店の入り口に「何も買わないで」の文字が!? オランダのSDGs最新事情
サーキュラーエコノミーの先進国として知られるオランダ。さまざまなジャンルで取り組みが進んでいるエリアでは、人々の意識はすでに未来を見据えています。首都アムステルダムを中心に、世界でも一歩進んだオランダの事例を紹介します。
アムステルダム市が掲げる
具体的な到達目標は?
2025年には65%の家庭ごみはリサイクルまたはリユースできる仕組みで分別されること。2030年には使用されている第一次原材料資源の50%削減。そして2050年には完全なサーキュラーエコノミーの確立を目指している。
ファッションのあり方を
問いかける“服の図書館”
流行りに乗って新しい服を購入し、それでもすぐに飽きて着なくなってしまったことや、数回袖を通しただけで捨ててしまった経験はないだろうか。
レナ・ザ・ファッション・ライブラリーは、ファッション業界に持続可能な新しい仕組みを提案している。コンセプトは「服の図書館」。サステナブルなファッションブランドや質の高いヴィンテージウエア、地元アムステルダムのデザイナーがデザインした服をレンタルできるのだ。
服には一日あたりのポイントがあり、借りた日数に応じて月末に支払う仕組みになっている。さらに気に入った服は購入もできる。ムダな消費を防ぎ、環境にやさしいだけではなく、ふだん買わないようなファッションに挑戦できる点も魅力だ。
レナは2014年にアンジェラ、ダイアナ、エライザの三姉妹と友人のスザンヌが立ち上げた。本当に気に入った服だけを手元において、長く愛用するようになれば人々の消費活動が変わると信じて行動してきた。エライザは言う。
「新しい仕組みの事業なので試行錯誤の繰り返し。大変ですがやりがいがあります。今後、もっと借りる仕組みが広がっていくことを願っています」
世の中を循環型へ導く
気鋭のコンサルタント
サーキュラーエコノミーで大切なことは、つくり手側が主体的に製品設計の段階から廃棄までを想定し、製品や業界の仕組みをつくっていかなければならないということ。
リック・パッセニアは、その概念を伝えるべく活動する、アムステルダムでも有名な起業家であり、サーキュラーエコノミーコンサルタントだ。政府や製造業を対象に循環型経済に移行するためのコンサルティングを提供したり、代替プラスチックの一種であるPHAを推進するためのプラットフォームをつくるなど、少数精鋭で多数のグローバル企業を巻き込みながら、精力的に活動している。
近年、注力するのがタイのスタートアップ企業モアループのヨーロッパでの事業展開だ。モアループは、タイ国内にある約70ヵ所の縫製工場で余った高品質な残布を集め、中小企業やデザイナーに販売するという事業。それらで衣類やバッグなどの商品開発もする、タイで注目の企業だ。
「各国のよい事例が循環したら世界は変わっていくと思う」と話すリック。EUから始まったサーキュラーエコノミーを逆輸入して取り入れる。そんな俯瞰的視点が、世界の流れを変えていく。
生産者と消費者をつなぐ
ニューセレクトショップ
店に入ると、まず壁に描かれた「BUY NOTHING(何も買わないで)」の文字が目に飛び込んできた。その下に「ただし、どうしても買わなければいけないときは、地元のものを買いましょう」とある。買い物にきたのに、買わないことを推奨されるとは。何かを買う前に、「本当に必要だろうか」「自分が買うものは、社会や環境にどんな影響を与えているのだろう」と立ち止まって考えるのはいいことだ。
ザ・メーカー・ストアは、アムステルダムの地元メーカーがつくるアートワークやプロダクトを扱うセレクトショップ。社会や環境に対して、誠実で持続可能な製品のみを置くことを信条としている。
「商品には100%リサイクルのアクリルで制作したアクセサリーや、ビールの残留物でできたグラノーラ、コーヒーのかすからマッシュルームを育てられるキット、革工場で余った素材からつくったバッグなど、ユニークで面白いものがたくさん。それぞれに生産者の想いが込められています」。こう笑顔で語ってくれたのはマネージャーのサナ。ショップは、かつての路面電車の車庫だったデ・ハレンにあり、定期的にマーケットなども開催され、多くの人々が集う人気スポットとなっている。
「歴史的な建造物を壊すことなく、新しい形で活用し、長く使おうとする姿勢は、私たちの理念とも共通しています」
ザ・メーカー・ストアは、大量生産、大量消費社会に疑問を投げかけ、そのスタイルに賛同する生産者と消費者がインスピレーションを与え合うプラットフォームとして機能することを目指している。
環境負荷を軽減させて
ブランディングと両立
アパレルメーカーが服を輸送する際につかうハンガーはプラスチック製がほとんど。そのハンガーは店舗では使用されず、送り返すにはコストがかかりすぎるため廃棄される。紙でできていれば、環境負荷を減らせるのではないか。そんなアイデアから生まれたのがノーマン・ハンガーズだ。広報担当のカリーナは、「ハンガーを紙にするだけで、社会を変えるツールになった」とたしかな手応えを感じている。
リサイクル紙でできたハンガーは、環境にやさしいだけではなく、広告効果もある。ブランドごとにカスタマイズされるハンガーには、ロゴやブランドストーリー、二次元バーコードのプリントができる。つかうインクは植物由来のもの。ある子ども服のブランドは、あえて色をつけずに子どもがぬり絵をできるように工夫している。
ノーマン・ハンガーズは、「Make your brand sing!(あなたのブランドを歌わせましょう!)」がコンセプト。ハンガーを紙に変えるだけというシンプルさから、ここ数年で企業からの問い合わせが増加。その手軽さが大きな魅力となっている。
●情報は、FRaU2021年1月号発売時点のものです。
Photo:Tetsuro Miyazaki Text:Mariko Sato Cooperation:Akihiro Yasui Edit:Chizuru Atsuta
Composition:林愛子