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思い出の洋服をアップサイクル! 青森のランドマークで伝統工芸「南部裂織」にチャレンジ
思い出の洋服をアップサイクル! 青森のランドマークで伝統工芸「南部裂織」にチャレンジ
FEATURE

思い出の洋服をアップサイクル! 青森のランドマークで伝統工芸「南部裂織」にチャレンジ

気温が低く雪深いため、綿花が育ちにくい青森県で受け継がれてきた「南部裂織(なんぶさきおり)」。古布や着古した衣類を裂いて糸にし、あらたな布に再生させる伝統工芸です。青森港を望む「青森県観光物産館アスパム」で、この南部裂織を体験できる2日間のプログラムがスタート! さっそく思い入れのある布や衣類をもちこんで、ランチョンマットを織ってきました。

先人の知恵が生み出した、丈夫であたたかな織物

布を裂いて糸状にし、それを横糸「緯(ヌキ)」として織る「裂織」は、昔から伝わる古着などのアップサイクル法。日本海側の各地や山陰の漁師町のほか、インド、フィンランドなどの外国でもみられる織物だ。綿花の栽培が難しかった青森県では、江戸から明治時代にかけて、北前船(きたまえぶね)で運ばれてくる木綿の布はとても貴重なものだった。ほんの端布でも粗末にせず、重ねて刺し子にしたり、裂いて横糸に織り込んだりして大切につかっていたのだ。

講師の三好千佳さんが南部裂織の魅力にハマったキッカケは、夫の転勤で十和田市に22年間住んだこと。「十和田市にはいまも70台の織機が残っていて、多くの方々が伝統的手仕事を楽しんでいます」

「江戸中期には北前船による交流で裂織が盛んになりました。古い木綿を1㎝くらいの幅に裂いて緯にし、仕事着や前掛け、夜着などを織っていたようです。裂織は木綿の布を織り込んでいるので、とても丈夫であたたかい。青森の人々は寒さに耐えるために、いろんな工夫をして生きてきたんですね」

そう語るのは、南部裂織作家の三好千佳さん(上写真)。青森市生まれの三好さんは自らのアトリエ『さきおりCHICKA(チッカ)』を運営するかたわら、青森県伝統工芸士として、南部裂織体験プログラムの講師を務めている。

「かつて青森県の南部地方の農家には、一家に1台、裂織用の機織り機がありました。旦那さんが奥さんの体型に合わせて木を切り、機織り機を組み立てたそうです。農閑期になると、奥さんたちは家族のために裂織をつくりました。八戸市には、200年前の織機がいまも残っているんですよ。古くから伝わる『もったいない精神』のたまものですよね。体験される方には、そんなバックグラウンドも、ぜひ知っていただきたいです」(三好さん、以下同)

写真左側、青森の頭文字「A」をかたどった建物が「青森県観光物産館アスパム」。青森港岸に建つランドマークだ

裂織体験ができるさきおりCHICKAは、青森駅から歩いて8分ほどの「青森県観光物産館アスパム」にある。アスパムはリンゴなどの農産物や菓子、日本酒、海産物ほかの青森グルメや、伝統的な民工芸品が販売されている物産館だ。1階にはアップルパイ専門店があり、建物に足を踏みいれたとたん、甘く香ばしい香りに包まれる。ワークショップが開催される手づくり体験コーナーや3Dシアターもあり、一日かけて青森を満喫できるスポットだ。

「古い着物をいて織る南部裂織は、すべてが一点もの。織ってみないと柄がどう出るのかわからないのも魅力です。体験プログラムでは、思い出に寄り添いながら日常づかいできる品がつくれますよ」

三好さんの南部裂織作品は、色づかいや柄がモダンでオシャレ。幅広い年齢層のファンをもち、とくにがま口タイプが人気だとか

体験では、服やハンカチなど”思い出の布”をセレクトするところからスタート。事前に持ち込みたい品をスマホなどで撮影し、三好さんに送って、裂織にできるかどうかを判断してもらう。素材は綿、絹、ポリエステル素材の平織りの布がよいそうだ。

「親から受け継いだ着物や、お子さんが小さいころ着ていた洋服など、思い出の布を持ち込まれる方が多いです」

今回、取材班が持ち込んだのは、さんざん着倒したブランドものの黒シャツと、子どもが小学校66年間、給食時につかったランチョンマット。はたして、無事に裂けるのか!?

