美容師・松浦美穂が思い描く「国ごと自然エネルギー化する未来」
2030年には、平和や差別、エネルギーなど、さまざまな問題の何がどんなふうに叶えられているでしょうか。今回は、美容師の松浦美穂さんに「こうなってほしい未来」 を話していただきました。
地球に感謝し楽しみながら
自然エネルギーに移行する
経営するヘアサロンの電力を2018年の夏から100%自然エネルギーに移行しました。もともと「エコ」に対して気を配っていましたが、2011年3月11日に起きた東日本大震災以降、電気の使用量を少しでも減らすことを目的に、日照時間に合わせてなるべく朝早くにお店を開けたり、エアコンの温度設定を変えて夏はアイスピローを利用したり、冬は湯たんぽやブランケットを用意したりと精一杯の努力は試みました。しかし、たいした結果は得られないどころか、お客様へのサービスに支障をきたすようになってしまいました。なにしろヘアサロンというのはヘアドライヤーをはじめ、多くの美容器具に電気を使用する場所。どうにかならないものかと苦心していたときに出合ったのが自然電力株式会社だったのです。
「自然電力株式会社から自然電力の電気を、東京電力の送電網を通して届けてもらう」という形式にとても驚き、これしかないとほぼ即決で導入を決めました。自然に吹く風、海や川、そして太陽がある限り続くエネルギー。枯渇資源を求めるのではなく永遠に存在する自然エネルギーに頼ることこそ、温暖化が進む地球の気候変動に歯止めをかける小さな第一歩だと感じました。将来的には国全体で自然エネルギー化が進めばと思っています。
長年にわたり実践している「無農薬」も私の生活に欠かせないこだわりのひとつです。もともと減反されていた田んぼを借りて、13年間、秋田県で無農薬米をつくっていました。無農薬からスタートして10年以上の年月を経てさらに自然農法化したことで、土や水の質が変わりお米の品質が向上するという体験をしました。田んぼの環境づくりからはじめて、田植え、稲刈り、さらに収穫したお米を自分たちやスタッフのまかないにつかうまで、一連のプロセスは学びの連続。SDGsの項目にある「つくる責任 つかう責任」に自覚的になったのは当然として、農薬を控え地球環境に配慮することで「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」や「気候変動に具体的な対策を」など、さまざまな方向につながっているのだと実感しました。いまはお米づくりはお休みしているところなのですが、一刻も早く再開したいですね。やっぱり土や水にふれるのは人間にとって最上の喜びだから。お店の屋上でハーブやレタス、小玉スイカを育てているとそれを認識させられます。
無農薬米を13年間つくるうちに、前々から考えていた自社ブランドのコンセプトも見えてきました。現在、私たちが手がけているシャンプーやヘアワックスといったプロダクトの数々は、無農薬を徹底しています。そうすることで人間の体内だけでなく、環境に対しても配慮したものができあがりました。長年の間、「パーマ液などが洗髪台を通して流れ、海や川を汚してしまう」ジレンマと闘ってきた美容師生活だったので、念願叶ったりという感じです。
すべては「愛」から。そう思います。自然環境テーマの対談を掲載しているフリーペーパーの発行に携わるのもそう。18歳以下という思春期のナイーブな時期に病気で毛がぬけてしまう子たちにウィッグを贈るためのヘアドネーションもそう。ときには「文化祭」と称してお店のスペースをつかいトークショーを開くのも、すべてはそこに帰結するのです。愛をもって自分の体を考えれば、食事ひとつもおろそかにはできないはず。よい睡眠や健康であるための運動なども含め、自分の体を気にすると、それがやがて地球の環境を考える大きな気づきにつながると思っています。
PROFILE
松浦美穂
美容師。外苑前にてヘアサロン「TWIGGY.」を営む。ヘアプロダクツ「ユメドリーミン エピキュリアン・ツイ」のプロデュースをはじめ、全国各地の厳選の食材を使用した「TWIGGY.cafe」をサロン3階にオープンするなど多方面で美に携わる。
●情報は、FRaU2019年1月号発売時点のものです。
Illustration:Katsuki Tanaka Text:Toyofumi Makino Text&edit:Asuka Ochi