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きちんと知りたい「気候変動」と「脱炭素社会」
きちんと知りたい「気候変動」と「脱炭素社会」
COLUMN

きちんと知りたい「気候変動」と「脱炭素社会」

世界各国が目標を掲げ、一気に加速化する脱炭素社会に向けた動き。そんないまだからこそ、環境問題をきちんと理解することが大切。地球でいま起こっていることと私たち人間の責任について、基本を学びます。

毎年のように報じられる、猛暑や豪雨といった異常気象。日常でも気候の変化は感じているけど、それってやっぱり地球温暖化の影響なの? 率直な疑問に、国立環境研究所の江守正多さんが答えてくれました。

Q.地球の気温は本当に上昇しているのですか?

はい、地球温暖化は疑う余地のない事実として世界で認識されています。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第6次報告書によると、2011~2020年の世界平均気温は、1850~1900年の世界平均気温より、1.09℃上昇しています。ちなみにIPCCが参照する気温データは、地球上のさまざまな観測値で測定されたものです。人間が生活している場所だけでなく、海上なども含まれます。

地球温暖化を引き起こしているのが温室効果ガスであることも事実です。「太陽活動が活発になっているのではないか?」という懐疑論もありますが、太陽活動の活発さを表す黒点の数は減少しています。「大気中に0.04%しかないCO₂に地球を温めるほどの力はないのでは?」という声もありますが、大気の99%を占める酸素と窒素は、地球を温める赤外線の吸収・放出に影響を与えない物質です。大気を温めるのは1%以下のCO₂やメタンといった温室効果ガスだけなのです。

Q.気温上昇の原因は私たち人間なのですか?

地球は約10万年周期で温かい間氷期と寒い氷期を繰り返しており、現在は間氷期です。しかし、300年程前に小氷期と呼ばれる少し寒い時期があり、その事実から「今は間氷期に向けて地球が自然と温まっているだけ」とする意見もあります。ですが、この急激な気温上昇はそれだけでは説明がつきません。

IPCCでは1850~2020年までの世界平均気温を、自然要因だけの場合と、そこに人為的な要因を加えた場合とでシミュレーションしています。1950年頃までは2つに大きな差はありませんが、1950年以降から人為的な要因を加えた気温が上昇を続けます。一方、自然要因だけでは気温上昇はほぼありません。そして、実際の観測データは、人為的な要因を加えたシミュレーションとほぼ重なるのです。この結果からIPCCでは、温度上昇を人為起源によるものと結論づけています。

報告書における表現も変化してきました。2001年の第3次報告書では「可能性が高い」という表現。これは66%以上の可能性で人間活動が気温上昇の主な原因であるという意味です。第4次報告書では「可能性が非常に高い(90%以上)」、第5次報告書では「可能性が極めて高い(95%以上)」となり、2021年の第6次報告書でついに「疑う余地がない」と断言するに至りました。何年もかけて研究が蓄積された結果、この結論が導き出されているのです。

Q.IPCCの報告書は信用できるのですか?

その疑問を払拭するには、報告書が完成するまでのステップを知ってもらうといいと思います。そもそもIPCCは、1988年に世界気象機関と国連環境計画によって設立されました。気候変動について世界で話し合うならば、各国が共通の科学的知見を参照していないと意味がないからです。

IPCCは、それぞれの学会で発表された1万4000本もの論文を引用して、最新の科学的知見を報告書にまとめています。関わる研究者は66ヵ国から200人以上。そして、報告書の原稿には3回のレビューが入ります。原稿をインターネット上で公開し、世界中の専門家や政府の代表者からコメントを受けつけるのです。IPCCはそれにひとつひとつ対応します。第6次報告書に寄せられたコメントは7万8000件。すべてのコメントとそれに対するIPCCの方針が、インターネット上で公開されています。IPCCは政策的な要請を受けた評価機関ですが、活動内容や報告書の制作過程は極めて透明性が高い。それが信用につながっています。

Q.温暖化を止めるために世界で決めた目標は?

2015年のパリ協定で「産業革命前に比べて、気温上昇を2℃より十分低く、できれば1.5℃に抑えるための努力をする」という目標が掲げられました。先進国も途上国も、すべての国が参加する目標です。達成するためには、2050年の時点で、世界全体がカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)を実現する必要があります。

ですが、2017年にアメリカのトランプ前大統領がパリ協定からの離脱を表明。世界の足並みはなかなか揃いませんでした。状況が変わりはじめたのはバイデン政権の誕生が確実になる2020年末から。日本政府も2050年までにカーボンニュートラルを実現すると宣言し、アメリカも翌年パリ協定に復帰しました。若い世代は以前から地球環境のために真剣に声を上げていましたが、ようやく政府や企業も本気で取り組み出したのです。地球温暖化の研究を30年以上続けてきて、このような状況が現実になっていることに驚き、感動しています。世界の平均気温はすでに、産業革命前に比べて約1.1℃上昇しています。これを残り30年で2℃より十分低く、できれば1.5℃に抑えるのは簡単なことではありません。ですが、世界は動きはじめている。私たちはいま、脱炭素社会に向けた大変革期にいるのです。

知っておきたいKEYWORD

IPCC
気候変動に関する政府間パネル。世界気象機関と国連環境計画により1988年設立。研究機関ではなく、論文を基に最新の科学的知見を報告書にまとめ、それがCOPなどの国際会議に活用される。195の国と地域が参加。

国連気候変動枠組条約締約国会議
略称COP。地球温暖化を防ぐ枠組みを議論・決定する国際会議。国連気候変動枠組条約に加盟する197の国と地域が参加。1995年からほぼ毎年開催。COPの後に続く数字は開催回数を示す。2021年11月にCOP26が開かれた。

パリ協定
気候変動問題に関する国際的枠組み。京都議定書は先進国に限る削減義務だったが、途上国を含む全ての参加国・地域が対象に。産業革命前に比べ、気温上昇を2℃より十分低く、できれば1.5℃に抑えることが目標。

PROFILE

江守正多 えもり・せいた
1970年神奈川県生まれ。東京大学教養学部卒業。同大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。1997年より国立環境研究所に勤務。専門は地球温暖化の将来予測とリスク論。IPCC第5次、第6次評価報告書の主執筆者でもある。

●情報は、FRaU2022年1月号発売時点のものです。
※すべての出典:IPCC第5次評価報告書、IPCC第6次評価報告書、環境省『令和3年版環境白書』、資源エネルギー庁『エネルギー白書2020』、環境省『地球温暖化対策計画』令和3年10月22日閣議決定、JCCCA、気候変動監視レポート2020、温室効果ガスインベントリオフィス、2030年度におけるエネルギー需給の見通し(関連資料)〈資源エネルギー庁〉、IEA Market Report Series – Renewables 2020(各国2019年時点の発電量)、IEAデータベース、総合エネルギー統計2019年度確報値
Illustration:Sara Kakizaki Graph:Kenji Oguro Text & Edit:Yuka Uchida
監修・江守正多(国立環境研究所)

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