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子どもの「教育格差」を埋めるため、親ができること
子どもの「教育格差」を埋めるため、親ができること
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子どもの「教育格差」を埋めるため、親ができること

「模試の偏差値29」から独学で東京大学理科二類に合格した杉山奈津子さん(40歳)。現在は作家、イラストレーター、心理カウンセラー、そして学習塾「杉山塾」の代表としても活動している。近著『東大ママの「子どもを伸ばす言葉」事典』(講談社ビーシー)が話題の杉山さんに、教育格差や子どもを伸ばすテクニックなどを伺いました(後編)。

――前編はこちらーー

「いま」しか見えない子どもに、「将来役立つ」は響かない

子どもの育つ環境によって、教育の不平等が起きてしまう「教育格差」。世界的に問題視されているが、日本でも他人事ではない。「学校間格差」「家庭環境による格差」「学歴格差」など、さまざまな不平等が生じているのだ。

「私がとくに感じているのが、住む場所によって生じる格差です。私は現在、静岡市で小学3年生の息子を育てていますが、東京に住む友人たちの話を聞いて驚いたことがたくさんあります。

かつて東京の友人に『小学1年生の子どもが、俳句を習ってきた』と聞いたんですが、その頃、同じ小1の息子は、ひらがなを習っていました。この差はいったいなんだろう、と愕然としましたね。東京では中学受験に挑戦する子どもが珍しくありませんが、静岡ではほとんどの子どもが公立中学校に進学します。小学校時代の勉強量と内容に、非常に差がついてしまうわけです」

住む場所だけでなく、親の経済状況や意識によっても教育格差はおきていると杉山さん。同じ都内に住んでいても、中学受験をするかしないか、塾に行くか行かないかなどによって、格差は生じてしまうのだ。

「環境は変えられませんが、格差は親の気持ちによって埋められると思います。とくに小学生時代ならば、親が勉強を教えられますよね。塾に行かせなくても、東京に住んでいなくても、たとえば親が俳句を教えることはできるでしょう。ムリに『私ががんばって勉強を教えなければ!』と気負う必要はありませんが、子どもの将来の選択肢を増やすために、親ができることはたくさんあると思いますよ」

『東大ママの「子どもを伸ばす言葉」事典』(講談社ビーシー)より。杉山さんが手がけたイラストやマンガを読みながら、楽しく子どもを伸ばすヒントが得られる。
 

とはいえ親が「将来役に立つから、いまのうちに勉強をがんばりなさい」と言ったところで、ピンとくる子どもは少ないだろう。

「親は子ども時代の経験を照らし合わせて、これまでの人生を俯瞰しながら話すことができますが、子どもには『いま』しかありません。ですからなかなかリアルに考えることができないのでしょう。けれども将来大人になったときに、『あのとき言われたことは、これだったんだ』とわかるはずです」

杉山さん自身も中学受験を経験して燃え尽き、その後6年近くまったくやる気になれなかったという。学校の教室にも行けなくなり、保健室登校がやっとだったそうだ。

「当時私は、双極性障害(躁うつ病)に苦しんでいました。そんなとき、たまたま読んだ本で、『私は双極性障害という病気なんだ。このお薬を飲めば、楽になれるんだ』ということを知って、すごく助けられたんです。そうして『本ってすごいな、私もこういう本を書くことができたら、私のような人を助けられるかもしれない』と思いました」

本を書く人になるには、出版社がたくさんある東京にいかなければならない。「そのためには東京の大学に行かなければ」と杉山さんは東京大学へのチャレンジを決意する。

学習塾で教鞭をとる杉山さん。「塾に行かせているからと安心してしまう親は多いんですが、それは少し危険かもしれません。イヤイヤ行って授業を聞いたところで、学力を伸ばすのは難しい。まずはやる気を持たせることが大事です」。

親の声がけが、子どものやる気を左右する

突然「東大に行く」と言い出した杉山さんに対して、学校の先生たちは猛反対。他の学校を熱心にすすめてきたという。

「なにせ、当時の模試の偏差値は29でしたから(笑)。けれども私の親は、『なっちゃん(杉山さんの愛称)がそう思うんなら、好きにやったらいいんじゃないの〜』『なっちゃんならできるんじゃない?』とうまく私をのせてくれたんですよ。そう言われたことで、『じゃあ、いけるのかも』と思って、そこから独学で勉強をはじめたんです」

大切なのは子どもを否定するのではなく、「テンションだけを上げてあとは任せる」ことだと杉山さん。

「子どものテンションを上げるのも下げるのも、親次第。親の声がけって、すごく大切なんですよ。『勉強しなさい』『これ以上怒らせないで』などとついつい言ってしまいがちですが、こんなに意味のない言葉はない。今回の本では、同じことを伝えながら、子どもをうまくのせる言い方をご紹介しています。子どもと接するなかで、頭の片隅に『こういうときは、こう言えばいいんだな』と、少しでもお役に立てるといいなあ、と思っています」

――前編はこちらーー

杉山奈津子■1982年、静岡県生まれの作家、イラストレーター、心理カウンセラー。独学の勉強法で1浪後、東京大学理科二類に合格。中学生の頃から双極性障害(躁うつ病)に苦しみ、大学卒業後にも闘病を経験した。2020年、静岡市内に「杉山塾」を開き、代表として小学生から高校生までの学習指導にあたる。『鬱姫なっちゃんの闘鬱記』(講談社) ほか、10冊以上の著書がある。

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