上白石萌音、東京の手仕事「江戸切子」を訪ねる【前編】
にぎわいを取り戻した東京・墨田区。最新の飲食店やショップが軒を連ねるいっぽうで、伝統的な技術を受け継ぐ職人たちが手仕事でものづくりをする小さな町工場や工房も、そこかしこに残っています。人の手がつくりだすものには温度があり、物語が宿り、「ものを大切にする」ことを教えてくれます。最近、伝統工芸が気になるという上白石萌音さん。江戸時代から続くガラス工芸を伝える工房を訪ね、江戸切子づくりを体験しました。
職人の手仕事が教えてくれた
責任あるものとのつき合い方
「うわぁ、キレイ……」。精巧なカットが施された江戸切子のグラスをのぞき込み、うっとり。店に入ってしばらく、上白石萌音さんは江戸切子の美しさに夢中で、迎えてくれたスタッフも、それをうれしそうに見守る。
東京・墨田区にある「すみだ江戸切子館」は江戸時代から伝わるガラス工芸・江戸切子の技術をいまに伝える工房兼ショップ。実際にガラスを削ってオリジナルの江戸切子グラスをつくれるということで、「来世は職人になりたい!」というほど手仕事に興味津々の萌音さんと一緒に訪れた。
ここ数年、暮らしに手仕事による品を取り入れているという萌音さん。次第にそれを手がけた職人のことが気になり始めた。
「京都でつくられている銅製の茶筒をいただいて、その繊細で美しい佇まいに惚れました。つかうほどに質感が変わってきて、すごく愛おしい。これが人の手でつくられているんだと思うと、本当に尊いなと感じますし、大事にしたいという気持ちが湧いてくるんです」
この日は特別に工房内を見学させてもらった。高速で回転する砥石にデザインの下描きをしたグラスを当て、ガラスを削ることで模様を入れていく。線がズレたら一巻の終わり。一発勝負だと聞いて、「私にできるかな……」と心配そうな萌音さん。グラスに模様を描き込んで、恐る恐る砥石の前に腰をおろした。
「じゃ、いきます!」。意を決してグラスを砥石に押し当てる。それまで不安げだった表情は一変して、真剣な眼差しに。それから30分、ほとんど言葉を発さず、黙々と作業をする姿を見て、「こりゃあ、たいしたもんだ!」と職人さんも驚いていた。
「なんだか……ものすごく心が穏やかになりました。集中していくと、心のさざ波がすーっと引いていくような感じがして。手仕事って、やっぱりいいなあ」と、またうっとり。
「私は鹿児島から出てきた上京組なので、東京=大都会というステレオタイプな見方をしがちなのですが、今日工房にお邪魔してみて、東京も伝統的な手仕事を意識的に守っていこうとしているのかもしれないと、考えがひっくり返されました。それはすごく素敵で意義深いことですし、体験することで、その技がいかにすごいものかを実感できる。プロダクトもそれを取り巻く文化も大切にしていきたいと思うきっかけになりますね」
▼後編につづく
すみだ江戸切子館
江戸時代から受け継ぐ伝統工芸「江戸切子」の歴史や文化を伝える工房兼ショップ。職人の作業風景もガラス窓越しに見学できる。江戸切子体験は大人¥4500(税別)。
東京都墨田区太平2-10-9 ☎03-3623-4148 https://www.edokiriko.net/
PROFILE
上白石萌音 かみしらいし・もね
俳優・歌手。1998年鹿児島県生まれ。2011年第7回「東宝シンデレラ」オーディションで審査員特別賞を受賞。21年にはNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』で主役のひとりを演じるなど俳優としてのキャリアを積む。
●情報は、FRaU2023年1月号発売時点のものです。
Photo:Ayumi Yamamoto Styling:Itsumi Takashina Hair & Make-Up:Kanae Yamada Text:Yuriko Kobayashi Edit:Chizuru Atsuta
Composition:林愛子