所有しないで利用する暮らしへ。サーキュラーエコノミーが実現してくれる未来
いまからサーキュラーエコノミーに取り組んだら世界はどうなっている? 一般社団法人 サーキュラーエコノミー・ジャパンの中石和良さんに伺いました。今回は、現代を生きるリニアちゃんが、さきゅらちゃんに連れられて30年後の世界をのぞきに行きました。
リニアちゃん
「買い物こそ人生、物欲を満たすって最高!」
さきゅらちゃん
「モノを買って所有するより、
サービスを利用したほうが快適だよ」
2050年にタイムスリップしたリニアちゃん。モノが少ないさきゅらちゃんの暮らしを見て仰天! 「必要なモノはレンタルして、いらなくなったらメーカーに返してるの。だからつかわない家具や家電なんてひとつもないの」とさきゅらちゃん。
携帯電話やパソコンは最新モデル、洋服や靴もトレンドを押さえたオシャレなものばかりで、生活費を切り詰めてお買い物にあてているリニアちゃん、「さきゅらちゃん……、社長令嬢なの!?」といぶかしむ。
「ううん、携帯やパソコンもレンタルで、最新モデルが出たら交換してくれるの。服や靴も買わずに借りればトレンドのものを安く着られるし、着なくなったらまた別の人が着るから廃棄物も出さずにすむの。しかもこの靴は100%海のごみからつくられてるんだよ」
「え、靴がごみから!? てか服も家具も借りる? 新品ピカピカのモノを血眼になって買ってた私の人生って、いったい何だったの~!?」
リニアちゃん
「買い物できない人生って、つまらなくない?」
さきゅらちゃん
「本当に欲しいのは『モノ』じゃなくて、
『快適で心地いい暮らし』なんじゃないかな」
物欲女子だったリニアちゃん、サーキュラーエコノミーの世界は少し物足りない様子。そこでさきゅらちゃんが案内したのが美顔器メーカー。
「最新の美顔器を借りて、つかった時間の分だけお金を払えばいいんだよ」(さきゅらちゃん)
「これ超高いやつ……月々こんなに安くつかえるの最高!」(リニアちゃん)
しかも使用状況や時間を自動的に記録して、さらにつかいやすい新商品づくりにつなげてくれると聞いて、リニアちゃんはびっくり。
「つかえばつかうほどいい商品が生まれるなんて、めっちゃよくない? 修理とかメンテナンスもしてくれるなんて、サーキュラーエコノミーって神!」(リニアちゃん)
「自分で所有するとお金もかかるし、修理や廃棄も手間がかかるけど、サービスを利用すれば楽だし快適でしょ。いつも最新モデルをつかえる楽しみもあるし」とさきゅらちゃん。
「現代に戻ったらみんなにサーキュラーエコノミーのよさを伝える! 30年で絶対追いつくから」(リニアちゃん)
最新の美顔器を握りしめ、リニアちゃんは現代に帰っていったのであった。
サーキュラーエコノミーが
実現する、スマートな社会
世界に広がり始めているサーキュラーエコノミーへの移行の取り組み。欧州ではすでに国や民間でさまざまな政策が進められている。
「EUは2019年に、2050年までにCO2排出量を実質ゼロにする目標を含む『欧州グリーンディール』政策を公表。オランダでは2050年までに100%サーキュラーエコノミーを実現することを目標に掲げています。同時に世界のグローバル企業が大量生産、大量消費の経済システムに終止符を打ち、画期的な製品やサービスを生み出しています」(中石さん)
何やら壮大な話に聞こえるが、この転換は私たちの生活にも大きな変化を与えるという。
「たとえばスウェーデンの家電メーカー、エレクトロラックスでは消費者に掃除機をレンタルし、掃除した面積に応じて料金を請求するというビジネスモデルを構築しています。従来のように掃除機というモノを売るのではなく、『部屋をキレイにする』サービスを提供するのです」
ここで疑問が湧く。モノを売らないビジネスで、メーカーには利益が出るのだろうか?
「もちろんです。掃除機を売却せず、所有権を保持したままレンタルする仕組みなら、丈夫で長持ちする掃除機をつくり、修理や整備をしながら複数の借り手に長期間貸せます。1台あたりの生産コストパフォーマンスが高まりますし、製造工程でも最初からリサイクルを想定した設計や素材を選び、なるべく分解や修理しやすい製品をつくることで原料や製品を長くつかえ、コストや資源のムダをカットできます」
このシステムにはさらにうまみがある。
「レンタルする掃除機にはセンサーがついていて、利用者が掃除した面積や部屋ごとの利用頻度、時間など、ユーザー行動が記録されます。メーカーはこうしたビッグ・データを活かすことで、よりよい商品をつくったり、新たなサービスを生み出せるのです」
消費者は新モデルをつかいたければ旧品を返送し、メーカーは旧品をリサイクルすればいい。
「このビジネスの根底には、資源を循環させながらとことんつかい続けるという考え方があります。さらに、そこにデジタル技術を組み合わせることで最大限の効率性と企業メリットと、ユーザー体験価値の向上を生み出す。実際にこうした循環型のビジネスモデルに転換した企業の多くは、目に見えて業績がアップしています」
こうした転換は多分野で進んでいるそう。
「オランダの電機メーカー、フィリップスの照明専門企業・シグニファイでは、法人に向けて電力消費量が少ないLEDライトの照明インフラを提供し、削減できた電気料金の額に応じて報酬を得ています。タイヤメーカーのミシュランも顧客にタイヤを貸し出し、走行距離に応じて料金を請求するシステムを取り入れています。どちらもユーザーの使用データを回収し、サービスや製品の品質向上に生かしています」
サーキュラーエコノミーの世界では、製品は「所有」するのではなく、サービスとして「利用」するもの。つくっては捨てを繰り返すライフスタイルではなく、必要なときに必要な分だけ使い、いらなくなったら捨てずに次に必要としている人のところへ届ける。さらにそうしたサイクルがもたらす「情報」が、より便利で快適な暮らしを生み出す助けとなり、消費者もメーカーも豊かになっていく。こうした“いい循環”がずっと続いていくのが、サーキュラーエコノミーが目指す経済、社会のあり方だ。
「サーキュラーエコノミーは経済、産業だけでなく、税制や金融、投資、社会的便宜までをオーバーホールし、その根源となる自然の生態系の保護と復元を進めます。それによって人間の健康と幸せを実現するところまでがゴール。国や自治体、NGOや企業、私たち一人ひとりがサーキュラーエコノミーへ舵を切ることが、今後の未来を左右する、大切な決断なんです」
PROFILE
中石和良
2013年にBIO HOTELS JAPAN(一般社団法人 日本ビオホテル協会)を設立。2018年に一般社団法人 サーキュラーエコノミー・ジャパンを創設し、代表理事として日本でのサーキュラーエコノミーの認知拡大を推進する。
●情報は、FRaU2021年1月号発売時点のものです。
Illustration:Amigos Koike Text:Yuriko Kobayashi Edit:Chizuru Atsuta
Composition:林愛子