森の木々と炎、ハーブ、河原の石、湖水の恵みで心身がととのう! 本場フィンランドの伝統的なスモークサウナ
洗練された北欧デザインや美しいオーロラ、サンタクロース村にサウナと、世界的に熱い注目を集めているフィンランド。充実した社会保障や質の高い医療、教育制度などが整っており、国連の「世界幸福度報告書」では8年連続で世界1位に輝いています。ではなぜ、この国は「世界で最も幸せな国」であり続けているのでしょう? フィンランドの人々の暮らしに触れ、幸せのヒントを探しにいきました。第4回は、全サウナー必見の、本場フィンランドサウナの魅力に迫ります。
十分にあたたまったら、澄みきった湖にドボン!
「サウナー」と呼ばれる愛好家が熱くその愛を語るなど、日本でもすっかり定着しているサウナ。1万以上前にフィンランドで誕生した伝統文化で、2020年にはユネスコ無形文化遺産に登録されている。フィンランドのサウナは単なる入浴施設を越えた、生活に根ざした神聖な場所なのだ。
もっとも伝統的なスモークサウナは、煙突のない小屋で薪を燃やし、数時間かけてサウナストーンや部屋を温めてから入る。フィンランド有数のスキーリゾート、ルカ・クーサモにある「イソケンカイステン・クルビ」は、家族経営の小さな自然ロッジ。ここではクーサモ育ちの姉妹、カトヤさんとシルパさんが管理する、オーセンティックなスモークサウナが人気だ。
「フィンランド式サウナでもっとも重要なのは、自分の体の声に耳を傾けること。それ以外には、なにも決まりはないのよ。自分が『気持ちいい』と感じるまで入って、自由に楽しむの」(シルパさん)

サウナハットとサウナローブを身につけたシルパさん。「ハットはサウナの熱からだけでなく、冬に外に出て雪で遊んだり涼んだりする際に、寒さから頭を守ってくれるの。とんがり帽子はエルフ(妖精)のイメージ。どのサウナにも、それぞれのサウナエルフがいるのよ」
かつては男たちが厳しい寒さのなか労働に励み、女たちがサウナを温めて準備をしておいたという。また100年ほど前まで、女性たちはサウナのなかで赤ちゃんを産んだそうだ。
「あったかくて温水があって、殺菌されて清潔でしょう。サウナは出産の場であり、死者が最後に体を清める場でもあったの。フィンランド人にとってサウナは、人生の最初と最後のときを過ごす神聖な場所だったんです」(シルパさん)

伝統的なスモークサウナ。白樺の薪が燃えるスモーキーな香りが室内に充満し、リラクゼーション効果は抜群だ
伝統的なスモークサウナは、白樺の薪をくべて湖畔などで集めたサウナストーンをあたためる。あたたまったら水をかけて温度&湿度を上げ、ベンチを綺麗にしたら準備完了だ。
「石は一年に1〜2回取り替えます。全部で1000㎏ぐらいあるのよ。石の保温効果はとても高く、薪をくべなくても明日の朝まであたたかさは持続します」(シルパさん)

「サウナユオマ」と呼ばれるサウナドリンクのなかでも、冷えたビールは定番中の定番。セッションの合間に涼みながら飲む地ビールは、心身に染みわたるウマさ
白樺の枝とサウナストーンで温められたサウナは、じんわり汗がにじんでくるやわらかな温かさ。石に水をかける「ロウリュ」によって湿度は高いが、高温のサウナにありがちな息苦しさはまったく感じない。
「これは沼でとれたトゥルヴェ(泥灰)です。顔や身体に塗ってみて! フィンランドで古くから“森のダイヤモンド”と呼ばれる美容アイテムで、洗い流すと肌がツルツルになるわよ。サウナはリラックスやコミュニケーションの場であり、美容と健康の時間でもあるの。洗浄と美肌効果のある白樺の枝を濡らして肌を叩くと、マッサージ効果や美容効果が期待できますよ」(シルバさん)
イソケンカイステン・クルビから車で約30分、ヴィルックラ村にある「House of Northern Senses」は、かつての小学校を美しくリノベーションしたマナーハウス。地元の暮らしや自然体験が楽しめる、静かな湖畔に建つ宿泊施設だ。レセプションやロビーなどはなく、広々としたリビング&ダイニングを自由につかえ、まるで大邸宅に招かれたような優雅な気分になれる。

1954年に建てられた村の学校がルーツ。客室は8部屋のみと、プライベート感満載の高級マナーハウスだ
湖畔沿いには2つのサウナ小屋があり、伝統的な薪サウナと本格的なスモークサウナが楽しめる。さらに本館1階にはスパエリアがあり、スタイリッシュで近代的な電気サウナと屋内プール、暖炉付きのリラクゼーションルームが備えられており、まさにサウナ天国!

フィンランドのサウナに併設され、着替えや休憩につかわれる専門の部屋「プクフオネ」。暖炉やドリンク類が完備された、シンプルかつスタイリッシュなくつろぎ空間だ

木の香りがすがすがしい、薪であたためるタイプのサウナ。ロウリュ用の木製バケツには、清らかな湖水がスタンバイ
日本のサウナにつきものの水風呂は、フィンランドではほぼ見かけない。というのも、ほとんどのサウナは湖畔や海沿いにつくられており、夏場はそこに飛び込むためだ。冬は外に出るだけで十分身体を冷やせるし、フカフカの新雪にそのままダイブ! なんてこともできる。湖水はそのまま飲めるほどクリーンだといい、湖面に映る森の木々や青い空が絵はがきのように美しい。まさに身体も心もととのう、究極のサウナ体験だった。
ルカ・クーサモ地域の最後に訪れたサウナは、古い牧場の中にある「ポポヨラン・ピルッティ」。地元食材と伝統を生かした手づくり体験や、本格サウナが人気のリゾート施設だ。オーナーのタニヤ・ポポヨランさんは、伝統的なサウナ療法士でもある。今回はパンづくりのプログラムに参加し、パンを焼いている間に、フィンランドのサウナにまつわる物語を聞かせてもらった。

タニヤさんは11代目の家族として、先祖代々受け継いできた歴史的な建物や農場を守っている。タニヤさんが登場している、サウナを題材にした日本のマンガのページと一緒にパチリ
「サウナは昔から、公衆衛生と医療、そして心身の平穏や人々のコミュニケーションにとても重要な役割を果たしてきました。さらに “自然の教会”ともいわれる、神聖な場所でもあったんですよ。森の木々をくべて石を熱し、その煙や熱を全身で感じて、湖の水で清めながら、木々の葉からパワーをもらう。サウナは自然からのビッグギフトを感じながら、精霊や祖先の魂とつながれる場所なんです」(タニヤさん)
ログハウスのスモークサウナや薪サウナに加えて、近代的な電気サウナ、スチームサウナなど、近年にはいろんなタイプのサウナがある。伝統を大事にしながらも、ライフスタイルやタイミングにあわせていろんなサウナを楽しんでほしい、とタニさん。

フィンランドのサウナになくてはならないアイテム、白樺の枝の束「ヴァスタ」(写真左)。右側は強い殺菌効果と血行促進効果のあるハーブ、ジュニパーを束ねたもの
「フィンランドの赤ちゃんは、歯が生える生後6ヶ月ころサウナデビューを果たします。結婚式の前にはブライダルサウナで、身体を浄化して肌を磨くんですよ」(タニヤさん)
まさにサウナは、フィンランドの暮らしと切っても切れない場所なのだ。
――首都ヘルシンキのサウナ事情に続きます――
photo&text:萩原はるな
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