作家・落合惠子が思い描く、差別のない未来
SDGsゴールの年、2030年には、平和や差別、エネルギーなど、さまざまな問題がどんなふうに解決さら、叶えられているでしょうか。今回は、作家でクレヨンハウス主宰の落合惠子さんに、「こうなってほしい未来”」を語ってもらいました。
2030年より前に
4つの差別の鎖が断ち切られるますよう
四十数年前にオープンした子供向けの書籍や玩具を揃えたクレヨンハウスを皮切りに、いまではオーガニックの野菜が並ぶ八百屋とカフェを経営、フェアトレードのアイテムではコーヒーや紅茶、ココナッツ製品といった食材から植物素材のアクセサリーまで、多岐にわたる商品を扱っていますが、すべてに通底するのが、誰かの涙やガマンのうえに自分たちの喜びがあるのは違うという考え方でしょうか。
たとえば、化粧品は動物実験を行わない100%オーガニックしか置きません。キレイになりたい思いを否定するわけではなく、動物の犠牲ありきでは気持ちよくないという話です。店舗全体の電力を再生可能エネルギーに替えたのも同じ理由。いまも福島県の故郷に帰れない人がいるのに、そのきっかけになった東京電力や原発の電力に頼り続けるのはおかしいという思いがありました。
フェアトレードの商品をひとつ売ることによって生産者にお返しができたり、貧困のなかにいる子供たちの生活にほんのわずかだけどプラスになる。義務とか責任とか言葉にすると重たいけれど、私たちのお客様は、そういったメッセージを感じ取って、お金の使い方や行き先までよく考えてくれている。それがとてもうれしいし誇らしい。気づいたひとりが5人に伝え、その5人がまた、というふうに小さな道筋が続けば、なかなか変えられない社会だけど、いつか必ずよい方向に向かうと信じています。
でも私たちの考え方やり方がすべて正しいとも思っていません。個々の状況はさまざまで、絶対的な正義などないのだから。絶対 は人を縛るものだし、他者を縛るのと同時に自分もがんじがらめになってしまうということをいつも心の片隅においています。できるなら眉間にシワをよせるのではなく笑顔で開放感のある活動を目指したい。さまざまな問題を抱えているなかで、いまの世の中には私達が断ち切らなければいけない4本の鎖があると考えています。
ひとつは人種差別の鎖、もうひとつは性差別の鎖、そして年齢差別の鎖、最後に健常者中心主義という鎖。困難なのは承知のうえ。でも、セクシャリティであるとか、肌の色にとらわれたらその人の本質を見失うことになるでしょう。これまで何十年も発信し続けていることなので2030年といわず、一刻もはやく実現させたいのが本音ですね。一見、遠いテーマに思えるけど、一人ひとりが自分に引き寄せて考えていけば、次の世代への素敵なプレゼントになることに気付くはず。自分の思いや願いが波及して誰かの幸せに繋がるって、この上なく気持ちいいことですよ。
PROFILE
落合惠子
作家、クレヨンハウス主宰。オーガニックレストランをはじめ、児童書を扱う〈クレヨンハウス〉、女性の本の専門店〈ミズ・クレヨンハウス〉等を東京と大阪で展開。生活雑誌『いいね』発行人。著書に『泣きかたをわすれていた』(河出書房新社)など多数。
●情報は、FRaU2019年1月号発売時点のものです。
Illustration:Katsuki Tanaka Text:Toyofumi Makino Text&edit:Asuka Ochi