでいるわけだが、そうした活動でのポイントは、人々に、海ごみの問題を他人ごとではなく、自分ごととしてとらえてもらえるようにアプローチすることだ。

「内陸部で出前講座や展示などの啓発活動を行うと、『そんなことは海の近くの問題であって、自分たちには関係ない』と言う方もいます。そのような人々を納得させ、海ごみの問題を自分ごととしてとらえていただくには、どのように伝えたらいいかを考えています」

たとえば内陸部に啓発活動に行くときは、事前に1ヵ月ほどかけて、その地域の用水路などにあるごみを調査する。「街なかにあるごみが用水路から川へ、川から海へと流れていく」といったことを話すにしても、「この地域にはこんなごみがあって」と具体的にあげていくと、自分たちの足もとにあるごみと海ごみとのつながりを実感してもらいやすいのだという。

陸域を起源とする海ごみは、「用水路→川→海」と水のなかでの移動距離が長いため、海に流れ出る頃には破片化していわゆるマイクロプラスチックとなり、回収が困難になってしまう。

街のごみが海に流れ出ることを証明するために、用水路のごみを調査。出張講座に出かける前には、その地域の用水路をリサーチしたうえで話をすると、納得してもらいやすいという。

「出前講座などでは、そうしたことを丁寧に説明していくのですが、私たちは『海ごみ問題を本当に伝えたい人に伝わっていないのではないか』というジレンマも抱えていました。出張講座を聞きに来られるのは地域の高齢者が多い。そういった方々は、すでにごみの分別、回収などへの意識が高いのです。私たちが本当に働きかけたいのは若い人たち。全員とは言いませんが、若者のなかには、ごみ問題について深く考えていない人もいます。彼らにこそ気づいてほしい──。そんな思いから最近、ごみ放置情報を集約できるアプリを開発しました」

アプリ利用者が、街でごみを見つけたり、拾ったりしたら、日時やごみの種類、場所を入力する。現物の写真をアップできるほか、マップ上にごみを拾った場所を表示させることも可能だ。その情報を地歴部員たちが集約し「ごみMAP」などを作成、放置ごみを可視化していくのだ。

街なかのごみの放置情報を可視化することで人々の意識を高め、効率的な回収につなげるためのアプリ『街中ごみ回収調査隊』。利用者に街で見つけたり、拾ったりしたごみの種類や場所を入力してもらい、集まった情報を部員が集約する。アプリは山陽学園のホームページなどからダウンロードできる

「部員の提案で私がひな形をつくり、その後、部員たちが学校の周辺で使いながら不具合を修正していくなど、試行錯誤を重ねて完成したアプリです。街なかで見つけたごみを拾うのはハードルが高いかもしれませんが、見つけたごみの情報を入力するだけなら、気軽にできる。そうやって続けていれば、皆さん、ごみ問題に意識が向いてくるのではないでしょうか。

アプリをつかったこの取り組みは、いわば『シビックテック(市民がテクノロジーを活用して行政サービスの問題や社会課題を解決する取り組み)』。人々の意識を変え、ごみの減少につながってくれればと期待しています。集まった情報をもとに、部員たちが『どこに、どんなごみがあったか』がひと目でわかる地図をつくっています」

アプリで送信されたごみ情報を地図に落とし込んで可視化。この情報を公民館などに提供して、地域のごみ回収活動に役立ててもらう

部員たちは、アプリの完成で自分たちの思いをひとつ形にできたわけだが、彼らの「やりたいこと」は、まだまだある。そのひとつが、街のごみが海に流れ出るのを阻止すべく、太陽光で作動するごみ回収機を川に設置すること。さらに、海ごみを回収するエコツアーの主催も大きな目標だ。

「いまのところ、協力していただいているのは漁師さんくらいですが、いずれは、多分野の方々と一緒に活動できればと思います。実際、地元の銀行さんが『何か一緒にやりましょう』と手をあげてくださっていますし、その取引先の観光業者や行政に橋渡しをしていただければ、もっといろいろなことが実現できるのではないかと期待しています」

フランスの高校生たちと合同で海ごみの調査も開始する。こちらは瀬戸内海、あちらは地中海。いずれも閉鎖性海域であるため、同じ課題を設定して調査を行い、両者の共通点や違いなどを浮き彫りにしていくのだという。

「2023年10月には、フランスで海洋に関するシンポジウムが開催される予定です。地歴部員たちはそのシンポジウムで、合同調査の結果を発表することになっています」

地歴部の活動はグローバル。2019年には、ドイツのボンで開催された「SDGsグローバルフェスティバル オブ アクション」にも参加した。

地歴部の活躍の場は、いまや世界規模。瀬戸内海を飛び出して世界の海を股にかける日も近そうだ。

―――前編はこちらーーー

取材・文/佐藤美由紀

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