いまや世界中で愛され、私たちの生活に欠かせないコーヒー。しかし2050年には、コーヒー豆の収穫量が半減するともいわれています。コーヒー業界を牽引するUCCグループは、2022年に「コーヒーの力で、世界にポジティブな変化を」というサステナビリティビジョンを発表。それに沿って2030年までに自社ブランドのコーヒーすべてをサステナブルなものにすること、2040年までにカーボンニュートラルを実現することを目指しています。その一環として、世界に先がけて「水素焙煎コーヒー」の量産をスタート！　挑戦の舞台は、静岡県のUCC富士工場です。

｢グリーン水素｣をつかって､本気で温室効果ガス発生ゼロを目指す

目覚めの一杯やブレイクタイムの一杯、食後の一杯と、私たちの生活に欠かせないコーヒー。日本のコーヒー業界を牽引するUCCホールディングスでは、早くからサステナブルな活動を推進してきた。「2030年までに自社ブランドを100％サステナブルなコーヒー調達に」という取り組みをおこなうほか、失われた生態系を回復させる「ネイチャーポジティブ」へのプロジェクトも推進。いつまでもおいしいコーヒーが楽しめる未来を守るため、さまざまな挑戦を続けている。

2025年4月からは、世界に先がけて水素焙煎の量産に着手。約4年の準備期間を経て、ついに富士工場での生産にこぎつけた。

富士山南麓にあるUCCの富士工場。ゴールドスペシャルや職人の珈琲など、家庭用レギュラーコーヒーの主力工場として知られる。持続可能な原材料の調達、確保をしている証「レインフォレスト・アライアンス認証」などを取得済みだ

水素は地球上に大量に存在し、燃えると酸素と反応して水になる気体。水や石油、天然ガスなどの化石燃料や、メタノール、廃プラスチック、下水の汚泥など、さまざまなものから生成できる。酸素と結びつけることで発電したり、熱エネルギーとして利用できたりするが、二酸化炭素の排出はゼロ。化石燃料に代わるエネルギーとして、世界的に注目されている。

一般的なコーヒー焙煎は天然ガスを熱源にしているため、年間570トンものCO2を排出するといわれる。そこでUCCは、燃焼時にCO2を排出しない水素を熱源とする焙煎機や水素バーナーの開発・実装を推進。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構（NEDO）の助成事業として、官民一体で取り組んできた。

構想から約４年、ついに大型水素焙煎機「HydroMaster（ハイドロマスター）」の開発に成功。今年4月から世界に先がけて、水素焙煎コーヒーの量産をスタートさせた。UCC富士工場工業用大型焙煎機「HydroMaster」での焙煎工程では、CO2排出量ゼロを実現。焙煎につかう水素は、山梨県が手がける「グリーン水素」。再生可能エネルギーなどの余剰電力をつかってつくられる、製造過程でCO2などの温室効果ガスを排出しない水素だ。

工場内に設置されたハイドロマスター。写真はその一部で、焙煎した豆を冷ますクーリング槽部分

ハイドロマスターは、「水素＝hydrogen」と「達人=master」から名づけられた、熱風をつくり出す熱風発生装置、熱風でコーヒー豆を焙煎する焙煎釜、コーヒー豆を冷ますクーリング槽から構成される大型機械だ。水素は着火しやすいため、熱を加える際には細心の注意が必要。何度も試作を重ね、安全に焙煎できる同機が完成したのだ。

繊細な温度調整ができる水素焙煎だから､よりフルーティーな味わいに！

水素で焙煎するコーヒーにも、当然これまでのコーヒーと同じクオリティの味わいを目指したUCC。しかし開発を進めるうち、水素で焙煎したコーヒーならではの味わいがあることに気づいたという。

水素焙煎は低温⇔高温の温度調整幅が通常の熱源より広いため、緻密な焙煎プロファイルコントロール技術を組み合わせることで、多彩な味覚形成が可能になる

水素は、低い火力でも安定的に燃える。つまり通常の熱源より、繊細な温度調節が可能なのだ。長年、UCCが積み上げてきた焙煎のデータと照らし合わせることで、味覚形成の幅がアップ。フルーティ感、フローラル感を高めたり、甘みとクリアな後味を両立させたり、口当たりのよさを追求したりと、新しい味の広がりが期待できるのだ。

4月23日から、業務用と家庭用のレギュラーコーヒー豆製品、ワンドリップコーヒー製品、ドリップポッド専用カプセル、飲料が順次発売されている

実際、エチオピア・イルガチェフェ地方産のコーヒー豆は、水素焙煎によってフルーティさとフローラル感が高まった。UCCではさらに、いろいろなコーヒー豆の味わいを、水素焙煎によってさらに広げようと研究中。おいしくサステナブルな水素焙煎コーヒーの世界は、ますます広がっていきそうだ。

──後編では、UCCの水素焙煎コーヒー全7品を紹介します──