裂織に使用する布を7㎜〜1㎝ほどの幅に手で裂いていく。コツさえつかめばスルスル裂けて、やみつきになってしまう

裂くのに適した布かチェックしてもらったら、手で裂いていく。「道具もなしに布が裂けるの?」と心配だったが、裂きやすい方向とコツを教えてもらうと……。さ、裂けた!

「つかう布の条件は、平織りで、裂いたときに伸びない、ちぎれないもの。ストレッチ素材の布は向いていません。嫁入り道具などで母からもらった着物を持て余す方が多いのですが、絹の着物や綿の浴衣(ゆかた)は裂きやすくてオススメです」

思い出の服や布をヒモ状に裂いたら、くるくる巻いて球体にする

2日間の体験プログラム初日は、思い出の布を裂いて巻き、どんなデザインの布を織るかを考えるところで終了。緯糸(よこいと)に異なる色を織り込むことで、縞模様ができるのだという。アトリエにあるいろいろな緯糸をワイワイ選んでいるうちに、初日の2時間はアッという間に過ぎた。

南部裂織に海鮮料理、ねぶた祭り体験と、青森カルチャーを満喫

体験1日目は14〜16時と、まだ日が高いうちに終了。せっかくなので、アスパムから徒歩8分ほどの『ねぶたの家 ワ・ラッセ』に向かう。ここは、一年を通じてねぶた祭りを体感できる青森市文化観光交流施設。吹き抜けの広大なホールに、実際祭りに登場した巨大ねぶた(山車灯籠=だしとうろう)が、ところ狭しと並び、迫力に圧倒されてしまった。

職人たちが精魂込めて制作した大型ねぶた。実際に触れられる「パーツねぶた」なども展示され、ねぶたのつくり方も学べる

夜は青森市繁華街にある、連日満員御礼の寿司居酒屋『樽』で海鮮三昧。陽気な女将が、大間の本マグロ、陸奥湾でとれたホタテやミズダコ、青森湾内のヤリイカ、オホーツク産のキンキと、新鮮すぎる魚介類を次々運んでくれる。店は常に大にぎわいで、今回、予約が取れたのはラッキーだったよう。心もお腹も満たされ、明日の裂織体験2日目に備えて眠りについた。

翌朝、10時少し前にアスパムに到着。三好さんによるデモンストレーションを見学してから、南部裂織に再チャレンジする。

「腰当てをつけて、織機とつながっている輪っかに足首を入れて、全身をつかって織ります。腰を引くと経糸(たていと)が張られるので裂いた布糸を間に通し、足を引いて糸の上下を入れ替えてください。入れ替わったら長い棒で打ち込んで、を繰り返します」

経糸の間に緯糸を通し、50㎝くらいの木の棒で「カッ、カッ」と打ち込む。文字にするとそれだけなのだが、実際は、ふだんつかうことのない筋肉を駆使しての全身運動なのだ

見るのとやるのとは大違い。全身と頭をフルにつかいながら、「あれ、この後どうするんだっけ」「右足を引いて、右から棒を通してカッ、カッ」などとブツブツ言いながら織り進めていく。

プロフェッショナルがつきっきりでサポートしてくれるため、初心者でも安心。窓の外には来年開港400年を迎える青森港が広がるが、織っている最中はそれどころではない

2時間ほどかけて、南部裂織のランチョンマットが完成! ブランドシャツと子どものランチョンマットが、装いも新たに生まれ変わった。織りあげた布はツイードのような手触りで厚みがあり、何ともあたたかい。かつて青森の人びとは、こういう織物を身に纏い、厳しい冬を越したのだろう。

それぞれ、世界でひとつだけのランチョンマットが完成。名づけて「青森ブルー」と「アフリカの大地」

思い出の服、着物や布を、自らの手で丈夫で美しい実用品に生まれ変わらせる南部裂織体験。1泊2日と日程に余裕を持ったプログラムなので、ねぶたや海鮮、見事な眺望と、青森の“おいしいとこ”をめぐる時間はたっぷりある。

裂織体験のあとは、アスパム内の土産店をハシゴして、リンゴジュース、地酒、海の幸と山の幸が入った漬物「ねぶた漬け」、アップルパイなどを購入。青森を思いきり満喫できた2日間だった。

Photo:横江淳 Text:萩原はるな

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