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【戦後80年】沖縄で平和教育をおこなう「さびら」と“大人の学習ツアー”へ【後編】
【戦後80年】沖縄で平和教育をおこなう「さびら」と“大人の学習ツアー”へ【後編】
FEATURE

【戦後80年】沖縄で平和教育をおこなう「さびら」と“大人の学習ツアー”へ【後編】

平和を考えるうえで大切なことのひとつは、思い込みをなくすこと。“平和学習”は子どもや学生向けと思うかもしれませんが、大人こそ知るべき、学ぶべきことがたくさんあります。太平洋戦争末期の1945年に起きた沖縄戦ではおよそ20万人が命を落としました。この戦争はなぜ起きたのか。これからの平和教育を提案する「さびら」のメンバーとフィールドワークを通して、一緒に歩き、考えました。

▼前編はこちら

「個人の安全や権利が保障されていることこそが平和

首里城公園内の展望台からは、沖縄戦で米軍が上陸した北谷(ちゃたん)や読谷村(よみたんそん)が望める

狩俣さん、安里さんは子どものころ、平和学習が苦手だったという。

「沖縄の学校では毎年『慰霊の日』にあたる6月、図書館に戦争の写真が並べられるんです。それがとてもイヤでした。平和教育というより『グロテスクな話を聞く6月がまた来たな』と憂鬱な気分になったものでした。当時は予備知識もないから戦争体験者の話を聞いてもピンとこなかったのが正直なところです」(狩俣)

北谷は基地を経て観光地に。返還跡地に何をつくるかもこれからの課題

だからこそ「さびら」では、「学ぶことは、なぜ大事なのか」と、姿勢づくりから始め、いま生きている社会を見つめ直そうと試みる。

「平和学習をおこなううえで、対話やコミュニケーションを大事にしています。僕らは体験者の話を直接聞けた最後の世代になると思いますが、用語がわからないと頭に入ってこなかったり、体験者の方の熱量で気持ちがいっぱいいっぱいになることもあった。同じやり方で理解できる子もいれば、伝わらない子もいます。もちろん体験者が語るほうが絶対にいいし、伝える情報量や言葉の重みには勝てないんですけど、自分たちが役割を引き継ぐには、対話をしながら解きほぐしてあげることが大切。僕らもまだ知らないことがたくさんある。だから一緒に調べて引き出しを増やしていく。それが理想ですね」(野添)

嘉数(かかず)高台公園の展望台からは360度のパノラマが広がる。遠くに海を望み、美しい沖縄の景色が広がる一方で、米軍・普天間(ふてんま)基地の飛行場も目に入る。学校や公園のある住宅街のすぐそばにオスプレイなどの戦闘機が駐機されていて違和感を覚える

いつもは子ども向けの平和学習が多いが、大人に対してもアプローチは同じだ。大人向けツアーを企画したのは、「知っているつもりになって、もう知らなくていいと思っている大人や、平和学習は子どものためのものと思っている人が多い」から。

「過去に戦争を応援してしまったのも、子どもたちを戦場に行かせたのも大人。それなのに平和教育は子どもたちが受けるものと思い込んで、平和について考えることをやめてしまっている人が多い。選挙権があり、直接社会に参画できる大人が何かを選択するとき、正しい知識を持っていないと悲劇を繰り返してしまう」(狩俣)

「過去から学び続け、教訓として残さないと。まずは興味を持ってもらい、チャンネルを広げるのが自分たちの役割です。同時に『大人が勝手にバトンを渡すなよ』という思いもある。亡くなった方からバトンを受け取るという想い、考え方は理解できるのですが、いま生きている大人から若者へ、『君たちにバトンを渡す』と言われても。完全に責任を放棄しているなあと感じます。僕らは子どもたちにガイドするとき、そういう表現はしない。いまを生きている人間が、同じ方向を向いて一緒に考えなくては」(安里)

雑誌『Forbes JAPAN』が選ぶ「世界を変える30歳未満の30人」の「30 UNDER 30 JAPAN」を受賞した狩俣さん(左)

最後に、平和をつくるにはどうしたらいいか聞いてみた。それに対して、「まず、平和な状態とはどういうことなのか考えよう」と狩俣さん。

「戦争以外にも格差や貧困、環境問題などあるから、戦争がない=平和ではないかもしれない。戦争と耳にすれば、具体的にどういうことが起こるのか理解できるんですけど、平和にはぼんやりとしたイメージでしかない。まずは具体的にどういう状態かをみんなで確認すること。そのなかで私が考えるのは、個人の権利や安全が保障されていること=平和な状態ではないかと」

沖縄県糸満(いとまん)市に位置する摩文仁(まぶに)の丘からの景色。美しい海が望める絶景スポットとして知られるが、かつては沖縄戦最後の激戦地であり、日本軍と住民は南へ追いやられ最南端のこの地まで逃げてきた

「僕は“違和感”を大切にしたい。これは違うなっていう思いは誰でも持つはずなんですけど、それを声で発すること。声にしたことで社会が拒絶したら、戦争が始まってしまう気もしている。何かおかしいと思った違和感を口に出せる社会をいかにつくり出していくかが、平和をつくるうえで重要ではないかと考えています」(安里)

「まずは身近に会話できる人を増やすのが平和への近道だと思う。思いが近い人との対話や口に出すこと。少しずつでも会話が広がれば、草の根的に広がっていくのではないでしょうか」(野添)

3人が教えてくれた「平和のつくり方」を実践するためには、大人である私たちが思考を停止させないこと。そのために現地に足を運び、自分の目で見て、肌で感じる機会を増やすこと。同じ場所に立つことで、そこにたしかにあった人間の営みや暮らしに思いを寄せられる。思い込みを捨て、想像力を働かせる。考え続けることが平和をつくる一歩につながるはずだ。

●情報は、FRaU2023年8月号発売時点のものです。

Photo:Wataru Oshiro Text & Edit:Chizuru Atsuta Composition:林愛子

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