ドイツのサステナブルをめぐる旅⑦ 世界遺産&フェアトレードの街・リューベックで絶品「ヌストルテ」を!
環境先進国であり、SDGs達成度ランキング2021でも世界6位にランクインしているドイツ。トラベルライターの鈴木博美さんが、そんなドイツのサステナブルを巡ってレポートします。今回訪れたのは、ドイツ北部に位置する世界遺産の街リューベック。フェアトレードタウンとしても有名なこの都市が誇る、東西1㎞ほどの旧市街をぐるっと一周します。
ハンザ同盟の盟主として栄華を極めたドイツ北の大都市
日本でも広まる「フェアトレードタウン」運動。2000年にイギリスで誕生し、いまでは世界30ヵ国以上に広がり、フェアトレードタウンの数も2000以上に達しています。なかでもドイツには805もの認定都市があります。今回訪れたのは、早くからフェアトレードタウン認証を受けている北の代表都市リューベック。フェアトレードショップや古書店、古着屋さんが街に溶け込んでいます。旧市街はユネスコの世界文化遺産に登録され、かつて「ハンザの女王」として勢力を誇った華やかな街の風情をいまに伝えています。
旧市街の入り口に建つホルステン門。リューベックのシンボル
ドイツ北部のバルト海付近に位置するリューベックは、1143年に建設された歴史ある都市。13世紀には神聖ローマ皇帝公認の自由都市として、北ドイツを中心に都市同盟「ハンザ同盟」を結成、その盟主となった。当時は貴重品で「白い金」と呼ばれた塩をはじめ、タラやニシンなどの交易で莫大な富を築いていたリューベック。旧市街の入り口に位置し、2つの尖塔を持つ堅牢なホルステン門は、街の防衛のために1478年につくられた。その後、ハンザ同盟の衰退によって17世紀には終焉(しゅうえん)を迎えるが、かつて「ハンザの女王」と呼ばれた栄華と誇りは街に生き続けている。
リューベック旧市街は1987年、世界遺産に登録。ノーベル文学賞を受賞したトーマス・マン、同じく文学賞を受賞したギュンター・グラス、平和賞を受賞した、ドイツで最も尊敬されている政治家、ヴィリー・ブラントの3人のノーベル賞受賞者を輩出した街としても知られている。
2011年よりフェアトレードタウンに認定されているリューベックは、「公正で、気候に優しく、持続可能な都市」を目指している。フェアトレードタウンとは、その町の行政や企業、商店、市民団体などがフェアトレードの支持と普及に取り組んでいる都市のこと。リューベックには30以上のショップや飲食店、施設などがフェアトレードやエコを支持しながら運営している。
ヨーロッパ最古の福祉施設
街歩きでふらっと入った「聖霊養老院」。ここは1286年創建の社会的弱者を救済する、ヨーロッパで最も古い救貧院のひとつだ。設立当初は、貧しい人々の苦しみを軽減するため尽力した、裕福で敬虔な商人や議員がたくさんいたそうだ。
ホールの壁には壮麗なフレスコ画とステンドグラス、美しい装飾の天井。内部に佇んでいるだけで厳粛な気持ちになる。奥には170の小部屋が並ぶ。当時の困窮者のシェルターで、個室があてがわれ食事も提供されていた。現在も、聖霊病院の一部は養老院及び介護施設として利用されている。
ナチュラル&オーガニックにこだわったプロダクツ
東側の運河近くの建物に入っている「Hautnah Naturwaren」は、環境にとって最善のものを選択することをモットーに、自然派化粧品やコットン、リネン、ウールなどの天然素材を使用した高品質でサステナブルな衣服や、ナチュラルでセンスのよい雑貨などのフェアトレード商品を販売している。コスメはDr.ハウシュカやプリマヴェーラ、オーシャンウェル、手づくり石鹸など、100%天然由来のオーガニックコスメが揃う。商品の詳細を英語で説明してくれるのもうれしい。同施設内には1983年創業のオーガニック・ベジタリアンカフェもあるので、ランチや休憩にも困らない。
リューベックの旧市街を歩いているとよく見かけるのが「ガング」と呼ばれるトンネルのような狭い路地。奥へ進んでみると──。
