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フィンランドの秋は“絵本の世界”! 世界一澄んだ空気の森で感じるウェルビーイング
フィンランドの秋は“絵本の世界”! 世界一澄んだ空気の森で感じるウェルビーイング
NATURE

フィンランドの秋は“絵本の世界”! 世界一澄んだ空気の森で感じるウェルビーイング

スウェーデン、ノルウェー、ロシアと国境を接する北欧の国、フィンランド。充実した社会保障や質の高い医療、教育制度が整っており、世界幸福度ランキングで常に上位に顔を出しています。洗練された北欧デザインや美しいオーロラ、サンタクロース村にサウナと、世界的に注目を集める名物もいっぱい。そこで今回、フィンランドの人々の暮らしに触れ、幸せのヒントを探しにいきました。第1回は、フィンランドの暮らしの根幹にある豊かな森を訪れます。

森で野生のベリーをつまんで食べながらハーブ摘み

首都ヘルシンキから飛行機で約1時間半、ラップランドの丘陵地方に位置するルカ-クーサモ地域。フィンランド中東部の北極圏にあり、ロシア国境にもほど近い地域だ。美しい丘にはヨーロッパで最後に残った──と形容される手つかずの大自然が広がる。ヘイキンヤルヴィ湖のそばにある「イソケンカイステン・クルビ」は、家族経営の小さな自然ロッジ。クーサモ育ちの姉妹がふたりで切り盛りする、周辺の森や湖で採れた食材をつかった素朴な郷土料理が評判のロッジだ。

料理上手の姉カトヤ(左)と、しっかり者の妹シルパ(右)。姉妹の父が手づくりしたロッジで、世界各国からの客を迎える

「今年の夏は30℃を超える日が、3週間も続いたのよ」「いつもは1週間ぐらいなのに! もうすっかり涼しくなったわね」と出迎えてくれたのは、ロッジを切り盛りする姉妹のカトヤさんとシルパさん。さっそく敷地内にある小屋「コタ」で、ランチをふるまってくれるという。とんがり屋根がかわいらしい木造のコタに入ると、中央に置かれた囲炉裏(いろり)で薪(たきぎ)が燃えていた。その上には、いくつものフライパンや鍋がかけられている。

伝統的な木づくりのコタ。囲炉裏の煙突を頂点にした三角形の屋根が特徴だ

「私たちのロッジは森のなかに隠れるように建っていて、ロケーションがすごくいいでしょう。もともとはモノづくりが得意な父が自分で建てて、料理上手の母と一緒にローカルなライフスタイルを紹介しながら、訪れる人々をもてなしていたの。お客さんはヨーロッパからがメインだけど、伝統的なフィンランドサウナを目当てに日本人も来るんですよ」(シルパさん)

ランチの調理はすべて、コタ内の囲炉裏でおこなわれる。ふたりの母の味を姉のカトヤさんが受け継ぎ、訪れる人々にふるまう

敷地内にはホテルやコテージ、湖に浮かぶ「イグルー」など、さまざまな宿泊スタイルの部屋があるそうだ。

家庭的なホテル棟のツインルーム。椅子にはフワフワのトナカイの毛皮がかけられていた

ランチ後は、周辺の森の散策に出かけることに。囲炉裏の薪で温められたコタから出て、鳥のさえずりが響く森に入る。空気も湖の水も澄みきっており、静かな湖面に青空と流れる雲が映っている。世界保健機関(WHO)が発表したデータによると、フィンランドの大気中の浮遊粒子物質の値は平均0.006mg/m3。これは、世界の国でもっとも低い値だという。おそらくラップランドの値は、これよりさらに低いはず。深呼吸が気持ちいいのも納得だ。

透明度の高いヘイキンヤルヴィ湖。大気や水質汚染とは無縁で、湖の水をそのまま飲めるという

“手つかずの自然の森”と聞くと、うっそうと茂る大木たちをイメージする人が多いかもしれない。けれどもラップランドの森の木々は、とても小ぶり。夏が短いため光合成できる期間が短く、寒さや風に耐える目的で成長が抑制されているからだ。木々が大きく育たないため森の地面にまで適度な光が入り、フカフカの苔や下草、菌類と藻類が共生してできる複合体“地衣類”が生い茂っている。

「サウナに入る前の足湯につかう、ハーブを摘みましょう。短い夏の間にたっぷり日差しを受けて、リンゴンベリーやラズベリー、ブルーベリー、クラウドベリーなどのベリー類もたくさん実っていますよ」(カトヤさん)

赤く色づいたリンゴンベリーの実は、葉っぱもハーブとして重用される。その右側にはブルーベリーもなっている

リンゴンベリーは北欧のコケモモ。口に入れると弾け、甘酸っぱいジューシーな果汁が広がる。ブルーベリーもあちこちに実っていて、それをつまんで食べながらハーブを摘んでいく。野生のベリーを口に入れつつハーブ採集なんて、なんてメルヘンな世界! しかも、すべてフリーだなんて。

「フィンランドにはEveryman’s Rights(自由享受権)という権利があって、誰もが自由に森に入ってベリーやハーブ、キノコなどを採ることが認められています。私有地にも入れますが、他人の家の庭に入らない、自然を荒らさないなどのルールを守る責任を忘れないこと。それさえできれば、誰もが自然の恵みを平等に受けられるのよ」(シルパさん)

ラズベリーやリンゴンベリー、ブルーベリー、白樺の葉っぱにはそれぞれアンチエイジングや肌のうるおいを守るなどの効能があるとカトヤさん。「ハーブは乾燥させてティーにするほか、料理やスキンケアにもつかいますよ」

地衣類の美しい緑にベリーの赤や紫が点在する、絵本のような世界。いまにもムーミンが姿を現しそう……などと思いながら白樺の葉を摘んでいると、森の中から野生のトナカイが3頭姿を現した。コテージで飼われている犬が、「やい、オレの縄張りに入ってくるな!」と大騒ぎ。トナカイたちは吠える犬を一瞥(いちべつ)しつつ、悠然と木立のなかに歩き去っていった。

「トナカイたちは毎日のようにここを通っていくの。この子はそのたびに吠えるんだから、やんなっちゃうわね(笑)! クーサモにはトナカイの牧場があって、ソリに乗ったりエサやり体験ができたりと、観光客に人気なのよ」(カトヤさん)

森にはベリーにハーブ、キノコ、野生のトナカイなどが生息し、湖にはマスの仲間ホワイトフィッシュが泳ぐ。これらすべて、ラップランドの人々の食卓に上がるのだ。調理する囲炉裏の薪も、豊かな森からの恵み。森とともに暮らす豊かな生活は、フィンランド人の幸福に大きく貢献しているのだろう。

──キノコ狩り編に続きます──

photo&text:萩原はるな

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