「脱炭素経営EXPO」で確信した「再エネ100%の世は近い!」
私たちが日々感じているように、地球温暖化による気候変動危機はもう待ったなしのところまできています。それを食い止めるための手立てが脱炭素(カーボンニュートラル)。地球を覆って暖める二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの発生を抑えるべく、発電に関しては火力から再生可能エネルギー(再エネ)に切り替えるしかない──。そのことは前編でお話ししました。日本政府は「2050年カーボンニュートラル宣言」をしていて、企業にも協力を求めています。8月31日から3日間、千葉・幕張メッセで開催された「脱炭素経営EXPO秋」(以下、EXPO)は、そんな「再エネ100%」を目指す企業への、さまざまなヒントに満ちていました。
私たちも再エネ推進のための「賦課金」を支払っている!
企業が再エネ100%を実現するためにはどうしたらいいのか。その手法として、前回は「企業の敷地内(オンサイト)に太陽光パネルなどを設置して発電し、自家消費する「オンサイトPPA(Power Purchase Agreement=電力販売契約)モデル」を紹介した。企業の屋根や遊休地をエネルギーサービス会社(エネ社)が借り受け、そこにエネ社の負担で太陽光パネルを設置するビジネスモデルなので、導入する企業は初期費用がかからず、再エネへの取り組みをはじめやすい、というのがメリットだった。
だが限られた敷地内での発電だと、規模の大きい企業の場合、すべての電力がまかなえないケースが出てくる。とくに、再エネ100%を目指す企業の国際的組織「RE100」加盟の大企業ともなると……。そうした場合に採り入れられているのが、企業の敷地外(オフサイト)に再エネ発電業者が太陽光パネルなどをつくって発電し、電力を企業に直接供給、または小売電力事業者など経由で購入する「オフサイトPPA」だ。
たとえば、セブン&アイ・ホールディングスは2021年6月、国内初の事例として、NTTグループがつくった千葉若葉太陽光発電所、香取岩部太陽光発電所、2ヵ所の「グリーン発電所」から送配電網を介して、首都圏のセブン-イレブンに電力供給を受けるオフサイトPPAを開始した。そして1年後の今年6月には、北陸電力グループと組み、福井県坂井市の6000kWh超の太陽光発電所から、北陸3県のセブン-イレブン300店舗への電力供給をスタートさせている。まさに再エネの地産地消だ。
セブンのように再エネ発電業者から直接電力を受け取るのではなく、間に電力会社や小売電力事業者をはさむオフサイトPPAのやり方もある。国はカーボン・ニュートラル宣言などしている手前、再エネ事業にさまざまな支援、補助を設けており、そのひとつにFIT(固定価格買取)制度がある。「再エネで発電した電気を電力会社、小売電力事業者が一定期間、固定価格で買い取ることを国が保証する」という、2012年にスタートした制度だ。
発電業者にとって怖いのは、せっかく太陽光発電所などをつくっても、電気が適正な値段で安定的に売れないこと。だがFITという国のお墨つきがあれば、安心して発電できる。つまり、再エネ発電所が増えていく素地ができたというわけだ。
ちなみに、FITの財源はわれわれが毎月払っている電気代だ。電気料金の明細を見ればわかるが、そこに記載されている「再生可能エネルギー発電賦課金(再エネ賦課金)」が、私たちが負担している金額。国には、ぜひ有効に活用してもらいたいものだ。
さて、FIT制度を含むこのシステムをうまくつかったのが千葉商科大学。2019年には市川キャンパスの消費電力を100%、再エネに切り替えた。同大学は千葉県野田市に「メガソーラー野田発電所」を所有しており、ここでつくった電気を送配電業者に固定価格で売って、そこから小売業者を通じ、再エネ由来の電力を受け取っている。来年までには市川キャンパスに限らず「日本初の自然エネルギー100%大学」になってみせると鼻息も荒い。
こうした成功例があるためだろう、EXPOでは発電業者向けに、どこでも簡単に太陽光パネルが設置できるような架台や、「ソーラーカーポート」などを提案する展示が目についた。再エネ発電所は、これから加速度的に増えていくに違いない。
食品ごみを燃やさず、堆肥にして循環させる装置も
企業が再エネ100%を実現するためには、必ずしも太陽光パネルなどの新設が必要なわけではない。再エネ電力を購入し、省エネ対策を徹底するという、シンプルなやり方だってあるのだ。「トラッキング情報つき非化石証書」や「J-クレジット制度※」を活用して再エネ電力を購入するというものだが……詳しく説明すると長くなってしまうので、ここでは「そんなのもある」程度に理解いただければ十分だ。
EXPOには再エネ100%実現のための方法だけでなく、さまざまな脱炭素に向けての取り組み、ヒントが示されていた。
たとえばNTTビジネスソリューションズは、「地域食品資源循環ソリューション」として、食品工場などで出る食品残渣(ざんさ)の発酵分解装置を展示していた。食品ごみを燃やさず、微生物に発酵分解させて堆肥にし、提携農家に届ける。それをつかって、また農作物がつくられる──。まさに食品資源の循環だ。さらに、発酵分解装置では処理しきれない有機系廃棄物(玉ねぎの皮、木材パレットなど)は、「バイオ炭化窯」で炭化させ、バイオ炭にして農地の土地改良などに役立てるという提案もされていた。前編で紹介したPPAモデルの太陽光発電パネル同様、発酵分解装置もバイオ炭窯も、初期費用不要で企業にレンタルが可能だそうだ。
こうしたさまざまな脱炭素経営に向けての取り組みをトータルサポートするコンサルティング・システムを提供する企業も、数多くブースを出していた。「CO2の排出量可視化、脱炭素化クラウド」を提供するENERGY X GREENや、太陽光、蓄電池の導入の際に活用できる「完全版補助金ガイド」を配布していた船井総研などだ。
EXPOは東京と大阪で年3回開催されている。次回は11月16〜18日に、インデックス大阪で行われる予定だ。脱炭素に興味がある方は、ぜひ一度足を運んでみてほしい。
※ J-クレジット制度:省エネ設備の導入や再エネの利用によるCO2等の排出削減量や、適切な森林管理によるCO2等の吸収量を「クレジット」として国が認証する制度。
text:奥津圭介