大人にこそ食育を!「世界の“食べる”にいま、起こっていること」
食べることは、生きる基本。だから、子どもは食育を通じて、食にまつわる正しい知識を身につけ、生きる力を育みます。でも、大人はどうでしょう? 食を取り巻く状況は日々目まぐるしく変わっています。深刻化している貧困問題や、社会全体での取り組みが叫ばれている食品ロス問題。漁業も、農業も、大きな転換期にあります。未来の食を考えるには、現状を知ることが大切。まずは、いま地球で起こっていることを学びましょう。
世界では10人に1人が飢餓
世界で飢えに苦しんでいる人は最大で8億1100万人あまり。つまり、世界で10人に1人が飢餓状態にある。新型コロナウイルスの影響も大きく、前年に比べるとおよそ1億6100万人増加。パンデミックにより、これまで問題視されていた食料問題がさらに悪化し、紛争や気候変動なども相まって深刻化している。
飢餓が深刻な地域は主にアジアで、全体の半数以上を占める。次いで多いのがアフリカ。とくに幼い子どもへの影響が大きく、5歳未満の22%にあたる1億4900万人が発育阻害(年齢に対して身長が低すぎる)、6.7%にあたる4500万人以上が消耗症(身長に対し痩せすぎている)の影響を受けている。
日本の子どもは7人に1人が貧困
世界的に見ても豊かな国という印象がある日本。だが、子どもの貧困は他人ごとではない。ここで語られるのは「相対的貧困」。所得水準が国民の所得平均の半分にとどかず、子どもが慢性的にお腹を空かせていたり、学校行事に参加できない、十分な教育がなされないといったことが危惧されている。
そうした子どもの相対的貧困率は2018年時点で13.5%。ひとり親家庭に限ってみると48.1%とさらに厳しく、2世帯に1世帯が苦しい生活を強いられている。経済格差が進み、十分な食事ができず、お腹を空かせている子どもは7人に1人。日本の相対的貧困率は主要7ヵ国(G7)のなかでも高水準。とくに、ひとり親世代の相対的貧困率はG7中ワーストワンとなっている。
世界の穀物生産量の
1/3が家畜の飼料に
世界の穀物生産量は年間約27億トン以上。人が生きるのに必要な穀物量を年間180kgと考えると、150億人以上を賄える計算になる。地球の総人口を十分に賄える穀物量があるにもかかわらず、なぜ飢餓が起きているのか? それは、穀物生産量の36%が家畜の飼料になっているから。
さらに21%はバイオマスエネルギーとなり、食用として消費されているのは43%しかない。しかも、その43%を高所得国が過剰に囲い込み、そのなかから食品ロスを大量に生んでいるというのが現状だ。世界の飢餓問題は、食料が足りないのではなく、配分がうまくいっていないことも一因となっている。
世界の食品ロスは年間13億トン
毎年、世界で食べられるにもかかわらず廃棄される食品の量は13億トン。これは世界の年間食料生産量の実に1/3にあたる量だ。そのうち、日本の食品ロスは年間600万トン。東京ドーム5つ分に相当する量で、国民一人当たりに換算すると一日お茶碗1杯分の食品を廃棄していることになる。
家庭からでる食品ロスの量も決して少なくなく、600万トンのうち276万トンが家庭系由来。つまり、日本の食品ロスの約半分は家庭での食べ残しや使い切れなかった食材の廃棄なのだ。ちなみに、国連世界食糧計画(WFP)が世界で行なっている食料支援量は年間420万トン。日本はその1.4倍の量の食品ロスを出していることになる。
牛肉1kgに必要なのは
穀物11~13kg、水2万ℓ
世界の食肉消費量は増加し続けている。1960年代と比べると、その量は約5倍に。そこで問題となるのが、食肉用の家畜を育てるために必要な資源と、飼育中に発生する温室効果ガスだ。たとえば、牛肉1kgをつくるために必要となる穀物は11~13kg。さらに大量の水も必要で、1kgの牛肉のためには2万ℓの水が必要となる。また飼育中に家畜が出すゲップやおならも大きな問題。家畜が出す温室効果ガスは、地球全体で発生する温室効果ガスの14~18%を占めるのだ。その量は、世界全体の運送関連で発生する温室効果ガス13.5%を超えている。
「肉を食べる量を減らそう」という呼びかけがあるのはこうした背景から。家畜別のカーボンフットプリント量としては、反芻動物である牛が最も高い。解決策のひとつとして、代替肉などの研究が進んでおり、ソイミートなど植物性のタンパク質に置き換えることや、駆除シカなどのジビエを食すことも実践されている。
日本の漁獲量は約70%減!
サンマやスルメイカ、サケ類を筆頭に、日本の近海から天然魚が減っている。1970年代~80年代までは世界のトップだった天然魚の漁獲量が、1984年の1150万トンをピークに減り続け、2020年は315万トンにまで落ちてしまった。ピーク時と比べると約70%減。世界の多くの海域では天然魚の漁獲量は横ばいであるにもかかわらず、なぜ日本だけが顕著に減少しているのか?
その原因のひとつが乱獲。 欧米では個体が減少した魚種の漁獲量を規制する動きが進み、その結果、漁獲量が安定しているが、日本では漁獲規制が不十分なまま、持続性を無視した漁獲が続けられてきた。その反省から漁業法が改正され、水産庁は規制強化に乗り出している。海の生態系については気候変動による海水温度の上昇も懸念されているが、日本においては漁業のあり方が問われている。
PROFILE
監修:井出留美
食品ロス問題ジャーナリスト。政府や企業、国際機関と連携しながら、世界に向けて食品ロスの現状と問題を発信する。『食料危機』『あるものでまかなう生活』など著書多数。
●情報は、『FRaU SDGs MOOK FOOD』発売時点のものです(2021年10月)。
参考資料:国連WFP「世界の食料安全保障と栄養の現状2021」、厚生労働省「2019年国民生活基礎調査」、ハンガー・フリー・ワールド「世界の飢餓と私の食」、井出留美『食料危機 パンデミック、バッタ、食品ロス』(PHP新書)農林水産省「食品ロス量(平成30年度推計値)」、農林水産省「漁業・養殖業生産統計」、水産庁「平成30年度水産白書」、シングルマザー調査プロジェクト
Illustration:Kuniko Nagasaki Text & Edit:Yuka Uchida
Composition:林愛子