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重い病気と闘う子どもたちが自由に楽しめる場を! 日本初、寄付で成り立つ「こどもホスピス」
重い病気と闘う子どもたちが自由に楽しめる場を! 日本初、寄付で成り立つ「こどもホスピス」
FEATURE

重い病気と闘う子どもたちが自由に楽しめる場を! 日本初、寄付で成り立つ「こどもホスピス」

日本国内には、生命を脅かされる病気または重い病気の子どもたちが約2万人いるとされています。けれども現状では、そんな子どもたちに必要な、遊びや学びを提供できる施設が足りていません。2016年に大阪市の鶴見緑地に誕生した「TSURUMIこどもホスピス」は、病院と自宅にしか居場所がない子どもたちとその家族が、ゆっくり過ごせる場所。病気と戦う子どもたちとその家族が、前向きに自分らしく、深く生きられるようサポートしています。

子どもや家族がガマンしてきた「やりたい」を叶える

ホスピスと聞くと、「残された時間を、最期まで穏やかに暮ごすための施設」をイメージするかもしれない。けれども日本ではじめての民間子ども向けホスピス「TSURUMIこどもホスピス」は、子どもたちが精一杯生きるためのポジティブな場所。病院や家でずっとガマンしてきた「やりたいこと」を叶えるための施設なのだ。

「当施設に登録されているのは、生命が脅かされた状態にある0歳から20歳代の子どもとそのご家族。約7割が白血病や脳腫瘍などの小児ガン患者で、診断後3年経っていないか、再発した子どもが対象です。そのほか、先天性心疾患や重症型の筋ジストロフィー、重度脳性麻痺などの子らと家族で、現在は約200家族が登録しており、オープンから2024年度末までに約360家族が利用されました。重い病気にかかっていると、せっかく病院から外出が認められて家に帰れても、免疫力の低下や医療的ケアのため、外出や外食もままなりません。当施設は、子どもが病院やお家(うち)でずっとガマンしてきた『やりたい』を応援する場所なんです」 そう語るのは、同ホスピスの広報担当で看護師の西出由美さん。ここには看護師や理学療法士、保育士などそれぞれの分野のプロフェッショナルが多く在籍し、子どもや家族のサポートにあたっている。

自然豊かな鶴見緑地の一角にあるTSURUMIこどもホスピス。オシャレなデザインの木造建築が目をひく

「入院中だけでなく、退院後もここに通うご家族がたくさんいらっしゃいます。当施設では、病気と闘う子ども同様、その親や兄弟姉妹も大切にしています。子どもが闘病中に亡くなってしまってからも、たくさんのガマンや悩み、苦しみを抱えているご家族が多いですから」(西出ん、以下同)

支援者対応を担当する安在さんは、同施設の元利用者。「息子が3歳で脳腫瘍にかかり、寛解(かんかい=完治)して7歳まで元気だったんです。けれども9歳で再発、闘病後に亡くなりました。TSURUMIこどもホスピスは、息子や私にとってとても大切な居場所でした」

施設の利用は2時間程度の日帰り利用が中心だが、子どもの状況に合わせて宿泊も可能。家族旅行が難しい病児を抱える家庭に大人気だという。宿泊用の部屋にはキッチンもついている。さまざまな規制がある病院とは違い、料理をするなど自由に過ごせるようになっているのだ。

子どもが走り回れる広い部屋や、家族で入れる大きいジャグジーがついたバスルーム、オモチャの部屋や音楽ルームなど、家族で楽しく過ごせる空間を用意

「ホントに自由に過ごさせてもらって、家族の憩いの場になっています」とは、こちらをよく利用するという堺市在住の岸本奈緒子さんだ。

「息子の幸人(ゆきと)が1歳半のとき、発熱が1週間続いて病院に行ったところ、神経細胞のがん『神経芽腫』にかかっているとわかったんです。すぐ入院して闘病生活が始まったんですけど、入院中はいろいろ制限があって遊び場も限られる。そんなときに病院からホスピスを案内してもらって、一時退院のときに利用したのが最初。退院したいまも、家族みんなでお世話になっています。小学3年生の娘も、ここに来るのを楽しみにしているんですよ」(奈緒子さん)

闘病後に寛解し、幼稚園に通いはじめた幸人くん(左)。姉の陽菜子ちゃん(左)と一緒にイベントで振る舞われたラーメンを味わい、「何じゃこりゃ! ホンマもんや!」と大喜び

「TSURUMIこどもホスピス」の構想や設立に尽力したのは、小児科医の原純一副理事長だ。看護師や保育士が常駐し、それぞれが専門性を活かしながら患者と家族に“友”として寄り添う。病気のことや退院後の不安に対する相談や、子どもを喪(うしな)った後のグリーフケア(喪失を経験した人たちへのケア)などもおこなっている。

「闘病中は家族もずっと気を張っていますから、『とにかくゆっくりしたい』という気持ちが強いんです。病気の兄弟をもつ子どもたちも、いろいろなガマンを強いられています。ここではそんな日常から離れて、思いきり遊んでもらいたい。病気の子どももその兄弟も、同じように“ひとりの子”として接しています」(前出、西出さん)

思春期の子どもと家族に寄り添う新設エリア

小児ガンなどの重い病を患う10代の若者は、青春時代の大切な時間を治療や入院、手術などに費やされてしまう。なかには孤立感のあまり、追い詰められてしまう子どもいるそうだ。そこでTSURUMIこどもホスピスでは、13歳〜20歳の中高生らを対象にした専用エリア「Teen Clubhouse(ティーンクラブハウス)」を新設。登録者が、好きなことをあたりまえに楽しめる環境を提供している。

最新のゲーム機器で自由に遊べる部屋「Game Club」

施設から自転車で15分のところで暮らす都能(つのう)朋子さんと彩華さん親子は、2024年からこの施設を利用している。

「鶴見緑地に建物ができたのは知っていたんですけど、まさか娘が病気になって自分たちが利用するとは、思ってもいませんでした。娘が小学5年生のときに急性骨髄性白血病になって入院。それから寛解して半年間は何ごともなかったんですけど、今年3月に再発してしまって……。5月末に骨髄移植をして、7月にやっと退院できたんです。いまは中学校に通いながら、経過監察を続けているんです」(朋子さん)

ティーンクラブハウスのカラオケルームでくつろぐ都能さん母娘

入院中に施設を利用するようになり、退院後もイベントなどに参加しているそう。

「看護師さんに気軽に相談できて、子どもの病気についてもオープンに話せる場があってホンマに助かりました」(朋子さん)

「ここに来ると安心して、好きなことが好きなようにできる。すこく居心地いいです。入院中は息苦しかったりしんどかったりするけど、ティーンクラブハウスはオシャレで、ゲームもカラオケもできて気持ちがアガります! 友だちとお泊まりしたときは、最高に楽しかった!」(彩華さん)

施設で働く安在さんは、病気を抱える親として過ごした経験があるからこそ、子どもやご家族に寄り添うことを大切にしているという。

「(重病の子どもと)お出かけしたら、たいてい腫れものに触るように特別扱いされます。けれどもここでは、皆んながふつうに接してくれました。子どもが天国に旅立つ日が近づいていることはわかっていても、わずかな可能性を感じさせてくれるような……。全力で“生き抜く”ことの大切さを教えてもらいました。私も利用者のみなさんが深く生きられるよう、全力でサポートしていきたいです」(安在さん)

――後編では、「飯田商店」店主が病と闘う子どもにラーメンを届けます!――

photo&text:萩原はるな

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