地方創生をリード!徳島県神山町に見る「未来へのヒント」【後編】
SDGs先進県として、さまざまな取り組みを進める徳島県に、“消滅可能性都市”のひとつに数えられながらも「創造的過疎」と呼ばれる小さな町があります。神山町で暮らし、働く人びとの姿に、未来へのヒントが見えました。
「大地にとてつもない力がある」この地で
神山町への旅の最後に、会いたい人がいた。2020年、この地に拠点を移した料理人のジェローム・ワーグさんと、そのパートナーで環境活動家の松岡美緒さんだ。2人は山間にある改装中の空き家で迎えてくれた。
ジェロームさんが「大地にとてつもない力がある」と評する神山は、有機栽培をする農家も多く、食材を調達するにはこのうえない場所。さまざまな食のプロジェクトを考案中という。一方、パーマカルチャーやエディブル・スクールヤード(校庭で食物を育て食べ、命のつながりを学ぶ)について学んだ松岡さんは、野外のオルタナティブスクール「森の学校みっけ」の設立準備をしている。
「自然と子どもが交わりながら、食を通して学ぶ環境をつくりたいんです。この場所はすでにフードフォレスト。棚田や竹林があるし、梅、桃、すもも、柿、桑、ナツメ、茶の木……と本当に豊か」
築94年の家は28年間空き家だったうえ、すぐそばの田畑も7年前に耕作放棄地になり、雑草が茂っている。でも、何かがたしかに変わり始めている。松岡さんは足元の葉っぱを一枚ちぎって、こちらに手わたす。
「去年ジェロームが篠竹を抜いた場所に、春菊の原種が生えてきてくれたんです。いい香りでしょう」
神山にたくさんの人が惹かれ、根を下ろしていくのは、人やプロジェクトの力だけじゃない。この地には、他を想う心や土地の力がもともとあって、それらが掛け合わさることで、いまの町になっている。小さな春菊がそれを証明していた。
“消滅可能性都市”にこれだけの人びと、取り組みが
NPO法人グリーンバレー
神山町国際交流協会(1992年~)を前身とし2004年に設立。アートによるまちづくり推進、サテライトオフィスの誘致、就業・起業支援、移住・定住サポートなど、神山を元気にするための各事業を展開する。神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックス(KVSOC)/神山メイカースペース(KMS)名西郡神山町下分字地野49-1
フードハブ・プロジェクト
地域でつくり地域で食べる“地産地食”をテーマに、地域内の関係性を築き、神山の農業と食文化を次世代につなぐべく取り組んでいる。自社農園の野菜や果物、地域の食材をつかって、食堂「かま屋」、ベーカリー&食品販売店「かまパン&ストア」などで提供する。名西郡神山町神領字北190-1
白桃家(しらももけ)
町でも少なくなった専業農家の白桃(しらもも)さん一家。米の生産をしながら、植木生産や造園も行う。フードハブで農業チームを統括する白桃薫さん(左端)は、2021年4月に16年勤めた町役場をやめ、フードハブの共同代表に就任した。
神山ビール
アムステルダムから移住したアイルランド人のスウィーニー・マヌスさんと日本人のあべさやかさんが2018年に開いたクラフトビール醸造所。ユーモアと手づくり感あふれる店には、アムステルダムの遊び心ある文化が反映されている。名西郡神山町神領字西上角280-1
廣瀬圭治「神山しずくプロジェクト」
2012年に神山に移住し、サテライトオフィスを開設したデザイナー。建材以外のあらたなスギの価値をデザインし伐採を進めることで、地域の山と水源を守る「神山しずくプロジェクト」に取り組んでいる。SHIZQ STORE 名西郡神山町神領字西上角194
西村佳哲(働き方研究家)
まちのサイト「in Kamiyama」の制作がきっかけで、2014年から東京との2拠点生活を実践。執筆やデザインなど自身の活動も行いながら、2021年9月まで「神山つなぐ公社」の理事として多くのプロジェクトに関わった。
辰濱健一「Sansan神山ラボ」
2010年に徳島県のサテライトオフィス第1号として開設されたDXサービスの企画・販売会社「Sansan」のサテライトオフィス。常駐するエンジニアの辰濱さんが気に入っているのは「通勤の負担がない」のと「仕事に集中できる環境」。名西郡神山町神領字東青井夫36
瀧本昌平「染昌」
染め師。京都で3年間修業したあと、2010年に神山に移住。「神山塾」に参加したのち、自宅のそばに工房&ギャラリースペース「染昌」をもつ。藍や柿渋などを使った天然染料で染めた商品を、展示会等で販売する。名西郡神山町下分松ノ木130 ※工房&ギャラリーは予約制
森山円香&渡邉啓高
集落内で最も高いところにある古民家を改修しながら暮らす、森山さんと渡邉さん。森山さんは2016年に移住し「神山つなぐ公社」で教育部門を担当。ダンサーの渡邉さんはフードハブの栽培に関わったり子どもにブレイクダンスを教えたりと幅広く活動。
金澤光記「リヒトリヒト」
名古屋の義肢装具メーカーで、障害のある方の靴づくりを行ったのち、徳島市内に移住。神山塾を経て、2015年1月に工房兼ショップをオープン。一人ひとりの足の個性と向き合ってつくる靴にはファンが多く、遠方から訪れる人も。名西郡神山町神領字北213-1
松岡美緒&ジェローム・ワーグ
環境活動家の松岡さんは子ども向けのトレラン教室や森の学校を実施。ジェロームさんはオーガニックレストランの先駆け「Chez Panisse」(アメリカ)のシェフを経て、現在は「the Blind Donkey」(東京)のオーナーシェフ。2020年からは、かま屋のメニューも監修。
●情報は、FRaU S-TRIP 2021年12月号発売時点のものです。
Photo:Satoko Imazu Text:Yu Ikeo Illustration:Aki Ishibashi
Composition:林愛子
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