上白石萌音、ふるきをたずねて自由学園 明日館へ。【前編】
映画やドラマ、舞台に立つ俳優として、さらに歌手としても輝きを増し続ける上白石萌音さん。仕事でもプライベートでも、そのとき出会った人や、感じた気持ちをじっくり育み、新しい挑戦につなげています。大切にしているのは、「自分で考えること、学ぶこと」。そしていま、それを伝えていきたいという気持ちも芽生えつつあります。以前から関心があったという約100年前の学校を訪れ、過去を生きた人から学ぶこと、行動することについて聞きました。
過去を生きた人々から学び
小さな変化を積み重ねる
東京・池袋。高層ビルが立ち並ぶエリアの一角に、そこだけ静かな空気が流れる場所がある。「自由学園 明日館」は1921(大正10)年に創立された女学校。知識の詰め込みではない、自由な教育を実現したいという思いから生まれた。芝生が広がる中庭に建つホールは明日館の象徴。窓枠や桟を幾何学的に配した大窓は、高価なステンドグラスを使わずとも美しい造形を生み出すための工夫だった。建築を手がけたフランク・ロイド・ライトは、この校舎を「幸福なる子女の、簡素にしてしかも楽しき園」と表現した。
かねてからこの場所を訪れてみたいと願っていたという上白石萌音さん。校舎を歩きながら、どんなことを思ったのだろう。
「建築も内装もシンプルだけれどとても端正で、そのなかに少しの遊び心があるのが素敵です。ホールの椅子も一見簡素ですが、背もたれが六角形で、中央に入ったスリットが面白い。大窓の幾何学模様ともよく似合っていて、ものすごく考えて、丁寧につくられたものなんだなというのが伝わってきます。こんな環境で自由な教育を受けていた生徒たちは、きっとのびのびと、豊かな感性を育んだのだろうなと想像します」
昨年から今年にかけて、NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』の初代ヒロインを務めた上白石さん。大正から昭和、激動の時代を力強く駆け抜けた女性を演じた。
過去を生きた人の人生やその歴史に触れることは、大きな学びを与えてくれるという。
「私が演じた橘安子は14歳の頃にラジオの英語講座に出合ったことで人生が大きく変わっていきます。私も大学では英語に力を入れて学びながらも、安子を演じることであらためて英語へのあこがれを自覚して、もっと勉強したいなと思うようになりました。時間があるときはインスタライブなどで英語でメッセージを発信しているのですが、海外の方からリアクションがあると、まったく違う言語を使っている方々と“通じた!”と感じて、それがうれしいし、楽しいんです。いつかイギリスに留学して、腰を据えて英語や舞台演劇を学びたいという夢もひっそり持っています。今後は手話も勉強して、また違ったコミュニケーションにもチャレンジしてみたいです」
自由学園 明日館
1921年、羽仁もと子・吉一夫妻により現在の東京都豊島区に創立された女学校。知識の詰め込みではない、自由で新しい教育を実現するためにつくられた学校で、生徒に自ら昼食を調理させるなど、生活と結びついた教育を行い、大正デモクラシー期における自由教育運動の象徴とされている。校舎の設計を担当したのは建築家フランク・ロイド・ライトと遠藤新。建物全体の意匠を幾何学模様にまとめたホールや、全校生徒が集まって昼食をとれるようにと、校舎の中心に設計された食堂など、当時の面影と教育理念が伝わる建築がいまに残されている。
PROFILE
上白石萌音 かみしらいし・もね
俳優・歌手。1998年鹿児島県生まれ。2011年第7回「東宝シンデレラ」オーディションで審査員特別賞を受賞。映画『舞妓はレディ』の主演を務めるなどして注目を浴びる。以降、ドラマや舞台、ナレーターや歌手としても活動。
●情報は、FRaU2022年8月号発売時点のものです。
Photo:Ayumi Yamamoto Styling:Mana Yamamoto Hair & Make Up:Tomoko Tominaga Text:Yuriko Kobayashi Edit:Chizuru Atsuta
Composition:林愛子