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脱炭素社会に向け、世界ができていること、日本ができていないこと
脱炭素社会に向け、世界ができていること、日本ができていないこと
COLUMN

脱炭素社会に向け、世界ができていること、日本ができていないこと

世界各国が目標を掲げ、一気に加速化する脱炭素社会に向けた動き。そんなときだからこそ、環境問題をきちんと理解することが大切。地球で起こっていることと私たち人間の責任について、基本を学びます。今回は、脱炭素社会にするために必要なことを国立環境研究所の江守正多さんに伺いました。 

どうやって脱炭素社会にするの?

パリ協定で掲げた「産業革命前に比べて、気温上昇を2℃より十分低く、できれば1.5℃に抑える努力をする」という目標を達成するため、各国は政策を発表している。企業の動きも活発に。事業の使用電力を100%再生エネルギー(以下、再エネ)でまかなうことを目指す国際的なイニシアティブ〈RE100〉には、グーグルやアップルはじめ日本の企業も多数参加している。

日本は2020年10月、菅義偉首相(当時)が「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と発表。翌年4月には2030年度に2013年度比で46%削減、さらに50%削減の高みに向けて挑戦を続けるとも表明した。

日本のCO₂排出量の40%はエネルギー産業。火力発電に多くを頼っており、あらたに火力発電所を建設する動きもある。COP26では、温暖化対策に消極的な国に与えられる不名誉な賞「化石賞」を受賞。CO₂排出量が世界ワースト5位の日本を、世界が厳しくチェックしているのだ。他国の電力比率を見ても日本は再エネ後進国。この比率を変えることが重要だ。

私たちの生活は以前にも増して電気が欠かせないものになっている。IoT化やAI化が進めばなおのこと。省エネは重要だが、電力を生む方法からクリーンに変えることが大きなインパクトになる。

世界各国の目標は?

【CHINA
2030年より前にCO₂排出量をピークアウト
2060年までにCO₂排出実質ゼロ

【RUSSIA】
2030年までに1990年比で温室効果ガス30%削減
2060年までにカーボンニュートラル達成

JAPAN】
2030年度に2013年度比で温室効果ガス46%削減
さらに50%の高みに挑戦
2050年までに温室効果ガス排出実質ゼロ

GERMANY】
2030年までに1990年比で温室効果ガス65%削減
2045年までに温室効果ガス排出実質ゼロ

INDIA】
2030年までに2005年度GDP比で温室効果ガス45%以上削減
2070年までに温室効果ガス排出実質ゼロ

U.S.A.】
2030年までに2005年比で温室効果ガス50~52%削減
2050年までに温室効果ガス排出実質ゼロ

知っておきたいKEYWORD

太陽光発電】
太陽電池に太陽光を当て、電気に変換する発電方法。太陽電池を複数つなげたものがソーラーパネル。日本は平地が少ないが、太陽光発電導入量は世界3位。注目はPPA(電力販売契約)モデル。クリーン電力会社などPPA事業者に場所を提供し、初期費用をかけずにパネルを設置、そこから再エネ電力を買う自家消費型モデルで、企業や大型施設に広がりつつある。

陸上風力発電】
風の力で風車を回し電気を起こす発電方法。世界全体では太陽光発電の2倍近い電力を生み出している。とくに欧州で普及。デンマークは電力の47%以上が風力。夜間も発電でき、相対的にコストが低いことがメリットだが、騒音や景観問題、鳥類への影響が懸念点。日本の風力発電導入量は世界19位(2018年時点)。近年は中国が欧州を抜いて世界トップに。

バイオマス発電】
木屑や間伐材、可燃ごみ、家畜の排泄物などの廃棄物を「バイオマス燃料」と捉え、廃棄物に合わせた処理(焼却、ガス化改質、バイオガス化)をして電力を生む発電方法。ごみ処理場などで活用。廃棄物の処理は不可欠なので、その際のエネルギーを電力として有効活用できる。再エネ移行までの橋渡しや、電力を安定供給するための基礎電源として期待。

水力発電】
高所から低所に水を流すことで水車を回転させ電気を起こす発電方法。エネルギー変換率は80%と再エネの中で群を抜いて高く、ダムでは放水をコントロールしやすいので、天候に左右されず安定した電力供給ができる。日本は7.8%が水力発電。注目は中小水力発電。水流さえあれば河川や排水路も活用でき、地方自治体などでの活用が期待される。

洋上風力発電】
海上や湖に設置する風力発電。陸上より安定的に強い風が吹き、騒音問題も解決しやすい。先進国はイギリス。電力の20%が風力で、ヨークシャー海岸沖の174基で100万世帯分以上の電力を発電する。着床式と浮体式があり、遠浅の海が少ない日本は浮体式に期待。大きな電力を生むことは実証済みで、送電線や蓄電システムの拡大が世界の課題となっている。

