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ノッポさん「欲望はほどほどにして、譲り合えたらいいのにね」
ノッポさん「欲望はほどほどにして、譲り合えたらいいのにね」
VOICE

ノッポさん「欲望はほどほどにして、譲り合えたらいいのにね」

地球を取り巻く状況は変化を遂げ、私たちの生活も変わることを余儀なくされました。未来に対して確固たる答えもゴールも見えていない状況ですが、手探りでも前へ進むことが欠かせません。今回は、俳優で作家で歌手の高見のっぽさんに、どんなアクションを起こしているのか伺いました。

小さい人(子ども)の創造性は
まわりにあるもので高められる

1967年から90年まで、NHK教育テレビ(当時)で放送されていた、子ども向け工作番組『なにしてあそぼう』『できるかな』。そこに出ていたのが、ひと言も発さずに工作する長身の「ノッポさん」こと高見のっぽ氏(以下、ノッポさん)だ。幼少期をこの時代に過ごした人にとっては、相棒のゴン太くんとともに、なつかしい存在だろう。

ノッポさん(上写真)はもう86歳になるというが、スタイルは昔と変わらない。番組出演時と同じくチューリップハットをかぶり、軽快に手足を動かすと、やっぱり、あのときのままのノッポさんだ! この日は、50年以上前から愛用しているという靴をはき、ふだんづかいしているエコバッグも持ってきてくれた。

「だいぶ前に、アシカの赤ちゃんとカメの子が、プラスチックごみの犠牲になって死んだ写真を見て、ショックを受けて。もともと市場なんかではプラスチック製のビニール袋をもらっていなかったけれど、エコバッグを買ったんですよ。そんなときに、キットカットのコマーシャルの出演依頼がきて。コマーシャルってあんまり出たことないけど、とても大事なことをテーマにしてるから、それで引き受けたんだ」

ノッポさんのいう「コマーシャル」とは、チョコレート菓子「キットカット」のCM「紙パッケージで、できるかな篇」のこと。外袋をプラスチックから紙パッケージに変更したタイミングに合わせ、2019年に放映されたもので、紙パッケージで折り鶴をつくり、そこにメッセージを書く、という内容だった。

「自分のできることは、プラスチックごみが出ないようにすること。マイバッグを必ず持って買い物に出るっていうだけでも違うし、プラスチックの製品を『いりません』って言える、強い信念を持つこともそう。僕はもともと『自分の欲望はほどほどに、食べ物にしてもムダな食べ方はやめましょう』っていう考えなんです。いまの世の中は便利すぎて、旬も関係なく、いつでも食べたい食材や欲しいものが手に入るでしょう。自然との循環について考えたときに、やっぱりムリがあるってこと、そろそろみんな気づいているんじゃないかな」

「欲望はほどほどに」は、ノッポさんの指針となっている。

「孔子の『論語』とかを読むと、二千何百年も前から『自分の欲望はほどほどに』って言っているわけですよ。『欲望のまんまに生きるのが人間だけど、それはほどほどにしたほうがいいんですよ』って。そういうことをもっと教えてくれる人とか、見本になる人がいればいいのに。100のうち、60欲しいところを55にしましょう、そのぶんを譲りましょうとか。そうやって世界中の人が譲り合えたらいいよね」

子ども向け番組に出演していた頃は、高度経済成長期を経て、使い捨てできる製品が増えた時期。ノッポさんはそんななか、プリンの容器や新聞など身近なもので創造性を高めるヒントを伝えてきた。

「何でもかんでも買ってあげるんじゃなくて、身近なものを使って何かをつくることは、小さい人(子ども)にとってもいいんじゃないかな。あの番組ではいわゆるムダづかいじゃなくて、創造性を高めるために、ものを使っていた。まわりにある使い古しのものとかをなるべく利用して」

あるものをつかって何とかしようとする創造性は、社会的な課題解決に通ずるのではないか。戦時中から戦後、どんどんものが豊かになる時代も見てきた、昭和9年(1934年)生まれのノッポさんが、人間について感じることを話してくれた。

「人間はね、寿命が1000年あればなんとかなるって前は言ってたの。戦争とかに巻き込まれても、人間は100年だと忘れてしまう。でも、たとえば100年に1回戦争が起こって、2回、3回、4回って経験すると、人間は賢くなるかなと思っていた。けどね、いまは正直言うと、2000年あってもダメなんじゃないかと思ってしまうの。でも、そうも言ってられないでしょう、小さい人を育てている人たちは」

子どもをひとりの人間として尊重するからこそ、「小さい人」と呼ぶノッポさん。日本で子どもの貧困が増えていることを、とくに気にかけている。

「小さい人は、見ていて本当にかわいらしい。でもこのごろ、そのかわいらしさの底に『かわいそう』が見えてしまう、どうもね。私らみたいな年寄りはあといくらもしないうちにいなくなるけど、小さい人のためとか、あとに残っている人のためっていうのは本当に大事なことだから。個人でやれることからはじめてみてほしい。できるかな?」

PROFILE

高見のっぽ たかみ・のっぽ
俳優・作家・歌手。1967年から20年以上にわたり放送された『なにしてあそぼう』『できるかな』で、一言もしゃべらずに鮮やかに工作するキャラクター、“ノッポさん”として出演。舞台・講演会・執筆・俳優・脚本・作詞とマルチに活躍。2005年、NHK『みんなのうた』の『グラスホッパー物語』では歌手デビューを果たし、出演、作詞、振り付け、脚本など全5役を担当した。07年、NHK放送文化賞受賞。

●情報は、FRaU2021年1月号発売時点のものです。
Photo:Norio Kidera Text & Edit:Chihiro Kurimoto
Composition:林愛子

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