知られざる東京の宝! 奥多摩にひっそりと佇む、神秘の氷瀑と源泉掛け流しの温泉&地酒を楽しむデイトリップ
雪と氷が広がる白銀の世界が、東京都にもあるのをご存知ですか? 奥多摩では毎年1月から2月ころまで、蒼(あお)く輝く氷瀑(凍りついた滝)が見られるのです。一年でいちばん寒いこの時期だからこそ出合える風景を楽しむため、電車とバスを乗り継いで、百尋ノ滝(ひゃくひろのたき)までスノーハイクしてきました。
心身を満たす、雪と氷に包まれた奥多摩の静寂
奥多摩にある落差約30mの百尋ノ滝。ここは真冬になると、見事に氷の滝へと姿を変える。最寄りのバス停から滝までは徒歩で約90分。往復でも3時間ほどだから、日帰りでもハイキング感覚でムリなく行ける。
例年、2月上旬は結氷が進み、滝全体が蒼い巨大な氷柱になる。自然がつくり出す氷の彫刻は、まさに芸術だ。近年は暖冬だったため全面凍結に至っていなかったが、今年は滝すべてが凍っているという情報を聞きつけ、急いで足を運んだ。

JR東日本青梅線「奥多摩」駅から、「鍾乳洞行」か「東日原行」バスに乗って15分ほど。バスの運行間隔は1〜2時間に1本なので、時刻表は事前にしっかり確認しておこう。

バスを降りて林道を進むと、前夜に雪が降ったのだろう。アスファルトの道路はうっすら雪化粧されていて、木々の枝も粉砂糖をまとったように凍てついている。山の岩肌からも氷柱が垂れ下がり、それが朝日を受けてキラキラ輝いて……。まるでアートのようだ。

空気は肌を刺すように冷たいが、心がどんどん浄化されていくのがわかる。こんなところが東京都内にあるなんて!実は、東京都の約4割は森林。こういう場所だってあるのだ。

20分ほど林道を歩くと、川苔山(かわのりやま)の登山口に到着。ここから先は雪道のため、アイゼン(金属製の滑り止め)を装着する。歩くのに苦労するほど雪深いわけではないが、天候次第でコンディションが一変するのが冬の山。踏み固められた雪は凍てつき、場所によっては氷のようにツルツルと滑る。チェーンスパイクやアイゼンは必携の装備なのだ。

比較的開けた林道から、もっと奥深い森の懐へ。登山道の風景が一変する。針葉樹、広葉樹に囲まれた渓谷を歩いても、聞こえてくるのは、かすかな水の音、そしてふかふかの雪に足を下ろすときのキュッという乾いた音だけだ。

沢に架かる小さな橋を渡り、滝へ伸びる山道を進む。一歩一歩、都会から遠ざかると、感覚が研ぎ澄まされていくような気がする。

ほとんど凍りかけている川をのぞきこむと、一筋の細い流れが見えた。小さなせせらぎは岩を伝い、氷の縁をなぞって小さな音を立てている。すべてが凍りついたかに見える山中でも、自然は絶えず動いているのだ。

雪に覆われた大きな岩場を慎重に越えると、視界がぱっと開け、百尋ノ滝が姿を現した。切り立った岩壁のあいだから流れ落ちる水。その両端は氷柱と化していて、滝壺も真っ白に凍りついている。
滝壺は雪で覆われている部分の下も凍りついていて、慎重に足を運べば、滝のすぐ近くまで歩いていける。そこから見上げると、頭上30mから氷の剣が降ってくるよう。とっても冷たい飛沫(しぶき)が頬に触れる。

近年は地球温暖化の影響もあり、滝が凍らない年も増えている。事前に情報を収集して滝に向かっても、必ずしも氷瀑に出合えるとは限らない。百尋ノ滝へのスノーハイクは、「自然はコントロールするものではなく、受け止めるもの」ということを実感させてくれるだろう。
氷瀑にある、もうひとつの楽しみ

下山後、バスの発車時刻とタイミングが合わなくても、約45分の下り坂のハイキングで奥多摩駅に戻れる。歩きながらふと見上げると、渓谷に古めかしい鉄橋が架かっていた。これは日原川をまたぐ「奥多摩工業曳索(えいさく)鉄道線」の鉄橋。石灰石を運ぶトロッコをケーブルで牽引する同鉄道線は、現役の産業用鉄道だ。
そうこうしているうちに奥多摩駅に到着。駅周辺には、源泉100%の温泉施設があり、冷えた身体を温められる。300年以上、日本酒を醸(かも)し続ける老舗の酒蔵「澤乃井」も近く、そこでは利き酒体験や軽食も楽しめる。奥多摩がハイシーズンに入る前に、静かな雪の風景を堪能しよう。
photo&texi:鈴木博美