地熱発電】
地下に浸透した雨が、マグマ層の熱で水蒸気になるエネルギーを活かした発電方法。天候や日照にかかわらず安定供給できる。火山の多い日本の熱資源は世界3位。だが、開発費用の高さや、適地が温泉地や自然公園に多いことなどから、十分に活用されていない。自然公園法等の運用が見直され、環境に配慮しつつ、地域と共生した地熱発電の調査や開発が進む。

水素エネルギー】
日本をはじめ、世界が注目する水素エネルギー。期待は大きいが、身近なエネルギーとするには課題も多い。水素発電とは、地球上のさまざまな物質から水素を取り出し、その水素を燃やし、大気中の酸素と反応させてエネルギーを生む発電方法。水素を燃焼する際はCO₂が出ないが、物質から水素を取り出す際には、方法によっては間接的にCO₂を排出する。たとえば、水から水素を取り出すには電気分解をするが、その電気が火力発電の場合、間接的にCO₂を排出していることになる。水素の製造工程でCO₂が出るものをグレー水素、出たCO₂を回収・貯留しているものをブルー水素、再エネ電力を活用しCO₂を出さないものをグリーン水素と呼ぶ。世界の水素の多くは、まだグレー水素だ。水素エネルギーはまだ需要が少なく生産コストが高いが、貯蔵や運搬が容易で、燃料電池(水素を燃やさずに酸素と化学反応させて発電)を活用すれば電気だけでなく熱エネルギーも供給可能となる。

ZEH&ZEB(CO₂実質ゼロ建築)】
住宅、オフィス、学校、店舗、ホテル、空港……。私たちの生活にはさまざまな建築物があり、それらは一度建設されると、使用されることで長期にわたってCO₂を排出し続ける。日本では年間の一次エネルギー消費量を実質ゼロにすることを目指す住宅を「ZEH(ゼッチ)」、ビルを「ZEB(ゼブ)」と呼び、普及に努めている。ZEHやZEBに欠かせないのが断熱。空調によるエネルギー消費を減らす工夫が設計段階から考えられており、太陽光パネルを設置して自家発電する建物も増えている。建築・解体といった建物のライフサイクルに注目したLCCM(ライフサイクルカーボンマイナス)住宅や、鉄材やコンクリートといった製造時にCO₂を大量に排出する建材から木材へと切り替える動きも進む。日本の建築技術を生かした12階建ての高層木造建築も実現。日本は2030年までに、新築建築物においてZEH基準かZEB基準の省エネルギー性能が確保されていることを目指している。

電気自動車】
脱炭素社会の実現において重要なポイントとなる自動車産業。EUは2021年から、新型車のCO₂排出量が95g/kmを超えるとメーカーに罰金を科す規制を施行。COP26では、2035年までに主要市場で、2040年までに世界で販売する新車を「ゼロエミッション車(電気自動車や燃料電池車)」にすることを目指す共同声明が発表され、イギリスなど24ヵ国と、ボルボやフォードなど11のメーカーが署名した。日本や日本のメーカーは署名を見送ったが、日本政府は2035年までに新車販売を100%電動車(電気自動車、燃料電池車、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車)にすることを掲げている。日本の課題は充電スポットの普及と、そこで供給する電力をクリーンエネルギーにすること。火力発電による電力を充電して車を走らせては、間接的にCO₂を排出することになるからだ。現在の自動車産業に携わる約550万人の雇用をどうするかも問題となっている。

PROFILE

江守正多 えもり・せいた
1970年神奈川県生まれ。東京大学教養学部卒業。同大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。1997年より国立環境研究所に勤務。専門は地球温暖化の将来予測とリスク論。IPCC第5次、第6次評価報告書の主執筆者でもある。

●情報は、FRaU2022年1月号発売時点のものです。
※出典:IPCC第5次評価報告書、IPCC第6次評価報告書、環境省『令和3年版環境白書』、資源エネルギー庁『エネルギー白書2020』、環境省『地球温暖化対策計画』令和3年10月22日閣議決定、JCCCA、気候変動監視レポート2020、温室効果ガスインベントリオフィス、2030年度におけるエネルギー需給の見通し(関連資料)〈資源エネルギー庁〉、IEA Market Report Series – Renewables 2020(各国2019年時点の発電量)、IEAデータベース、総合エネルギー統計2019年度確報値
Illustration:Sara Kakizaki Graph:Kenji Oguro Text & Edit:Yuka Uchida
監修・江守正多(国立環境研究所)

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