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「帝国ホテル」総料理長・杉本雄、サステナブルな食材を求めて“1000年の都” 京都へ【中編】
「帝国ホテル」総料理長・杉本雄、サステナブルな食材を求めて“1000年の都” 京都へ【中編】
FEATURE

「帝国ホテル」総料理長・杉本雄、サステナブルな食材を求めて“1000年の都” 京都へ【中編】

2019年に38歳の若さで第14代目の東京料理長に就任した「帝国ホテル 東京」の杉本雄シェフ。2025年4月から第3代総料理長となり、東京、大阪、上高地、そして2026年春開業予定の「帝国ホテル 京都」と、帝国ホテルのすべての味を司(つかさど)ることになりました。杉本シェフは近年、「おいしく社会を変える」プロジェクトを推進。前回に引き続き、食を通じて社会課題を解決するヒントを探しに“1000年の都”京都の生産者たちを訪ねました【中編】。

──前編はこちら──

ジビエ猟&加工の第一人者が害獣を資源に変える

東京・日比谷の帝国ホテルで約350名の料理人を率いるトップシェフでありつつ、食分野でのサステナブルな取り組みにきわめて熱心な杉本さん。そんな彼が、京都の生産者たちを訪ねる旅の2日目、最初に訪れたのは、京都のほぼ真ん中に位置する農山村・京丹波町にある『鹿肉のかきうち』だ。ここでは、安心安全でおいしいジビエ(野生動物の肉)普及のため、徹底した衛生管理をおこない、農林水産省による「国産ジビエ認証」の第1号を取得している。杉本シェフが語る。

「フランス料理では、ジビエをたくさんつかいます。帝国ホテルでもハトやウズラ、ライチョウ、ウサギなどを海外から仕入れているほか、国産のエゾシカや、まれにイノシシなども使用します。ジビエは、捕まえてから処理をして食肉にするまでの衛生管理がとても大事。かきうちさんは、人に危害を加えるシカやイノシシを捕獲して、おいしい肉に加工する分野の第一人者です。私もエゾシカは扱いますが、ニホンジカのお肉は初めて。とても楽しみです」

厳正な衛生管理のもと、食肉用に加工された鹿肉を手にする鹿肉のかきうち代表・垣内規誠さん。害獣をおいしい食事に変換させる取り組みは、幅広い業界から注目を集めている

かきうちでは野生動物を捕獲する際、血抜きを完璧にするために、銃器はつかわず罠(わな)を採用。鮮度を第一に考え、1時間以内に施設に届けられる範囲に罠をしかけている。捕らえたシカやイノシシの洗浄、皮はぎ、内臓の排出などは、それぞれ専用の部屋でおこなっている。

「10年前は多くの方が『ジビエって何?』という状況やったんですけど、4年ほど前に一気にその存在が広がりました。ここ京丹波では、年間2500頭にのぼるシカ、イノシシが害獣として駆除されてて、以前は、捕らえられたシカやイノシシがすべて山に放置されて、汚染や臭気が問題になっとったんですよ」

そう教えてくれるのは、猟師としてジビエハンターの養成も手がけている、鹿肉のかきうち代表・垣内規誠さん。この施設をモデルにジビエの加工場をつくりたいと、全国から多くの人が視察に来るそうだ。

加工施設を見学後、垣内さんから説明を受ける杉本シェフ。ここで処理された鹿肉は百貨店や全国の料理店に提供されるほか、ペット犬用のガムやジャーキーとしても流通。皮は、なめし職人に送って、獲物を余さず活用している

ジビエの解体施設を見学したあとは、いよいよ京丹波産鹿肉の実食タイム。フライパンで焼いた鹿肉を、ポン酢や塩をつけていただく。肉はまったく獣臭のない赤身で、あっさりしていて、いくらでも食べられる。鹿肉は高タンパクで鉄分が多く、カロリーが低いそうだ。

「こちらでは、シカにストレスをかけない捕り方を心がけているそうです。捕獲から加工、管理までとても工夫されていて非常に勉強になりました。私はエゾシカのほうがつかい慣れていますが、今回出会ったニホンジカを、ぜひ7月30日に開催を予定しているディナーイベント『サンセリテ』で調理してみたいです」(杉本シェフ)

この地でしか採れない「丹波黒豆」を堪能!

続いて杉本シェフが向かったのは、『道の駅 京丹波味夢の里』 。丹波栗や丹波黒豆、丹波大納言小豆、大黒本しめじなど、この地でしか採れない野菜や、それをつかった料理と出合える施設だ。ポリフェノールたっぷりの黒豆の味噌、黒豆をつかった和菓子など、オリジナル商品も数多く取りそろえている。

京丹波の自然薯農家、庄﨑博蔵さん(右)と杉本シェフ。シェフは地元産のナチュラルチーズや新鮮な野菜などを、じっくりとチェックしていた

道の駅で出会ったのは、京丹波で自然薯を育てている庄﨑博蔵さん。もともと高級料亭などに卸していたが、コロナ禍によって飲食店の需要が変化したことから、「いいものを適正な値段で買ってくれるところ」に売るようになった。「料理人さんやお客さんのところに出向いて、自分や仲間たちが育てた自然薯などの京丹波らしい野菜を、顔を合わせて販売する。そんなアナログなスタイルが、楽しくて仕方ありません」と庄﨑さんは語る。

道の駅の直売所には丹波黒豆、丹波栗、大黒本しめじなど高級食材のほか、水菜などの京野菜が豊富にラインナップされている。館内の『丹波里山レストラン Bonchi』では、そんな京丹波の味を堪能できる。この日、杉本シェフがセレクトしたのは「黒豆御膳」だ。

地元の食材をふんだんに使用した黒豆御膳。京丹波高原豚の黒豆煮、魚の黒豆味噌煮、黒豆の竜田揚げ、黒豆小鉢、黒豆ドレッシングのサラダ、黒豆入り茶碗蒸し、黒豆味噌汁、黒豆御飯、本日の黒豆甘味と、たしかに黒豆づくし!

「京丹波は山々に囲まれた土地で一日の寒暖差が大きく、食材も食事も非常に豊かです。パリ郊外にも、このように豊かな農村地帯が広がっています。想像していたとおり、やはりパリと京都とは共通点がいくつもあるようです」(杉本シェフ)

──後編では、オーガニックのブドウ畑と宇治茶の畑を訪れます──

Photo & Text:萩原はるな

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