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ドイツのサステナブルをめぐる旅①  超クールな世界遺産!「ツォルフェアアイン炭鉱」は圧倒的に美しい
ドイツのサステナブルをめぐる旅①  超クールな世界遺産!「ツォルフェアアイン炭鉱」は圧倒的に美しい
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ドイツのサステナブルをめぐる旅① 超クールな世界遺産!「ツォルフェアアイン炭鉱」は圧倒的に美しい

環境先進国のドイツは、SDGs達成度ランキング2021でも世界6位にランクインしています。トラベルライターの鈴木博美さんが、そんなドイツのサステナブルを巡ってレポート。第1回目の舞台は、ドイツの西部に位置するエッセン。かつては世界有数の工業地帯だったエリアで、バウハウス様式で「世界で最も美しい炭鉱」といわれた世界遺産のツォルフェアアイン炭鉱があります。この街がいま、文化や芸術の発信地に生まれ変わったとして注目を集めているそう。工業都市から緑の都市に転換した街のSDGsと、美しい自然のようすをお届けします。

世界遺産に登録されたバウハウス様式の巨大構造物

環境先進国として有名なドイツは、つかわれなくなった建築物のリノベーションや、用途を転換しての再利用(コンバージョン)を得意としている。中西部に位置するルール地方は、かつては中学校社会科の教科書にも必ず登場する有名な重工業地帯だった。だが、エネルギー革命によって重工業が衰退すると、炭鉱は閉鎖され、跡地は建物ごと残されていた。

これを官民が一体となってコンバージョン。現在は、炭鉱の建築物をそのまま活かした緑地公園や博物館、美術館などの公共スペースへと変貌を遂げている。

エッセンの中央駅からトラムで15分。エッセン・ツォルフェアアイン駅で下車すると、2本脚の巨大な第12採掘坑「Schacht Xll」が出迎えてくれる。ツォルフェアアイン炭鉱は19世紀以降、ドイツ経済を牽引してきた炭鉱のひとつであり、役目を終えた建造物を丸ごと活かしたコンバージョンの成功例として名高い。事実、2001年には「モダニズム建築によって設計された、ヨーロッパの重工業の発展期を表する人類の価値の重要な交流を示すもの」として、この炭坑業遺産群が世界遺産に登録された。

そんなツォルフェアアイン炭鉱業遺産群は、広大な敷地をABCの3つのゾーンに分け、世界中からやってくる観光客を楽しませている。Aゾーンにあるのが前述の第12採掘杭。1932年に竣工したバウハウス様式の傑作建造物として名高く、「世界で最も美しい炭鉱」と称されている。アート作品のようなフォルムと、ムダのない機能美は必見だ。

オレンジ色に光る階段は別世界への入り口

第12採掘坑のボイラー棟は、イギリス人建築家ノーマン・フォスターの設計によってリニューアルされ、デザインセンターとなっている。建物内にはレッド・ドット・デザイン・ミュージアムが併設されており、国際的なプロダクトデザイン賞「レッド・ドット・デザイン賞」の受賞作品が展示されている。

5フロアからなる 展示空間には、アウディ車のフルアルミニウムのフレームや2人乗りジャイロコプターがディスプレイされ、ロボット、キッチン、家具、日本製のカメラといった受賞作品がズラリと並ぶ。通路には古い鉄製の配管や鉄板、スチール製の階段などがそのまま残っている。巨大な工場跡地を探検しつつ、洗練されたプロダクトデザインに出合うというコンセプトは斬新だ。

第12採掘坑に併設する石炭洗浄工場跡につくられたのが、ルールミュージアム。オレンジ色の長〜いエスカレーターに乗って入り口に向かう。何だか別世界へ連れて行かれるような不思議な感覚だ。そして地上24mにあるエントランスを入ると、ビジターセンターやカフェ、ショップなどが見える。ドイツ語と英語によるガイドツアーは、ここで申し込む。ツォルフェアアインの歴史に詳しいガイドと一緒に工場を巡るのは実に楽しいし、ガイドなしでは入れない場所も案内してくれるので、絶対のオススメだ。

ミュージアム内では、溶鉱炉をイメージしたというオレンジ色に光る超クールな階段をつかい、下へ下へと降りていって見学する構成。石炭産業の歴史をはじめ、自然や文化、化石など、ルール地方に関するありとあらゆるものが展示されている。この地方には、産業の発展に伴い多くの移民が流入した。つまり、昔からダイバーシティ、異文化に寛容だったのだ。なるほど、エッセンの街を歩けば、シナゴーグ(ユダヤ教の会堂)にもモスク(イスラム教の礼拝堂)にも出くわすのはそういうワケか。

展示室のところどころに、かつて活躍した鉱山機械が残され、違和感なく溶け込んでいた。こうした空間を眺めるだけでも十分楽しめるだろう。

ミュージアムの屋上からは、緑あふれるエッセンの街並みや、遠くドルトムントのサッカースタジアムも見渡せる。かつてドイツの重工業の中心地として発展してきたこの一帯はいま、豊かな自然が広がる、文化発信の地へと変貌を遂げているのだ。

Aゾーンの東にあるBゾーン「Schacht1/2/8」には、炭鉱施設で最初にできた採掘坑1が残るほか、窓がランダムに配置されたキュートな立方体のデザイン学校「ツォルフェアアイン・スクール」がある。設計は日本の建築家、妹島和世さんと西沢立衛さんのユニット「SANAA」だ。歴史ある炭鉱建築物群に負けないインパクトはさすがだ。このゾーンには、炭鉱をモチーフにしたデザインホテルもある。

Aゾーンの北側に位置するCゾーン「Kokerei」はコークス工場の跡地。スチームパンク映画のセットのような派手な構造物が水たまりに映るさまを撮れるスポットで、これを目当てに訪れる人も多いという。カフェレストランもあり、レトロなのに近未来的な景色を眺めながらゆっくり過ごすのもオススメだ。ちなみにコークスとは、石炭を高温炉で蒸し焼きにして得られる燃料。コークスのほうが石炭より高温になるので、製鉄などには欠かせない燃料なのだ。

敷地は24時間開放されていて、ゾーン間には湿地帯や森などの自然にアート作品や遊具のある公園、サイクリンクコースなどがあり、地元民の憩いのスペースとなっている。石炭を取り出した後の岩石廃棄物を積み上げた「ボタ山」と呼ばれる丘陵には、いまでは草木が生い茂り、リス、ウサギなどの小動物たちや小鳥の住処(すみか)となっている。ハイキング気分で歩くと気持ちがいい。

その地でしか見られない「インダストリアル・ネイチャー」

時間の経過とともに、産業跡地にも自然は回復してくる。それは、以前の環境とも周辺地域とも異なる新たな自然。そのような自然環境は「インダストリアル・ネイチャー(産業的自然)」と呼ばれ、その場にしかない特別な風景をつくり出している。

かつて栄華を極めたツォルフェアアイン炭鉱は炭鉱業遺産となって、歴史を語り継がれながら、再び人の集まる場所になった。コンバージョンによって、新たな息吹が吹き込まれたからだ。昼間はもちろん、夕暮れから夜にかけてのライトアップされた姿は息を呑むほどの美しさ。ぜひ訪れてほしい。

text:鈴木博美 協力:ドイツ観光局

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