花々が咲き誇る素敵な中庭につながっていた。中世の時代、商人たちは通りに面して大きな館を建て、その奥に従業員たちが住む長屋を建てていた。いまも街には80ヵ所以上のガングが残っていて、市民の日常が垣間(かいま)見られる。ガングは民家の通路でもあるので、 マナーを守って楽しみたい。
窓ガラスに素敵な装丁の本が並ぶインディペンデット・ブックストア(独立系書店)。店内に入ってみると、女性オーナーが笑顔で挨拶をしてくれた。先客はコーヒーを片手に次に読むべき本の相談をしているようす。そんな気さくな雰囲気もいい。店内に陳列された本はすべて表紙が見えており、飾っておくだけでも素敵なものばかり。私が日本人だとわかると「三島由紀夫や谷崎潤一郎の著書も置いてあるのよ」と見せてくれた。オーナーは「とくに谷崎潤一郎の描写が好き」と話してくれた。本を通じて人と人とのつながりが生まれる。そうした偶然の出会いや体験の場があることは、街が豊かである証拠だ。
世界各国のフェアトレード製品が集結
30年間にわたりフェアトレード商品を提供し続けている雑貨店を発見。広々としたスペースにアフリカ、アジア、ラテンアメリカ、ヨーロッパの工芸品やアパレル、インテリア雑貨、楽器、香り豊かなスパイスやコーヒー、おいしいチョコレート、ワイン、コスメなど幅広い品揃えのフェアトレード品で、私たちを遠い国とつなげてくれる。気に入ったものを購入して、持続可能な社会の実現にひと役買えるのだ。バーカウンターでは、フェアトレードのコーヒーや紅茶を飲みながらリラックスしたり、フェアトレード製品について詳しく学べる。
フェアトレード コーヒー焙煎所にも立ち寄ってみた。店内に一歩踏み入れたとたん、コーヒーの芳しい香りに包まれ、思わず深呼吸。南米、ラテンアメリカ、アフリカ、アジア産など各地のフェアトレード認定のスペシャルティコーヒーのみを販売する、コーヒー好きには見逃せない場所だ。タイミングがよければ、店内にあるヴィンテージふうの大きなドラム式機械で焙煎するところを見学できる。コーヒーだけでなく、紅茶や緑茶、インテリアやキャンドル、アクセサリー、ジュエリーなどのフェアトレードの手工芸品も取り揃えている。テラスでコーヒーもいただけるので、街歩きの小休止にでも立ち寄ってみたい。
聖ペトリ教会の塔にのぼって街を一望
13世紀に創建された歴史ある聖ペトリ教会の塔の上は展望スペースになっていて、360°街を見渡せる。窓口で5ユーロを支払い、エレベーターで塔のてっぺんへ。窓からは川に囲まれた旧市街に建つ市庁舎や教会、リューベックのシンボルであるホルステン門、トラーヴェ川の遊覧船、レンガ造りで切妻屋根の家々など、世界遺産に登録された美しいリューベックの街並みが見渡せる。
リューベック名物のスイーツでひと休み
市庁舎前にある1806年創業の「ニーダーエッガー」。200年を超え世界で愛され続ける上質なマジパンスイーツは、想像を超えるおいしさ!
マジパンは粉末に挽いたアーモンドと砂糖、卵白などを混ぜてペースト状にかためた洋菓子。日本ではそのまま食べるよりも、主にケーキに飾る人形などの素材に使用されているので、マジパンに惹かれる人は多くないかもしれない。しかしヨーロッパにおけるマジパンはまるで別物。ニーダーエッガーのカフェで提供しているケーキ「ヌストルテ」は絶品! ふわふわできめ細かいヘーゼルナッツクリームをジューシーなマジパンでコーティングした、日本にはない味わいだ。これを食べずしてリューベックを去るわけにはいかない。
13~14世紀にハンザの女王と称されたリューベック。交易で繁栄を極めた街ではいま、企業や商店、市民団体などが一体となってフェアトレードを確実に広めている。リューベックは世代を通して継承される風習や考え方、価値観などが息づいた味わい深い街なのだ。
協力:ドイツ観光局 text:鈴木博美
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