渦潮の徳島・鳴門で見つけた「保育園併設サーフブランド」と「日本初のNFT美術館」【後編】
ときには海上交差点として、ときには四国の玄関口として人やモノが行き交うことで、しなやかに変化してきたSDGs先進県・徳島の「鳴門」。海辺のまちに息づく、古くて新しいデザインを探しにいきましょう。
うねりがつくり出す風景

カーナビに従って到着した先は、畑の広がるエリアでは、少し目立つ一角だった。「おーい、こっち!」と初対面とは思えないフランクさで迎えてくれたのは山口輝陽志(きよし)さん。もともとは水着を製造していた父親の縫製工場を継ぎ、15年前にサーフィン用ショーツブランド「ナルトトランクス」を始めた。2019年には道路向かいに企業型保育園「ナルトキッズ保育園」を、2021年にはショップ兼ギャラリー「モッコクハウス」をオープンし、衣服だけでなく地域のコミュニティづくりにも力を入れている。

工房に入るやいなや、明るい空間に「わぁ」と声が出る。高い吹き抜けの天井に、床から天井までの大きな窓、そこから出られるウッドデッキ。ハーマンミラー社製など機能性の高いイスが並ぶ。

「縫製工場って暗いイメージがある。それをブッ壊したかったんですよね」と山口さんはいたずらっぽく言うけれど、スタッフへの気づかいはあたたかい。
鳴門で生まれ育ち、サーフィンと西海岸カルチャーを愛する山口さん。20代は高松での社会人生活を満喫していたが、気づけば家に帰るようにここに戻ってきていたと笑う。

よく見ると、ブランド名のロゴは「Naruto」ではなく「Naluto」になっている。
「Naluはハワイの言葉で『うねり』という意味です。この場所でやっていくと決めたときに名づけたんですが、ピッタリでしょう?」

いつの時代も、内なるものが外からの風と混ざり合い、カルチャーが生まれてきた鳴門。人びとは水平線の向こうに夢を見て、新しいものをたくましくも柔軟に受け容れてきた。この町の風景がいつも新鮮な驚きに満ちているのは、土地と人が響き合うように“うねり”を生んだ、軌跡がそこにあるからだ。

●情報は、FRaU S-TRIP 2023年4月号発売時点のものです。
Photo:Shintaro Miyawaki Text:Yu Ikeo
Composition:林愛子