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北ドイツへ「スロートラベル」! 多様な生きものを育む、地球最大の干潟を歩く
北ドイツへ「スロートラベル」! 多様な生きものを育む、地球最大の干潟を歩く
NATURE

北ドイツへ「スロートラベル」! 多様な生きものを育む、地球最大の干潟を歩く

ドイツ北西部に位置する東フリースラント地方。オランダと国境を接し、北海に面するこの沿岸地域には、地球最大規模の干潟が存在します。緑豊かな平野の先に、塩性湿地帯と広大な干潟が広がり、約10,000種の動植物が生息。世界的に優れた地質学的および生態学的重要性により、ユネスコの世界遺産に登録されています。沿岸近くにはアザラシ保護センターがあり、保護した赤ちゃんアザラシをワッデン海に戻す活動をしています。

世界自然遺産とラムサール条約に登録された貴重な湿地

紅茶の町レーアから車で北へ1時間ほど走ると、北西ヨーロッパ大陸と北海の間に横たわる水域、ワッデン海に到着。堤防周辺の塩性湿地では、羊が放牧されていた。

「羊のひづめによって土壌が均一に圧縮され、踏まれることで芝生が分げつ(ぶんげつ)されて草の密度が高くなります。密生した芝生と固い地盤を作ることで、高潮時の堤防の損傷を軽減するのが目的です」(国立自然景観協会CEOペーター・ズートベックさん、以下同)

2009年、オランダ、ドイツ、デンマークの三国にまたがるワッデン海は、世界遺産に登録された。

「世界自然遺産であると同時に、保護すべき貴重な湿地としてラムサール条約にも登録されています。ワッデン海の最大の特徴は、全長500キロと世界最大の干潟であること。潮の満ち引き​​によって、1日2 回、約10,000km² の干潟が現れます。ここは渡り鳥にとって欠かせない中継地、および休息地であり、春と秋には1,000万羽以上の鳥たちが集まります。シギやチドリ、カモ類などが干潟に降り立ち、豊富な餌を摂取して体力を蓄えるのです」

鳥だけでなく、ゼニガタアザラシやハイイロアザラシもワッデン海に生息。干潟の砂州は、休息や出産の場になっているそうだ。 「ワッデン海では、繊細で絶妙なバランスが保たれたエコシステムが機能しています。干潟、砂州、塩性湿地、浅い海が一体となって生態系を支え、そこで暮らす多くの生物が互いに依存しあって成り立っています。漁業や観光業が地域経済を支えていますが、過度な開発や環境への負荷がワッデン海の繊細な生態系に悪影響を与える可能性があります。そのため、地域政府と環境保護団体が協力し、持続可能な漁業やエコツーリズムを推進。自然環境を保護しながら経済活動を行う取り組みにあたっています」

裸足で干潟を歩いてみたところ、泥はひんやりしていて滑らか。まるで泥スパを体験しているようだ。泥を持ち上げると、貝類やカニ、小さなエビ、そのほかさまざまな小さな生き物が見つかった。日本では「厚岸草(アッケシソウ)」と呼ばれている、シーアスパラガスがあちらこちらに生えている(上写真)。ペーターさんがちぎってくれた一片を食べてみると、ほんのり塩気があり、シャキシャキした食感。そのまま食べてもおいしかったが、サラダに加えるといいアクセントになりそうだ。天然のシーアスパラガスは日本では絶滅危惧種に指定されており、収穫はもちろん食べることもできない。ワッデン海ならではの、貴重な体験ができた。ちなみに、参加していたヨーロピアンは全員、すすめられても食べようとしなかった。

1971年創立のシールステーション国立公園ハウスは、母親を亡くした赤ちゃんアザラシの保護施設。毎年80〜150頭の孤児アザラシが保護・飼育され、野生に戻す訓練を経て北海に還される。ワッデン狩猟監視員を中心に 、100名を超えるボランティアスタッフがセンターの活動をサポートしているという。

館内では、外のエリアにいる赤ちゃんアザラシが水中を泳ぎ回る様子を半地下のスペースから観察できる。そのほか、さまざまな種類のアザラシや、ワッデン海に関するパネルやインタラクティブ体験ができる展示も充実していた。

アザラシセンターの近くにはビーチパークがあり、たくさんの人が太陽と海と青空を満喫していた。ドッグランならぬ、ドッグビーチもあり、柵で囲まれた広い砂浜を思いきり走り回る犬たちが微笑ましかった。夏でも水が冷たすぎて泳げないものの、南国のビーチとはまた違ったよさがある。

ドイツは、公共交通機関やデパート、レストランなど、あらゆる場所に犬を連れて行けるドッグ・フレンドリーな国。料金を支払えば、電車やバスへの乗車も認められている。躾の学校に通わせるのが常識で、公共の場で騒いだり吠えたりする犬を見ることはほとんどない。犬は人間と対等な立場にいると考えられおり、犬税と呼ばれる税金を納める義務も課されている。

ワッデン海の干潟がもたらす生物多様性を体感し、ゆったりとした時間を楽しむ旅。心を豊かにし、自然と人間のつながりを再確認させてくれる「スロートラベル」に、最適な場所だった。

協力:ドイツ観光局、Seehundstation Nationalpark-Haus(シールステーション国立公園ハウス)、photo&text:鈴木博美

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