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TOKYO商店街 再生ストーリー3 超有名商店街「ハッピーロード大山」に根づく「進取の精神」
TOKYO商店街 再生ストーリー3 超有名商店街「ハッピーロード大山」に根づく「進取の精神」
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TOKYO商店街 再生ストーリー3 超有名商店街「ハッピーロード大山」に根づく「進取の精神」

東武東上線の大山駅を降りてすぐの「ハッピーロード大山商店街」は、アーケード全長約560mを含む大きな商店街で、一日の通行数は25,000人。店舗数は約200という、東京・板橋区随一のアーケード商店街です。1977年に「大山銀座商店街振興組合」と「協同組合大山銀座美観街」の2つの商店街が合併して誕生。以来45年、さまざまな危機を乗り越えてきた陰に、いったいどんな取り組みや努力があったのでしょう。

どこより早く、アンテナショップの先駆けを設立

「うちはもともと、池袋に1978年オープン予定だったサンシャインシティに顧客を取られてしまうのではないかという難題に立ち向かうべく、できあがった商店街です。1977年、設立当時の先人たちは、さまざまな困難のなか、強い想いと実行力で2つの商店街を合併させたと聞いています。私たちも先人から、『まずは自ら動いてみよう』という進取の精神を受け継いでいます。たとえば、全国の商店街に先駆けて『ハローカード』という共通ポイントカードを導入したのも、その表れです」

ハッピーロード大山商店街の理事長、伊崎宏明さんは語る。

艱難辛苦に耐えて歩んできた商店街も、設立から四半世紀が経過した。商店主の高齢化や後継者不足などにより空き店舗が増え、集客力も衰えてきている。

「何とかしなければ」。そう考えた商店街の理事たちは、板橋区の協力を仰ぎながら、集客の核となる施設をつくろうと動きはじめた。

発想の出発点は「百貨店で開催されるような物産展が、商店街にもあればいいのに」という常連客からの声だった。

2005年には、全国ふる里ふれあいショップ「とれたて村」を開設。全国8市町村と提携した常設の物産展を、商店街が主体となって運営しはじめる(現在は9市町村が参加)。

「千葉県鴨川市をはじめ、板橋区と連携している全国の市町村から名産品を集めました。各自治体の『アンテナショップ』の走りですね。当時はまだネットショップも少なかったし、東京では知られていない、隠れた名品がたくさんあった。お客さまに大変喜んでいただき、2010年からは会員組織も発足させました。現在、会員数は約1700人、商店街の貴重な集客コンテンツとなっています」(伊崎さん、以下同)。

2005年のオープン以来、集客の核となっている「とれたて村」。全国9市町村の特産品など1000アイテム以上を取り扱う。

板橋区の小・中学80校に給食食材を提供

「とれたて村」は、さらに進化していく。鴨川市協力のもと、商店街の空きスペースで「乳牛の搾乳体験」イベントを行った。都心の商店街に乳牛——なんとも大胆な試みではないか。ほかにも、長崎市の伝統芸能の披露や、妙高市(新潟県)4大温泉の湯を取り寄せての足湯の設置など、各地の特色を生かしたイベントを開催した。2007年からは希望者を募り、とれたて村に参加している市町村への訪問ツアーも定期的に実施するようになった。

「一回につき10~15名程度が、とれたて村の商品の産地を訪問しています。毎回大好評で、キャンセル待ちが出るレベル。コロナ禍で一時中断していますが、近々再開できればと思っています」。

「とれたて村」の会員限定で希望者を募り、産地を訪問するツアーを定期的に開催中。

さらに板橋区の食育推進事業と連携し、区内に80校ある公立の小・中学校、約3万5000人の生徒への給食食材供給もスタートした。商店街がハブとなって年に4~5回、とれたて村に参加している市町村の野菜などを提供するのだ。

各地方の魅力を活用して集客したい商店街。販路拡大、観光客誘致を図りたい全国の市町村。都市交流を促進したい板橋区。3者すべてがメリットを享受できるこの取り組みは注目を浴び、多数のメディアに取り上げられた。2006年「第2回商店街グランプリ」のグランプリ、2007年「地域づくり全国交流会議」国土交通大臣賞など、数々の受賞歴がある。

