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地方創生をリード!徳島県神山町に見る「未来へのヒント」【中編】
地方創生をリード!徳島県神山町に見る「未来へのヒント」【中編】
LIFE STYLE

地方創生をリード!徳島県神山町に見る「未来へのヒント」【中編】

SDGs先進県として、さまざまな取り組みを進めている徳島県に、消滅可能性都市のひとつに数えられながらも“創造的過疎”と呼ばれる小さな町があります。それが、徳島県神山町。そこで暮らし、働く人びとの姿に、未来へのヒントが見えました。

▼前編はこちら

“地産地食”で大繁盛の食堂とパン屋さん

「かまパン&ストア」の看板商品「いつもの食パン」は、もっちりした食感が人気

9月のとある日の早朝、「かまパン&ストア」からは、焼きたてパンの幸せな香りが漂っていた。

無農薬、無化学肥料栽培主体の「里山の会」のリーダーで、農業歴40年以上の上地公一さんが、採れたて野菜を運んできた

軽トラックが到着、地元の農業グループ「里山の会」の上地公一さんがコンテナを持って降りてきた。

本日の納品は、大きなナスにカラーピーマン、新生姜、セレベス、ずいき(ハス芋の茎)。「農薬はキライやけんね」と笑う上地さんの腕のなかで、ほんの数分前に採れた野菜たちが光っている。

フードハブ・プロジェクトのメンバーたち。左から、かまパンのスタッフ・守田さん、パン職人の鈴木秀明さん、パン製造責任者の笹川大輔さん、農業長の白桃薫さん、「かま屋」料理長の清水愛さん、同店長の石田青葉さん、支配人の真鍋太一さん

ここフードハブ・プロジェクト(以下フードハブ)は“地産地食”をモットーに、できるだけ町内産の、それも有機や無農薬で育てられた野菜をつかった料理を提供する。

町内産食材の割合を「産食率」として算出し、毎月公開している

自社でも農業チームをもち、野菜は耕作放棄地等を借りて栽培している。

週替わりのかま屋のランチ。地域で不要になった食器も活躍

毎月発行の「かま屋通信」をはじめ、テーブルに置かれた産食率のレポート、地域の不要品を譲り受けた食器類、町内産のスギ材を使った内装……。店のそこかしこに、神山の“地面”を身近に感じる仕掛けがしてある。

里芋の葉を花瓶に飾る石田さん。スタッフが近所で摘んできた花や、農家が持ってきてくれた植物で店内はいつも鮮やか

そんな印象を伝えると、支配人の真鍋太一さんは「会社自体も有機的にしたいんです」と語り始めた。

町内産のスギ材をつかった明るい店内

「みんなでとにかく話し合う、という心がけで5年間進んできました。その意味では、畑の土と同じで、有機的な方法で耕され、すごくいい状態になってきている。鶯宿梅が実りすぎて余っている、といった気づきから加工品がつくられることもあるし、料理長のリクエストをもとに農業チームが実験的に育て始めたものが、気づけば商品化できる規模になっていた、なんていうこともあります」

フードハブ農業長の白桃薫さん(左端)とその家族。父の茂さん(左から4人目)は30年以上前から神山で農業に従事してきた大ベテラン。フードハブの農業指導長でもある

地元農家出身でフードハブの農業長でもある白桃薫さんは、「フードハブが、ここに宝があることに気づかせてくれたって、父がよく言うんです」と、こんなエピソードを話してくれた。

昭和53年発刊の『神山の味』。フードハブでは復刻版をつくり販売している

「白桃家が自家用に代々育ててきた在来の小麦があるのですが、近頃ではつかい途もなくなり、それでも種を継ぐためだけに栽培していました。それを知ったフードハブのメンバーが、ちゃんと栽培して製品化しようと提案してくれたんです。現在その『神山小麦』は、かまパンのすべてのパンの酵母につかわれているんですよ」

城西高校神山校の課外授業「神山創造学」で、フードハブ樋口明日香さん(左端)とともにビール工房を見学する生徒たち

今後はフードハブの食育部門がNPOとして独立する予定だ。代表となる樋口明日香さんは、食育・食農教育の大切さを、ちょうど見つめ直しているところ。

城西高校神山校の生徒が栽培する神山小麦を使った「SHIWASHIWA ALE」(左)。小麦の種が70年以上も継がれたことにちなんで、阿波弁で「しわしわいきよ」=ゆっくりいこう、の意味を込めた

「小学5年生のときに田植えと稲刈りを経験した子どもが、その4年後に『あれから町の風景の見え方が変わった』と話してくれて、胸が熱くなりました。自分が関わったものは解像度が上がって見えるようになる。その目があれば、自分で考えたり、想像したりしやすくなる。どんな世界でも生きる力になるはずです」

2021年4月にオープンした、町産材を使った木製品やエッセンシャルオイルなどを展示販売する「SHIZQ STORE」

フードハブが食と農なら、「神山しずくプロジェクト」(以下SHIZQ)は木と水だ。町内産のスギ材をデザインの力で価値あるものに変え、余すところなくつかう。それによりスギの伐採が進み、豊かな山と水源が再生される循環をつくり出す。キネトスコープ社の代表でデザイナーの廣瀬圭治さんは、神山の豊かな自然に惹かれて9年前に移住。けれどその自然が、実は“緑の砂漠”だったことに気づき衝撃を受けたと、当時を振り返る。

スギ材の特徴である赤と白の木肌を生かしたツートンカラーの器は、非常に軽く口当たりやわらか。スギ材から抽出したエッセンシャルオイルやチップをつかった除湿芳香剤なども人気がある

「神山の山々は、ほとんどが戦後に建材用に植えられたスギの人工林です。安い外材が入ってきてからはつかい途がなくなり、間伐・伐採されず過密状態に。針葉樹のスギは1年じゅう葉を落とさないので山肌に光が届かず、硬くなった土は保水力を失い、山から川に流れ込む水量が年々減っています」

始業前の早朝に渓流釣りを楽しむ廣瀬さん

実際、鮎喰川(あくいがわ)の水量は30年前の3割にまで減ったというから驚くが、それは神山に限ったことではない。近年、各地で多発している土砂災害も、根っこの浅いスギが引き金になっている。日本の中山間地域の問題解決の一手となるように、SHIZQを100年つづくモデルにするのが廣瀬さんの目指すところだ。

「神山では、90歳にもなるおじいさんが桜の苗を植えるんです。それって少し不思議に思いません? でも『ここに桜あってみ? キレイやろ』って、笑顔を浮かべて。自分のためじゃない、いつかの誰かのため。ここ神山には、そういう感覚が当たり前にあります」

▼後編につづく

●情報は、FRaU S-TRIP 2021年12月号発売時点のものです。
Photo:Satoko Imazu Text:Yu Ikeo Illustration:Aki Ishibashi(P.39)
Composition:林愛子

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