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安藤桃子「調和を保つ方法を私たちはあらかじめ知っている」【後編】
安藤桃子「調和を保つ方法を私たちはあらかじめ知っている」【後編】
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安藤桃子「調和を保つ方法を私たちはあらかじめ知っている」【後編】

毎日の暮らしに欠かせない「食」と真摯に向き合う人が増えています。地域とつながり畑を耕したり、コロナ禍の飲食店を応援したり、食事から健康を考えたり。食に思いを巡らせ、未来を考える、映画監督の安藤桃子さんに話を伺いました。

▼前編はこちら

地域の人々をつなぐ氏神様、
諸木八幡宮を訪ねる

「わっしょい!」の畑から歩いて数分、八幡宮の拝殿に続く石段で。周囲は畑や山に囲まれ、少し行けば太平洋の大海原が。諸木八幡宮神社秋の大祭は地域の働きかけで2020 年に高知市の保護無形民俗文化財に指定された

「わっしょい!」の畑を守る、高知市春野町の八幡宮へ。地域の氏神様である神社の宮司、新川一也さんにお話を聞きました。

安藤 畑で大豆づくりをはじめる前に地元の神社にご挨拶をしようと、ここにお参りに来たんです。そうしたら元気なおじいちゃんたちがボランティアで社務所を建てていて、梯子の上から「笑う門には福来(きた)るやで!」と声をかけてくれた。みんなで、「本当にそうだね」って。以来、私たちが畑にいると声をかけてくれたり、スイカを持って来てくれたり、私たちが留守にしている間も畑を気にしていてくれて。気がつけば、地域の人と一緒にやるようになっていた。移住して活動するとき、地域との調和が一番難しいといわれますが、調和どころか自然に家族のようになっていたんです。

新川 ある日突然、安藤桃子さんが神社に来たと教えてもらって私も驚きましたよ。いまではすっかり地域に欠かせない存在です。

安藤 地元のおじいちゃんたちも子どもの未来のために活動していたので、「あなたたちの思いと同じところにいるから、そこに向かって一緒にやろう!」と、神社のお祭りや神事にもお声がけいただけるようになったんです。それから畑の大豆もご奉納していますが、昔は地域の神社がシードバンク代わりになって、ここで収穫の状況について話したり、種の交換会をしていたと知りました。神社は地域の輪の中心なんですよね。今日は新川さんに、地元の中心である八幡様がどんな場所なのかを伺いたかったんです。

大豆の種をまく安藤さん。土に触れ、この地球に不必要な生命はないと気づき、野草や虫を排除するのをやめた

新川 昔はまさに、御宮というものが村の中心でした。「社会」という漢字は社で会うと書きますが、つまりこの中心を盛り上げると、村全体がよくなっていくということなんですね。かつては行事のたびに地域の人々が神社に集まって、秋祭りとなればたくさんの出店が並びましたし、ここが中心といえる存在でした。それが近年では、若者が街へ出てしまい、農家さんも減る一方で、いままで当たり前のように続いてきた農業や地域文化が失われつつあるのも事実です。生きるため、食べるために畑で作物をつくるという当然の作業の根幹も、輸入などで食べものがあふれることによって崩れてきている。そうして当たり前に持続可能であった社会が、持続不可能なものに近づいてきています。

安藤 地元の方は「本当に何もない田舎だ」とおっしゃいますが、いまとはなっては都会のほうが、土地に長く続いてきた文化を学びたい側になっているんですよね。循環が自然なままに持続できていたところに戻るべきだというのが明確になってきたんだと思います。

心地いい風が通り抜ける、八幡宮の境内で

新川 もともと稲作国家の日本では、米食が命をつなぐために大切なものでした。そして収穫に感謝して手を合わせる人の心が具現化されたものが神社であって、日本人が目に見えない八百万(やおよろず)の神になぜ祈ってきたかというと、みんなが笑顔で暮らしていくためだと思うんですね。「わっしょい!」も地域の人々も、手を合わせることで目指している先はすべて同じところなのだと思っています。

安藤 自動的にあふれ出てしまう真心や感性、命の一体感が、手を合わせることでひとつにつながることを確認する場でもありますね。水面に水滴が落ちて波紋が広がるように、私たちがなくした輪の中心をここに取り戻せれば、あらゆることが自然と、健やかに循環して巡っていくんだと思うんです。そうやって調和を保つ方法を私たちはあらかじめ知っているんですよね。畑をやっていて思うのは、畑には境界線があるけれど、地球という単位で見ればすべては地続きということ。地球の上で太陽の恵みを受けとって感謝するように、愛を受けとった私たちも愛をお返しするという循環が、ここのみなさんとはうまくいっているのかなと思います。

収穫した大豆に、土地の麹と塩を混ぜて今年3月につくった「わっしょい!」味噌。初心者でもつくれる味噌づくりキットで、神社の境内に地域の人が集まって仕込んだ

新川 神道というのが、まさにそういうものなんですね。自然からの恵みには境界線もないし、花や木などの生命には何の違いもない。大豆一粒のミクロな物ごとから、地球や神というマクロな物ごとまで、結局はつながっているものなのだと思います。安藤さんがされていることは、田舎での小さな活動かもしれませんが、地球規模で皆がしなければならないことの原点です。ここでこれほどのご縁ができていることも、八幡の神様は見られていると思いますよ。人間がコントロールできない天からの恵みは存在しますから。

安藤 神様のお話を聞くと、やっていることが言語としてつながる感覚があります。やれるだけやったら、あとは天に委ねることですね。

PROFILE

安藤桃子 あんどう・ももこ
映画監督。1982年東京都生まれ。高校時代にイギリス留学、その後、ニューヨークで映画作りを学び、2010年『カケラ』で脚本・監督デビュー。11年に初の長編小説『0.5ミリ』を出版、14年に高知を舞台に映画化。同作で多数の賞を受賞し、国内外で高い評価を得る。高知移住後、ミニシアター「キネマM」、自己表現のための学びの場「桃子塾」、異業種チーム「わっしょい!」を立ち上げる。毎週月曜21時~FM高知「ひらけチャクラ!」パーソナリティ。2021年11月には、家族、映画、高知のことなど、その出合いや愛について語る初のエッセイ集『ぜんぶ愛。』(集英社インターナショナル)を刊行。

●情報は、『FRaU SDGs MOOK FOOD』発売時点のものです(2021年10月)。
Photo:Tetsuo Kashiwada Text:Asuka Ochi Edit:Chizuru Atsuta

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