CO2を削減し、電力の販売までする商店街

「とれたて村」が定着した2009年ごろには、CO2削減への取り組みをスタートさせた。アーケードの照明をLED化し、大手企業との「排出権取引」をはじめる。

さらに、収益事業の安定した運営とエリアマネジメントの推進を目的に、商店街振興組合の100%出資子会社「まちづくり大山みらい」を設立した。2015年には電力自由化を受け、この会社で電気の代理販売を行う「大山ハッピーでんき」を開始する。収益は商店街の沿道緑化や、地元プロレス団体「いたばしプロレス」との連携など、まちづくりに活かされている。

2019年には大山みらい主導で、空き店舗を活用したシェアキッチン「かめやキッチン」を開業した。飲食店開業を目指す人たちが期間限定で出店したり、料理教室、食育イベントが開かれたりするスペースとなっている。

2019年に閉店した「かめや履物店」の空き店舗にオープンした「かめやキッチン」。近隣店舗や住民に空き店舗の利用法をヒアリングし、ニーズに合わせて改装、活用されている。

「初心者がいきなり飲食店をオープンするのはリスクが高いですよね。そこでこの場所を使って、1日ないしは数日間限定でお店を開いてお客さんにアピールし、ファンをつくったうえで起業に進める場として活用いただいております。コロナ禍で休止するまでは希望者が多く、土・日はほぼ埋まっていました。いま、また希望者数は元に戻りつつあります。実際、ここでお試し営業した後に起業された方もいるんですよ」

アーケード街が国道で分断されても、まちづくりは止まらない

上記と並行し、取り組みはネット空間へも広がっていった。2011年には商店街の魅力やイベントなどを発信するYoutubeチャンネル「ハッピーロード大山TV」をスタート。商店街公認アイドル「CUTIEPAI・まゆちゃん」などと連携して、イベントなどの情報を発信し続けている。ちなみに、このまゆちゃん、現在は公認ハッピーアンバサダーとして活躍中だ。

「月1回のペースで生配信して、もう800本くらいアーカイブが溜まっています。開始当初はYouTube配信番組はもちろん、ユーチューバーという名称すら一般的ではなかった。商店街の情報発信形態としては、先駆けといえるのではないでしょうか」

Youtubeチャンネル「ハッピーロード大山TV」。反響は非常に大きく、年間数百件の取材、問い合わせがあるという。
 

2021年に第1弾として「とれたて村」のECサイトを開設。商店街ECサイトと、商店街のポイントカード「ハローカード」の会員管理システムを連動させた。今後はハローカードに電子マネー機能をつけ、キャッシュレス化を推進していくという。

さらに、これまで商店街をメインに行われていた取り組みは、周辺にも広がっていく。2015年からは東武東上線沿線の複数の商店街が連携したイベント「東上線バル」がはじまり、7つの商店街が参加する「板橋バル」に発展した。これら「バル」シリーズは、これまで10回開催されている。

「大山ハッピーゼミ」なるワークショップも2015年の開始だ。商店主が講師となり、プロならではの専門知識を地元住民にレクチャーする。たとえば講師がシェフなら「レシピの公開」、鍼灸整骨院経営者なら「美容はり体験」などを行うのだ。住民に商店街や店のファンになってもらおうとするこの試みは、大山以外の商店街にまで広がっている。

「バル」と「流し」のコラボイベント。まちバルのイベントは、いまや8つの商店街をまたいだ大イベントとなるなど日々、発展している。

「数年後にはアーケード街の真ん中に都道が通る予定ですし、大山駅も立体交差の高架駅になります。大規模マンション建築などもあり、大山の町並みは大きく様変わりします。そんななか、われわれは自ら理想とする広域的なまちづくりをしていかなければならない。そのためにも、これからは次世代に、大山に根づく進取の精神を伝えていきたいですね」

text:奥津圭介

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