差別や偏見による「住宅弱者」を救う!プロジェクトのゴールとは(後編)
「住宅弱者」をサポートする不動産会社の検索システムをつくった「FRIENDLY DOOR(フレンドリードア)」プロジェクト。「住宅弱者に寄り添いたい気持ちはあっても、どう行動したらいいかわからない」という不動産会社にも手を差し伸べたいとの考えで立ち上げられ、順調に推移してきたように見えます。しかしFRIENDLY DOOR事業責任者の龔 軼群(きょう いぐん)さんは、「好評はいただいているものの、スタートしてからしばらくは至らないところが多々あった」といいます。それはいったい何なのでしょうか。
まずは「できていないことを認めてもらう」ことから
FRIENDLY DOORには、「住宅弱者に親身になって対応します」と自ら手を挙げた全国の不動産会社が参画している。2019年11月のスタート時には約500店舗だったが、現在は約3700店舗(2022年6月時点)に増加。龔さんは、「協力してくれる不動産会社が増えるのは本当にありがたいこと。ただ、全店舗で顧客に寄り添った接客ができているかといえば、正直わかりません。これまで、かなりバラつきがあったのでないかと感じています」という。
その問題解決のために龔さんらがつくったのが、不動産会社向けの「接客チェックリスト」だ。まずは2021年4月に「LGBTQ接客チェックリスト」を、今年(2022年)5月には「障害者接客リスト」を「精神・発達障害編」「身体障害編」「知的障害編」の3つに分けてつくり、全国の不動産会社向けに提供した。
「これらのリストは、LGBTQの方と視覚障害者の方が、それぞれ代表を務める不動産会社の協力を得て製作しました。いうなれば、不動産会社が住宅弱者を接客する際に、至らない点がないかチェックしてもらうためのリストです。『何ができて何ができていないのか』を不動産会社に確認いただき、理想と現実のギャップを埋めていきたいというのが出発点です。
LGBTQリストには、借主本人の性自認や性的指向などを、本人の了解なく他人に明かす『アウティング』をしてはいけませんと書いてあります。『女性2人で入居したい』と来店されたお客様に、2人の関係性を尋ねるなど、不動産賃貸契約に必要がないことはしてはならないのです」(龔さん・以下同)
「障害者接客チェックリストは、東京都から住宅確保要配慮者居住支援法人に認定された不動産賃貸事業サービス企業である、メイクホームさまに監修いただきました。
たとえば、聴覚障害者の方は後方から来た車に気づかない場合があるので、物件を内見いただくときは、車の往来がない道を選んで案内するなど、メイクホーム社員の方々が現場でやっていることを、そのままチェック項目に落とし込んでもらいました」
LIFULL HOME’Sが行った「住宅弱者の住まい探し実態調査」によれば、「不動産会社を訪れた際、自身のバックグラウンドを伝えることに抵抗感があったか」という問いに対して、「抵抗感がなかった」と回答したのは、住宅弱者層のなかではLGBTQ当事者がもっとも多かったという。これは、2019年からLGBTQ接客チェックリストを提供してきた成果なのかもしれない。
理想はプロジェクトが不要になること
最近、龔さんのもとに大手不動産会社から、「申込書や手続き書類から、性別記入欄を削除しました」という知らせが届いた。
「一見、『書類の性別欄をなくすだけ』と簡単そうに思えますが、企業によってはシステム自体を変えなければいけない大きな改革です。私たちの取り組みで、少しだけ世の中を変えられたのかなと、とてもうれしかったです。
私は、このFRIENDLY DOORプロジェクト自体が不要になることがゴールだと思っています。
一番落ち込むのは、ユーザーから『この不動産店なら対応してもらえると思って行ったのに、期待外れだった』と言われたとき。そうならないよう、外国語対応可、筆談対応可、車イスで入れるバリアフリー店舗などの情報や、これまでの対応実績などをわかりやすく可視化して、『ここなら大丈夫そうだ』と安心して検索できるよう、サービスを充実させていきたいと考えています」
text:阿部真奈美