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なぜバンクーバーは、車椅子の人々が暮らしやすいのか②
なぜバンクーバーは、車椅子の人々が暮らしやすいのか②
COLUMN

なぜバンクーバーは、車椅子の人々が暮らしやすいのか②

出版社勤務を経て、カナダを拠点に北米の人々のサステナブルなアクションを発信している大久保洋一さんの連載。彼が住むバンクーバーはグリーンピースなどの発祥の地と知られ、人々は自然を身近に感じながら暮らし、環境への意識も高いそう。第4回は、バンクーバーの車椅子事情についての後編です。

ーーー前編はこちらーーー

19歳のとき、スキー中の事故で脊柱を損傷、以後は車椅子生活を余儀なくされたサム・シルヴァンさん(63歳、政治家)。「歩けなくても、大好きな自然ともう一度つながりたい」。事故後に抱えた強い想いは、1996年、身体的に障害を持つ人々をサポートするディスアビリティー・ファンデーションの設立につながった。

「それからいまに至るまで、約27年間で総額2億円以上の寄付が集まり、1万人以上がスタッフやボランティアとしてこの組織の活動に参加してくれました」(同ファンデーションのエグゼクティブ・ディレクター、デビッドさん・写真右)

多彩な組織の活動のなかで、とりわけ車椅子利用者と自然との距離を縮めることに貢献したのが、サムさんの指導のもと開発されたアウトドア用の介助式一輪車「トレイルライダー」だ。このトレイルライダーを使ったハイキングや登山のプログラムは、学生から退職した年輩の人々まで幅広い世代のボランティアがサポートしていることもあり、車椅子の人が安全かつ快適にバンクーバーの豊かな自然を堪能できると、人気を博している。

「もちろん、私たちの活動はトレイルライダーに限りません。トレイルライダーの認知度が上がり、お客様たちからの『他のスポーツにも挑戦してみたい』という要望が増えてきました。そこで新たに設けたのが、『シティカヤックプログラム』『パドルボートプログラム』『セイリングプログラム』です。特別なグローブを使うことでオールが握れない人でも楽しめるカヤック、車椅子ごと乗っても水上できちんと安定するパドルボート、手もとの特殊なスティックでコントロールし、呼吸するだけで動かせるセイリングボートなど、どれもお客様からのリクエストに応じて開発したものです」(エリックさん)

カヤックオールが握れない人でも楽しめるよう開発された特殊なグローブ。
車椅子で乗っても水上で安定するパドルボート。
プログラム参加費はカヤック、パドルボード、セイリング各1回10ドル(16歳以下は無料)。

開発資金は、政府、企業、個人からの支援でまかなう。「何よりデザイナーやエンジニアがボランティアでかかわってくれているのが資金的に助かっている」とデビッドさんは言う。

「もうひとつ、創設者のサムはよく語っていました。『人々はいつも他の人とつながる機会を欲している』と。そこで、われわれと同じように身体的に障害のある人々をサポートする他の組織と協力しながら、車椅子の人々同士がつながれる場も不定期に設けています」

組織の活動紹介や、参加者からの要望を聞く場として300人が参加したワークショップ。

そうした場でデビッドさんらが感じ、耳にした身体的障害者への不平等、不公正を、カナダ政府に陳情することもある。

「2022年3月にはカナダ政府内に、われわれのような団体とより円滑にコミュニケーションをとっていくための部署『チーフ・アクセシビリティ・オフィサー』も立ち上がりました。政府が常に聞く耳を持ってくれていることは、非常に心強いです」(デビッドさん)

たとえば、1986年にスタートしたバンクーバーの主要交通である電車「スカイトレイン」は、当初、混雑する通勤時間帯は車椅子利用者の乗車を禁止し、車椅子ではスカイトレインにアクセスできないようなエレベーターを設置する予定だったという。だが、車椅子利用者を支援する団体が束になって反対の声をあげたため、それらの案は撤回された。逆にスカイトレインは、車椅子の人々が利用しやすい、バリアフリーの交通機関となった。

「何かおかしいと思ったら、そんなふうに声を上げ続けることで政府も変わるし、人々の考え方も変わる。これからもその姿勢を忘れずに、ひとり一人の声をていねいに拾いながら取り組んでいきたいと思っています」(デビッドさん)

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