「学び方」も多様性!子どもたちの世界を広げる2週間だけの転校生「デュアルスクール」
生き方も働き方も多様性に富む時代。多様であることを受け入れ、多様なことを学ぶ、SDGs先進県・徳島のさまざまな「学び舎」の形態を紹介します。
都市部から地方の学校へ。子どもたちに多様な「学び」を

ウミガメが産卵することで知られる美波町・大浜海岸。この日は、寒空にいくつもの凧が飛んでいた。美波町立日和佐小学校の1~2年生たちが、毎年恒例の凧揚げをしていたからだ。と、その児童たちのなかに、ひとりだけ違うデザインの体操服を着た女の子がいる。3日前に兵庫県からやってきた2年生の浅野縫(ぬい)さんだ。彼女が日和佐小に通うのはあと10日ほど。「デュアルスクール」制度を利用し、一学年150人という規模の兵庫県の小学校から、一学年約30人の日和佐小に短期就学をしているのだ。

デュアルスクールとは、地方と都市部、2つの学校を行き来して、双方で教育を受けられる全国でもまだ希少なシステム。2週間程度を目安として、他の都府県都市部の小中学校に通う児童・生徒が徳島県内の公立小中学校で学べるというものだ。その間は、保護者も一緒に徳島に短期移住することが条件だが、住民票異動の必要はなく、受け入れ先の学校へ転入できる。

「この学校でも、たくさん友だちをつくりたい!」と前出の縫さん。放課後は日和佐小の校庭で、すっかり仲よくなった地元の子どもたちとブランコや鬼ごっこで思い切り遊んだ。その後、スクールバスに乗り約20分で到着した祖父母の家でリモートワーク中の母・浅野祐子さんが出迎えた。

「兵庫県では徒歩通学なので、バス通学が新鮮で楽しいみたい。わが子には小さいうちから新しいコミュニティに飛び込んで視野を広げてほしいという思いがあり、長女の縫も参加にとても前向きだったためデュアルスクールに申し込みました。次女もこの町で一時保育を受け入れてもらえたのでよかったです」(祐子さん)

受け入れ学校との仲介や滞在先の提案などは、同制度の運営会社〈あわえ〉の中野美優さんが担当しサポートしている。

「出産・育児や介護のため実家に帰省する際、デュアルスクール制度を利用される方もいらっしゃいますし、移住の前に子どもが徳島の学校になじめるかどうかを確認したいという方、家族を連れてのワーケーションで短期滞在を希望される方、子どもに多様な環境を経験させたいという方などさまざまなケースがあります」(中野さん)

また、受け入れる学校側にもよい影響があるようだ。
「徳島県内で、デュアルスクールを受け入れた学校のほとんどが一学年1クラスしかない小規模な学校です。クラス替えがなく、かかわる同世代の顔ぶれに変化がないなか、短期であっても転入生がくることが、新しい価値観や視点に触れる機会になっているようです」
徳島県のデュアルスクールは、2016年10月から開始された。2023年1月までに東京や大阪から18家族を受け入れ、県内13校で計27回実施されたという。働き方改革が進み、ライフスタイルも多様になるこれからの時代に、デュアルスクール制度は頼もしい存在になりそうだ。
徳島県海部郡美波町日和佐浦114 dualschool.jp/
●情報は、FRaU2023年4月号発売時点のものです。
Photo:Masataka Namazu Text:Kanako Mori Composition:林愛子